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■第44話 マル秘ノート


 

 

とある放課後、イツキの元へソウスケが近寄って声を掛けた。

 

 

『カノウ・・・ ちょっと、いい?』 教室ではなく別の場所に移動して

話したいという空気を察し、イツキはソウスケから自分になんの話がある

のか想像もつかなかったが、言われるままに教室の戸口を抜けソウスケに

続いて廊下を歩いた。

 

 

ソウスケがまっすぐ前を向いたまま、『急に、悪いね。』

定規ではかった様な美しい姿勢で、数歩後ろを歩くイツキに背中で呟く。


『んぁ? いや、別にいーけど・・・。』 訳も分からないまま、イツキ

は小首を傾げながら放課後の廊下を促される方向へと向かっていた。

 

 

ひと気の無い調理実習室があるエリアで足を止めたソウスケ。


くるり振り返ると、内履きのゴム底が床面に擦れてキュっと鳴った。

その瞬間、まるでイツキを睨むようにまっすぐ見眇める。


『な、なに??』 その射るような視線に耐えられず思わず顎を引く。

するとソウスケは、途端に自信なさそうな表情と声色に変わった。

 

 

 

 『ぁ、あのさ・・・


  カノウって・・・ サエジマさん、と・・・


  ・・・つ、付き 合ってるの・・・?

 

 

  サエジマさんの、こと・・・ 好き、なの・・・?』

 

 

 

意を決したように真っ赤になって真剣に問うソウスケに、イツキは思い切り

戸惑って狼狽えた。 そんな事訊かれるなんて夢にも思っていなかった。


なんて返したらいいの分からず金魚のように口をパクパクさせ、やけに高速

の瞬きを繰り返して。

 

 

すると、慌ててイツキは言い捨てた。

 

 

 

 『べべべ別に・・・ そんなんじゃねーよ!!


  ”おな中 ”だってだけで・・・ ぜんっぜん、そんな・・・。』

 

 

 

『なら、良かった・・・。』 ソウスケがホっとした様に胸を撫で下ろす。

目でも潤ませているのではないかと思う程の、その安心して緩んだ顔。

 

 

 

 『カノウってサエジマさんと仲良いだろ・・・?


  だから・・・ ちょっと心配になっちゃって・・・

 

 

  実は、 あの・・・


  ・・・サエジマさんに告白しようと思ってるんだ、ボク。』

 

 

 

『ぇ・・・。』 そこから先はなにも言葉が出てこなかった。


それは、イツキとミコトの仲を確認する為だけではない、明らかにソウスケ

がイツキに対して布石を打ったという事な訳で。 一手早く先回りした訳で。

 

 

 

 

 

ソウスケはどこかご機嫌に教室までカバンを取りに戻る。


その背中はやけに弾んで見えて、放っておいたらスキップでもしそうなそれ。

遠く吹奏楽部が練習する各々の担当パートのメロディが、途切れ途切れに響き

それに合わせるようにソウスケが小さく鼻歌を歌う。


対照的にイツキはぼんやりと足元を見ながら踵を擦っていた。

 

 

 

  (オレだって・・・


   アイツのこと好きだって、言えば良かったのか・・・。)

 

 

 

なんだか取り返しのつかない事をしてしまった気がして、気が重い。


今からソウスケに言おうか、さっきの件だけどと蒸し返そうか。

でもソウスケに言ったところでどうなるのか。 その件を言わなければならない

相手は本当はソウスケではないのだから、牽制しあう意味はあるのか。


イツキは悶々と考えあぐねていた。

 

 

動揺しまくったイツキは教室に戻ると、机の中から乱雑に物を引っ掴みカバンに

詰め物思いに耽ったような面持ちで、『じゃ。』 ひと言ソウスケに呟くと、

教室を出て行ってしまった。


『ぁ、うん。じゃあ・・・。』 軽く手を上げたソウスケは、明らかに覇気の

ない気怠いその背中を物言いたげにじっと見送る。

 

 

ソウスケは小さく息をついて、ふとイツキの机に目をやるとその引出しから

大学ノートが1冊はみ出して覗いているのが見えた。

引出しに押し込めてあげようとそれに触れたソウスケの目に、気になる文字

が飛び込んで来た。

 

 

 

      ”マル秘 ”

 

 

 

それはイツキが物語をしたためる時に用いるフレーズ帳だった。


いいフレーズやシチュエーションが浮かんだ時にすぐさまメモ出来る様に

常に常にカバンに忍ばせているイツキのマル秘大学ノート。

 

 

マル秘と堂々と書かれたら、さすがにそれを手にした方は気になって仕方

なくなるのは人間の性というもので。

ソウスケは暫し罪悪感と闘いつつも、掴んだまま離せずにいたそれをそっと

開いてみた。

そこには、なんだかよく分からない人間関係や構図、相関図が記されて

いてソウスケは小首を傾げてそれをパラパラと流し読みする。

 

 

 

 『ん・・・? ”サクラ咲く アカル散る ”・・・??』

 

 

 

しかし、ページの後ろに進むにつれそこにはある特定の人物のことを書いた

のであろう記述がどんどん増えていった。

 

 

 

  そこには、伝えられない想いが溢れる程に書き記されていた。

 

 

 

  (・・・やっぱり、そうか・・・。)

 

 

 

イツキが想いを寄せるその ”特定の人物 ”が誰か分からないはずもない

ソウスケ。 思わずノートを掴んだ指先に力が入ると、ビリビリに破いて

やろうかと一瞬ためらい、しかしそうせずにもう一度前半部分の謎の相関図

に目を落とす。 イツキが必死に書き記しているそれを、じっと。


そしてその大学ノートを自分のカバンに乱暴に詰め込むと、引き攣る頬を

いなしもせずソウスケは冷たい表情のまま教室を後にした。

 

 

その時、ソウスケからの宣戦布告に動揺しまくるイツキは、大事なマル秘

ノートが無いことになど全く気付かずにいた。

 

 

 


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