■第38話 格好つけたがるその不器用な姿
(公園・・・??)
ミコトは生垣から腰を上げると、ケータイを耳に当てたまま公園内に
飛び込んだ。
然程大きい公園ではない、そこ。 ありふれた遊具と、中央の噴水。
そして、先日ふたりで座ったベンチにイツキがケータイを耳に当て背中
を丸めて座っているのが見えた。
俯いてミコトと通話しているイツキは、公園出入口にミコトがいる事に
気付いていない。 ベンチから投げ出した薄汚れたスニーカーの足を蹴
とばすように前に出し、なんだかすねた迷子のこどもの様にうら寂しげ
に背中を丸めている。
ミコトは咄嗟に出入口の生垣に身を潜め、こっそり様子を伺いつつ通話
を続けた。
『なんで公園にいるのよ・・・?』
『いや、別に・・・
・・・ただちょっと・・・ 散歩、っつーか・・・。』
明らかに学校帰りの学ラン姿で、ぼんやりとベンチに座るイツキをミコト
はそっと見つめる。
(ずっと、待っててくれたのかな・・・。)
急に胸に込み上げた正体不明の熱いものに、鼻の奥がツンとして眉根を
ひそめた。 そっとケータイを口許から離して、大きく深呼吸をする。
『今日は・・・ ごめんね・・・
・・・ルール、破っちゃって・・・。』
普段は決して非を認めない勝気なミコトの口から出た素直なそれに、
イツキはかなり戸惑った。 耳に聴こえたその声色はなんだか涙声のよう
にも感じて。
『いや、あの・・・ 別に。
・・・つか、 今朝はオレもちょっと、アレだったし・・・。』
こっそり隠れて見つめるミコトの目に、イツキが照れくさそうにガシガシ
と後頭部を掻いているのが映る。 その飾らない姿に、思わず頬が緩んだ。
すると、小さくミコトは呟いた。
『今から、公園行く・・・
・・・丁度、すぐ近くにいるから・・・。』
言った瞬間、自分でも一気に頬の熱が上がるのが分かった。
ケータイを当てる耳も、指先もなにもかもがジリジリ熱い。
なんだかその熱は目にまで沁みる様で、せわしなく瞬きを繰り返すミコト。
『あぁ! ぅ、うん・・・ わかった。
・・・まだ、あの・・・
ゼンゼン・・・ オレもここに、いるし・・・。』
再びそっとイツキに目を遣ると、なんだか落ち着きなくカバンに手を突っ
込んでいる。
不思議そうに小首を傾げそれをじっと見つめるミコト。
すると、その目に映ったもの。
それはイツキの大きな手に握られ現れた可愛らしい小さな包みだった。
それを制服ズボンのポケットに押し込んでみたり、学ランの内ポケットに
しまってみたり、そうかと思うと再びカバンに押し込めたり。
ミコトはそれを、生垣の陰からまっすぐ見ていた。
格好悪いくせに格好つけたがるその不器用な姿を、じっと。
(もう・・・ なんなのよ、ほんと・・・。)
イツキとまだ繋がっているケータイを胸にそっと押し付けて抱くと、
ミコトはぎゅっと目を閉じた。
その瞬間、ずっと我慢していた透明な雫がひと粒、頬を伝い転がった。




