■第3話 感想の伝え方
『ねぇ、ところで・・・
どうやって感想伝えたらいーと思う・・・?』
ミコトが茶封筒の表に書いてある ”感想お願いします ”の達筆な一行を
指先でなぞって隣のイツキに目を遣った。
イツキ自身ウットリするくらい達筆なそれ。
なんせ書道の段を持っているのだ。 原稿用紙に綴られた文字も、もれなく
美しい流れるようなそれだった。
昨夜の時点ではその横に出版社名と住所を書き、自分宛の返信用封筒も同封
しようとしていたそれ。
まさかミコトに感想を訊ねることになるなんて思いもしなかったイツキは、
次から次へと発生する諸問題に、目を白黒させてひとりアタフタ取り乱す。
背筋の寒さ具合で言えばもうゆうに北極圏に到達し、シロクマあたりガップリ
背負っているような気分さえする。
しかしそんなイツキになど目もくれず、ミコトはどんどんひとりで考えて
先に進んでゆく。
『アタシの机の上に置いてたって事は、
やっぱアタシに感想ききたいって事だよね・・・?
読んだら感想文でも添えて、また机の上に置いたらいいかな・・・?
でもね!でもねっ!
忘れ物だと思って他の人に回収されちゃったら困るじゃん?
机の中に入れておけばいーかな・・・?
そうだよね! 机の中に入れておくことにしよう!!
でも・・・ 気付くかな? 気付くよね? ダイジョーブだよね??』
イツキにひと言も喋らせず、勝手にひとりで自己完結してゆくミコト。
二人三脚のつもりでいるイツキをスタートラインで取り残し、その脚を
結わえた縄などブッた切ってミコトはマッハのスピードで駆けてゆく様で。
追い掛けようにもイツキの靴の踵はこんな時もやはりパカパカで。
『ってゆうか・・・
なんで、アタシだったんだろ・・・?』
(いや、たまたま置き忘れただけデス・・・。)
『あっ!!
アタシが恋愛小説好きだって知ってる人が作者なのかも・・・。』
(いや、お前がコレ系好きかなんか知らんし・・・。)
『きっと、この人って
アタマ良くて、メガネで、真面目で・・・
清潔感のある優等生なんだろうなぁ~、ゼッタイ・・・。』
(えーぇと・・・ 今、隣にいるのがソレなんですが・・・。)
まるで隣に腰掛けるイツキなど目に入っていないかの様に、うっとりと目を
細め遠くを見澄まして自分の世界に籠りミコトは原稿を胸にぎゅっと抱く。
すると暫し頬を桜色に染めて乙女を満喫していたミコトは、やっとイツキの
存在を思い出し、ジロリとまるでゴミ屑を見るような目線を向けて言った。
『てゆーか・・・ アンタも、感想書きたいの・・・?』
それは ”書きたくないよね? ”という意味合いが随分強く込められている
様な口調だった。
自分が書いたものに自分で感想文を書くなんて可笑しな話なのだが、その
ミコトの言い振りに、それはそれでなんだか引っ掛かるものがある。
ミコトが感想を机に入れておいてくれるなら別にそれでいいはずなのだが、
実際に文章を読んで、嬉しそうに目を輝かせたり哀しげに目を伏せたり、
表情をコロコロと面白いように変化させる様を作者として直接見ていたい
という気持ちが湧いていた。
『オレは別に感想は書かないけど・・・
・・・オレも、出来れば・・・ ソレの続き、読みたい、カモ・・・。』
すると、ふんっと再びミコトは鼻を鳴らした。
そしてイツキの顔の前に人差し指を突き付けると、矢継ぎ早な出来事に脂汗が
テカる鼻頭に指先がくっ付きそうになった。
眉根をひそめ、真剣な眼差しでミコトは言う。
『アタシは、この話が大っっっ好きなのっ!!
だから、馬鹿にするようなこと言ったりしたら
二っっっ度と見せないから ・・・それだけは覚えといてっ!!』
『は、はい・・・。』 思わず背筋を正してイツキがペコリと会釈した。
とんでもない愛読者が出来たもんだと、呆れたような困ったような面持ちで
しかしやはり照れくさく緩んでゆく頬がジリジリと熱くなるのを感じていた。