■第43話 不完全燃焼のキモチ
気恥ずかしくて緩んでいく頬を堪えきれないまま、イツキはダッシュして
昇降口まで駆け戻った。
すると同時にミコトも肩口のセーラーを翻し、パタパタと内履きの靴音を
響かせやって来た靴箱付近は、下校する生徒がまだまだ多い時間帯。
邪魔にならないよう昇降口の端に移動すると、ふたり、やけに照れくさ
そうに向き合ったまま黙った。
昇降口脇には水道の蛇口に繋がれたままの緑色ホースがだらしなくダランと
垂れ、横長のプランターにはパンジーの花が退屈そうに佇んでいる。
別に珍しくもないそれらに必死に目を向けているふたり。
その恥ずかしくて仕方ない空気を払拭しようと、ミコトがわざとツンと顎を
上げケータイを掴む手をイツキの脂ぎった鼻の前に突き出す。
『ミルクティ1本ね。』
『あぁ?!』 ミコトからケータイを受け取ると、イツキは半笑いで
ミコトから飛び出した ”お礼 ”という名の強引な要求に異議を唱える。
ミコトも笑いそうになるのを必死に堪え真顔を作り、まっとうな要求だと
言わんばかりに胸を張って目を眇めた。
『あー・・・ 口に出したら飲みたくなった~・・・
早くおごってよ!! ほら、行くわよ 公園っ!!』
『今っ???』 ミコトの傍若無人な言動に、目を見張りせわしなく瞬き
をする。 しかし、そんなミコトらしい我がままさえ愛おしくて堪らない。
『そう、今! ほら、早くぅ!!』 その場で足踏みするように急かす
ミコトに我慢出来ずにイツキはぷっと吹き出した。
『オレの小遣いが、お前のミルクティ代で消えるじゃねーかよっ!!』
そう憎まれ口を叩く割りには、その頬はだらしなく緩んでゆく。
そして尻ポケットに入れている財布を確認しようとして、そこには何も
無いことに気が付いた。
(ぁ・・・。)
『てか、オレ 今日財布忘れたんだった・・・。』 おごらされるくせに
明らかにガッカリと肩を落とし、ガシガシと寂しげに後頭部を掻きむしる。
せっかくのミコトとの公園タイムがふいに流れてしまって、どうしても
しょんぼりする気持ちを隠しきれないまま、『今度な。』 小さく呟いた。
『え~・・・。』 ミコトもまた、イツキとふたりで公園に行く口実を失い
不満気に口を尖らせ眉根をひそめていた。 自分の口から出た巧い口実に
内心踊る心を我慢しきれずにはしゃいでいたというのに。
ふたりの間に、不完全燃焼のキモチだけやり場なく浮かぶ。
ミルクティがあろうが無かろうが、別にいいのに。
公園じゃなくても、どこでも。
ふたりでいられれば、それでいいのに。
そんなふたりの様子を、ソウスケが靴箱の陰から睨むように見ていた。




