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■第46話 イツキの秘密


 

 

 『サエジマァァァアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

 

遠く廊下の先に佇む関係ない生徒まで振り返る程の、その絶叫。


イツキ自身、今まで生きてきた17年間で一番大声を張り上げているかも

しれないと、どこか他人事のように耳に響く自らのそれを聴きながらも

腕を振り大きく脚を蹴り上げて必死に廊下を駆ける。

 

 

辺り一面みな動きを止め、まるでこの世界で動いているのはイツキひとり

だけの様だった。 

 

 

 

否。 それは、もうひとり。

 

 

 

ミコトがそれを待っていたかのように、慌てて振り返る。


顔のスウィングに髪の毛先が連動して揺れ、じれったく頬にかかる。

途端に赤く潤んだ目で、自分の名を叫びながら駆け寄って来るその姿を

じっと見つめた。

 

 

 

  (カノウ・・・。)

 

 

 

息を切らせて目の前に現れたイツキは、猛烈に駆けたその苦しさに顔を歪め

上半身を屈めて大きく大きく呼吸をしている。 乱れた息に中々二の句を継

げずに、ただただ、ゼェゼェと全身を上下させて。

 

 

すると、ソウスケがイツキとミコトの間に割って入り目を眇めて言った。

 

 

 

 『なに・・・?


  今からサエジマさんに話があるんだけど・・・。』

 

 

 

ソウスケらしくないキツく冷たい口調で言い捨てると、『行こう。』 と

ミコトへ向けて廊下の先を視線で促す。

ミコトはソウスケに目を向け、そして弱々しい視線で再びイツキを見つめた。

 

 

イツキは追いかけて来たもののなにも言えず、ただただ苦しそうに荒い呼吸

を繰り返している。 

 

 

 

  (ここで止めなきゃダメだろ・・・


   ・・・なにしに来たんだよ、オレ・・・。)

 

 

 

屈めた上半身を支える膝に当てた手が、やり場なく震えた。

 

 

すると、ガバっと体を起こしイツキが思い切りミコトの手首を掴んだ。

 

 

 

 『わ、悪りぃ。


  ・・・ちょっと急用があんだ・・・。』

 

 

 

そうソウスケに告げるとミコトの腕を引いて、元来た道を再び駆け出した。 


呆然とするソウスケをひとりその場に残し、ふたりは静かな廊下を駆ける。 

ミコトもなにも言わず頬を染めてそれに続いた。

 

 

イツキの大股で駆ける足音と、ミコトの引き摺られるような小さなそれが

磨き上げられた廊下の床面を跳ねてゆく。 誰も追って来てなどいないのに

ふたりはまるで誰もいない所へ逃げ出そうとでもするかの様に無言で駆けた。


ミコトの細い手首をしっかり掴むイツキのゴツい手は、ハッキリそれが分かる

くらいにガタガタと切ないほど震えていた。

 

 

 

 

ソウスケは嘲笑うように頬を歪め、ひとり、誰もいない教室へ戻った。

そしてカバンの中に忍ばせていたイツキのマル秘ノートをそっと取り出す。

 

 

なんだかよく分からないが、イツキの秘密が詰まったそれ。

イツキを困らせるには丁度いい、それ。

 

 

冷酷な目でそれを見つめ、黒板の前へとまっすぐ進む。


そして黒板消しを置く粉受けの部分にノートを立て掛けると、白いチョークを

指先で掴み黒板に文字を書いた。

静まり返った教室に、チョークが黒板に削られる音だけカツカツと小さく響く。

 

 

 

  ”なにコレ?笑 ”

 

 

 

立て掛けたノートに向け白い矢印を書き込んで、静かにチョークを置いた。

指先についた白い粉をパンパンと払い落とす。

 

 

ソウスケの頬が怒りと悔しさで真っ赤に染まり、歪んでいた。

 

 

 


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