表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/68

■第43話 不完全燃焼のキモチ


 

 

気恥ずかしくて緩んでいく頬を堪えきれないまま、イツキはダッシュして

昇降口まで駆け戻った。


すると同時にミコトも肩口のセーラーを翻し、パタパタと内履きの靴音を

響かせやって来た靴箱付近は、下校する生徒がまだまだ多い時間帯。

邪魔にならないよう昇降口の端に移動すると、ふたり、やけに照れくさ

そうに向き合ったまま黙った。

 

 

昇降口脇には水道の蛇口に繋がれたままの緑色ホースがだらしなくダランと

垂れ、横長のプランターにはパンジーの花が退屈そうに佇んでいる。

 

 

別に珍しくもないそれらに必死に目を向けているふたり。

 

その恥ずかしくて仕方ない空気を払拭しようと、ミコトがわざとツンと顎を

上げケータイを掴む手をイツキの脂ぎった鼻の前に突き出す。

 

 

 

 『ミルクティ1本ね。』

 

 

 

『あぁ?!』 ミコトからケータイを受け取ると、イツキは半笑いで

ミコトから飛び出した ”お礼 ”という名の強引な要求に異議を唱える。


ミコトも笑いそうになるのを必死に堪え真顔を作り、まっとうな要求だと

言わんばかりに胸を張って目を眇めた。

 

 

 

 『あー・・・ 口に出したら飲みたくなった~・・・


  早くおごってよ!! ほら、行くわよ 公園っ!!』

 

 

 

『今っ???』 ミコトの傍若無人な言動に、目を見張りせわしなく瞬き

をする。 しかし、そんなミコトらしい我がままさえ愛おしくて堪らない。

 

 

『そう、今! ほら、早くぅ!!』 その場で足踏みするように急かす

ミコトに我慢出来ずにイツキはぷっと吹き出した。

  

 

 

 『オレの小遣いが、お前のミルクティ代で消えるじゃねーかよっ!!』

 

 

 

そう憎まれ口を叩く割りには、その頬はだらしなく緩んでゆく。


そして尻ポケットに入れている財布を確認しようとして、そこには何も

無いことに気が付いた。

 

 

 

  (ぁ・・・。)

 

 

 

『てか、オレ 今日財布忘れたんだった・・・。』 おごらされるくせに

明らかにガッカリと肩を落とし、ガシガシと寂しげに後頭部を掻きむしる。


せっかくのミコトとの公園タイムがふいに流れてしまって、どうしても

しょんぼりする気持ちを隠しきれないまま、『今度な。』 小さく呟いた。

 

 

『え~・・・。』 ミコトもまた、イツキとふたりで公園に行く口実を失い

不満気に口を尖らせ眉根をひそめていた。 自分の口から出た巧い口実に

内心踊る心を我慢しきれずにはしゃいでいたというのに。

 

 

ふたりの間に、不完全燃焼のキモチだけやり場なく浮かぶ。


ミルクティがあろうが無かろうが、別にいいのに。

公園じゃなくても、どこでも。

 

 

 

  ふたりでいられれば、それでいいのに。

 

 

 

そんなふたりの様子を、ソウスケが靴箱の陰から睨むように見ていた。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ