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【後日談1】竜の儀式と罪悪感と

本編後の後日談になります

※R15な内容が含まれますので、苦手な方はご注意ください。

「んーっ!」

 猫みたいに、寝床で背をつっぱれば、わたしの背中でパタパタと羽が動いた。


 あれからわたしは、イチの花嫁にしてもらって竜になった。

 とはいっても、まだなりかけなのだけれど。

 羽はイチのものより柔らかくて小さいし、角も触れれば分かる程度。尻尾もちょこっと生えてるくらいで、ものすごく短い。


「おはよう、イチ」

「おはよう」

 すでに起きていたイチにくっつく。

 動物のようにすりすりとイチに体をなすりつける。

 すると、頭にそっとイチの手が置かれた。


 優しく撫でてくれたら嬉しいのに、イチの触り方は角がどれくらい育ったか調べるためのものだ。

 それから背中の羽に触れて、尻尾の大きさを確認する。


 竜になっていくわたしが、イチは不安なのかな?

 未だに、わたしを竜にしたことに罪悪感があるんだろうか。


 どうやったら竜になれるのか、あのときのわたしは何も知らなかったのだけれど、今は知ってる。

 花嫁が竜になるためには、イチの喉元にある逆鱗と言われる桃色の鱗を食べて、竜になるための儀式をしなくちゃいけなかった。

 その竜になるための儀式は、子供を作る方法と同じで、イチから愛情をいっぱい受け取ること。


 そのやり方はイチから教えてもらったのだけれど……イチがどうして説明するとき真っ赤になっていたのかはよくわかった。

 恥ずかしかったし、とってもびっくりした。

 でも、それ以上にイチと繋がって、一つになった感覚は幸せだった。

 イチもわたしもお互いを受け入れて、他人でなくなったんだなって感じた。


 イチから愛情を受け取るたび、わたしの体は竜に近づく。

 けどイチはいつも、儀式の前にすまなさそうな顔をする。

 朝起きてからは、わたしを心配しているのか、とても甲斐甲斐しい。



 眠って起きるたび、世界が新鮮に感じる。

 わたしはそれが嬉しい。

 イチが見ている世界を、共有しているような気分になるから。

 どうやったら、今幸せだよってイチに伝わるんだろう。


「調子はどうだ?」

「もう苦しくないし、咳も出なくなったよ」

 元気だとアピールすれば、ほんの少しイチの表情が和らぐ。


「イチはわたしが竜になるの、やっぱり嬉しくないの?」

「そんなことはない。嬉しい」

 間も開けず、答えがきた。

 イチの本心からの言葉なんだろう。


「フェリが花嫁になってくれて、俺は嬉しい」

 もう一度、改めて私の目を見てイチは言った。

 真顔で言われると、照れてしまう。


「なぜ、当たり前のことを聞く?」

 イチは、質問された理由がわからないという顔だ。


「だって、いつも儀式の前にすまなさそうにしてるから。朝も落ち込んでる気がするし。竜が嫌いだって言ってたから、わたしが竜になるのやっぱり嫌なのかなって」

「あれは……」

 

 イチが視線を逸らして、もごもごと言い詰まる。

 声が小さくて聞こえない。


「フェリから人である道を奪って、竜に……自分のものにしている。そう思うと、とても酷いことをしているのに、たまらなくゾクゾクするんだ」

 懺悔するように、イチは告げた。

 叱られた後の子犬のようにうなだれて、私を上目遣いで見てくる。


「父と同じだ。ダメだとわかっているのに、フェリに夢中になりすぎてしまう。ムリをさせていると知りながら、いつも自分を止められない。朝になって反省するのに、繰り返す」


 理由がわかれば、なるほどなと思った。

 イチのお母さんである勇者は、魔王であるイチの父親によって無理矢理竜にされ、花嫁になったのだと聞いていた。


 儀式をすること自体、イチには抵抗があったみたいだ。

 だからずっと、わたしの体が限界を迎えるギリギリまで、手を出せずにいたんだろう。

 

「わたし、イチと儀式するの好きだよ? それにイチは、ちゃんとわたしを愛してくれてるでしょ?」

 そんなイチを安心させるように、座っているイチを抱きしめる。

 膝立ちになって、胸にイチの顔を抱き寄せるようにして。


「俺を甘やかすな。もっとしてもいいのかと……思ってしまう」

 どうやらイチは、あれでも抑え気味だったらしい。

 少し驚きながらも、それもまたいいかなと思う。

 イチと視線を合わせ、自分の手を重ねる。


「もっとしていいんだよ。もっといっぱい、イチから愛してほしい」

「フェリ……」

 自分からねだれば、イチがわたしの名前を切なげな表情で呼ぶ。

 距離がゼロになって、互いの唇が重なる。


 儀式は好きだ。

 普段言葉にしないことまで、イチは伝えてくれるから。

 甘やかすというより、たっぷり甘やかされているのはわたしの方だった。



 ◆◇◆


 寝ている間に、水色の卵のような膜がわたしを包んで、その中でわたしの体は変化していく。


 ある日起きたら、クリーム色だった羽や尻尾が濃い黄色に変化していた。

 いつの間にか手の中には、星空を詰めたような球があった。

 角も尻尾も長くなって、体に力がみなぎっている気がして……どうやらこれが完全に竜になった証らしい。


 イチはとても喜んでくれた。

 二人で空を飛ぶ練習をしてみたり、一緒にお出かけをしたり。

 甘い時間を楽しんだ。

 

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