■第56話 あいたい気持ち
自室でひとり、待ちに待ったミコトからの感想を読み、イツキは両腕で
頭を覆って身悶えた。
何度も何度も読み返し、必死に自分の勘違いまたは解釈違いに違いないと
心の中でひとり繰り返す。
(ここここれは、作者宛であって・・・
・・・オオオオオオレに、じゃないし・・・。)
そこにあるのは。 まるでラブレターのような、それ。
生まれてこの方、一度も貰ったことも無ければ微塵も渡す勇気がない、それ。
どんな顔して読めばいいのか、どんな体勢がベストが、正座か否か。
服装はくたびれた部屋着Tシャツのままで良かったのか、襟付きドレスコード
は無かったのか。 手洗い・うがいは済ませたから問題はない。 ついでに
歯磨きもしといた方が良かったのかもと混乱混線する脳内は噴火でもしそうで。
(な、なんだ・・・ なんなんだ・・・。
この感じ・・・
この、言葉に・・・ 文字にするとしたら、
ナンて表現するのが正解なんだ・・・?
なんて言葉が当てはまる?
小説に書くなら、なんて書く?
痛いような、息苦しいような・・・
喉の下、っつーか・・・
肺の奥、っつーか・・・
みぞおちの斜め下、っつーか・・・。
そうか、ココか・・・
・・・ココは、 心臓、か・・・。)
大きくペンダコが膨れ上がる右手で、Tシャツの上からぎゅっと心臓を
押さえた。 あまりに歯がゆい音を高鳴らせるそれに、苛立ち紛れに拳を
作ってゴツンゴツンと叩きつけてみる。
『痛てぇ・・・
まじ、心臓・・・ 痛てぇっつの・・・。』
恋の病に侵された乱れ狂う心臓は、拳で叩いたくらいじゃびくともしない。
体を屈め、かと思うとよじらせて身悶え、落ち着きなく前後に揺らしてみる。
ぎゅっとつぐんだ唇のわずかな隙間から、本音がぽろりと零れて落ちた。
『・・・ぁ、あいたいな・・・。』
そして自分のその切なげな声色に自分で照れまくって、真っ赤になった。
再び頭を抱え込んで背を丸め、溜息にも似た息をつく。
吐いた息に紛れて、再びじれったく本音が漏れる。
『 ”あいたい ”って、
なんか、他の表現ねぇのかよ・・・
もっと、こう・・・ 軽い感じ、っつーか・・・
やんわりと、つうか・・・ なんか、こう・・・。
アイツの、隣は・・・
・・・いつも隣にいるのは、 オレ、じゃねえの・・・?』
胸の痛みと、火照りに火照った頬と、爆発寸前の頭にかこつけ勢いに任せ、
イツキはガバっと立ちあがるとすぐさまケータイに手を伸ばした。
自分に悩むヒマを与えない、その光のスピード。
0コンマ1秒でも動きを止めたら、もう行動には移せなさそうな気がした。
そして、突き指しそうな勢いでそれをタップするとウルウルに潤んだ目を
見開き左耳に当てる。
爆発しそうな心臓の鼓動に混じり、冷静なコール音が耳の奥に響く。
トゥルルル トゥルルル トゥルルル トゥルルル・・・
4回目のコールで、繋がった。
『どうしたの・・・?』 ケータイの向こうの声が照れくさそうに微笑んだ。




