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■第49話 言えそうにない理由



 

 

ミコトはその日一日、イツキから ”マル秘ノート ”について何か言われる

かと思い身構えていたが、なにも、ただのひと言もなく、むしろ避けられて

いるみたいに視線すら向けられる事はなかった。

 

 

”それ ”がイツキの物だと気付いている事は隠しておかなければならない。

だから、イツキにノートを返すのは今の状況としては間違っている。

 

 

”作者 ”のノートをたまたま発見し、かばう為にミコトが身代わりになった

というテイを装ったつもりだった。 それならそれで、ミコトからイツキに

”コレって作者のだよね? ”と、隠れてこっそりその話を振っても良さそうな

ものだったのだが、うっかり余計な事まで言ってボロが出そうでなんだか怖

かった。

 

だからイツキからその件について話し掛けて来たら最低限の遣り取りをしよう

思っていたのだが、当のイツキからは何も無い。

 

 

その時イツキもイツキで、あまりに動揺しまくりミコトにその件を話し掛け、

作者本人ではないテイを装う余裕など全く無かった。 大切な大切なマル秘

ノートを落とした事にすら気付かず、ここ最近のミコトとの距離に浮かれ、

危うく公衆の面前でトップシークレットをさらしかねなかったのだ。

 

あの時ミコトが機転を利かして犠牲になってくれなければ、更に更にドツボに

はまっていたのは明白で。

 

 

本当なら、ミコトに言うのが普通なのだろう。

 

 

 

    ”アレって作者のノートだよな? ” と。

 

 

 

恋物語を読んでいる読者として興味ありげに、なんなら目でもギラギラ輝か

せて身を乗り出しマル秘ノートの中身を知りたがって然りなのに。 スルー

するのは逆に不自然極まりないと頭では分かっているけれど、それでもどう

しても直接ミコトの顔を見てそれを言えそうにない理由があった。

 

 

 

    だって、


    だって、あのノートには・・・

 

 

 

 

 

  (アイツ・・・


   なんにも言わずに、ノート持って帰ったよなぁ・・・。)

 

 

 

ミコトに見せたくない、決して見られてはいけない歯がゆい想いが溢れる

ほどに綴られているのだから。

 

 

 

  (読むよなぁ・・・


   帰って、ぜってぇ 読むよなぁ・・・ 

 

 

   相関図だけで止まる訳ねぇよなぁ・・・

 

 

   最初から最後まで熟読するよなぁ、アイツなら・・・。)

 

 

 

 

  『し・・・ 死んだ、オレ・・・


           ・・・つか、殺してくれ・・・。』

 

 

 

放課後になっても突っ伏した顔を上げられず、下校してもう空っぽのミコトの

机をギロリと恨めしそうな細目で見つめていた。

 

 

 


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