■第40話 四つ葉のクローバー
照れくさそうにふたりベンチに並んで座ってドリンクを飲みながら
ミコトはイツキの制服ズボンのポケットからほんの少しだけ覗く、
可愛らしい包みを横目でチラチラ見ていた。
(ちょーだいよねぇ・・・ もぅ・・・。)
思わず我慢できなくなって、思い切ってミコトは手を伸ばした。
そして指先でカラフルなラッピングペーパーの先端を摘み引っこ抜く。
『ん??』 ポケットの中身が動く感触に、イツキがギョっとして目を
遣るとミコトが夏休みのこどものようなキラキラした目をして言った。
『なにコレ?! アンタの??』
目の高さに上げて小さな包みを微笑みながら見つめている。
『ぇ、あ。 ん・・・ いや、ん。』 慌てまくって煮え切らない
反応しか返せないイツキに、ミコトは更に詰め寄る。
『え~・・・
いいなぁ、可愛いなぁ~・・・ いいなぁ~・・・。』
かなり大袈裟に声を上げ、包みを色々な角度から眺めてみる。
チラリ、イツキを盗み見て半笑いでその反応をこっそり伺っている事に
未だ絶賛・シドロモドロ中のイツキは全く気付いていない。
その時、イツキは棚ぼた的流れにただただ驚いていた。
ミコトに渡したくて用意していたプレゼント。 しかし渡す勇気もなけ
ればそのタイミングも。 その前に、受け取ってもらえるかも分からず
ミルクティをあげられた事だけでもう充分だと諦めていたのに。
(な、なんだこの流れ・・・
”棚ぼた ”っつーより、”天ケーキ ”じゃね??
オレ・・・ どんだけオコナイ良いの・・・??)
そして、たった今思い付いたかのように呟いた。
『ぇ、あの・・・
・・・やろうか・・・? オレ、別に要らねーし・・・
や、やるよ・・・ お前に・・・。』
ミコトへ向けて勇気を振りしぼってボソっと呟いた瞬間 ”しまった!”
と言う顔をして俯いた。 まるで不要品だからあげるみたいな言い方で
勝気なミコトの気に障るに違いない。 また怒らせてしまうかもと、
情けない困り顔をして首の後ろに手を置きガシガシ掻きながら、怒鳴ら
れる覚悟を決め身構えた。 身構えながらも、ミコトが怒るときに必ず
できる愛しい眉間のシワを想って、ちょっとニヤそうになるのを堪える。
すると、即座にミコトはそれに答えた。 『ほんとっ?!』
この流れを想定して掛けたひと言だったのだ、ここでYESと言わない
はずはない。 やっと自分の手の平の中にやって来た可愛い小さな包みに
ミコトは嬉しそうにはしゃぎながら目を細めて微笑んでいる。
『ぁ、ああ! ほら、丁度・・・ お前 誕生日だし、な・・・
丁度いいっちゃー、丁度いいわ。 うん、丁度いい・・・。』
怒鳴られるはずがその真逆の展開に、イツキは目を落としていた汚れた
スニーカーの爪先から目を見張って顔を上げる。 ミコトの笑顔を見つめ
嬉しくて堪らず、ポーカーフェイスを装うのも忘れるくらいにイツキも
微笑んだ。
『中、見てもいい?』 言ってから、ミコトは照れくさそうに俯く。
中身を欲しがるのが普通であって、ただラッピングが可愛いからと言って
こんなに欲しがるのは無理があったかもしれない。 しかし、鈍感でアホ
なイツキのことだ、この少し無理がある展開にも気付きはしないだろう。
丁寧に慎重に可愛らしいラッピングの包みを開けてみると、ミコトの指先
にやさしく摘まれて出て来たのは、四つ葉のクローバーのしおり。
それは、銀色の金属製しおりで本のページに引っ掛けると四つ葉が背文字
部分に垂れて可愛らしく佇むもので。 四つ葉はアクリルコーティングが
されていて硝子のように明るく光り水滴がついているかの如く瑞々しい。
指先でチョンとつつくと、小さな輝く四つ葉が照れくさそうに揺れた。
ミコトは、瞬きも忘れてそれを見ていた。




