表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/68

■第36話 プレゼント


 

 

放課後。 

相変わらず静まり返った図書室に、どこか居場所なげに並んで座るふたり。

 

 

なにかを察している気配は互いに伝わり、しかしどちらも切り出す事が

出来ずただただ手持無沙汰に本のページをめくったり戻ったりしていた。


ソウスケがやたら大切そうに抱えるサブバッグのチャックに、指を掛け

かけて止まる。 思わずミコトはその動作を横目で盗み見て、慌てて前を

向き気付いていないフリをした。 

 

 

 

  (迷惑だったら、どうしよう・・・


   ・・・貰ってくれるかな・・・ サエジマさん・・・。)

 

 

 

すると意を決したようにひとつ息をつき、ソウスケはサブバッグを膝の

上に置き直してチャックをスライドし中から可愛らしい包みを取り出す。

それをまっすぐミコトに差し出すと、ゴクリという息を呑む音が響いた。

 

 

 

 『た、誕生日・・・ おめでとう・・・。』

 

 

 

気の毒なほど真っ赤になって目まで潤んでいるソウスケの顔を、ミコトは

まっすぐ見ることが出来なくて、慌てて目を逸らし両手を出してしずしず

とそれを受け取る。

 

 

『ぁ、ありがとう・・・。』 ミコトはペコリ頷くと小さく目を上げた。


誕生日のプレゼントなど今まで何度も貰ったことはあるけれど、こんなに

照れくさそうに真っ赤になられた事はない。 ソウスケが赤面する理由を

考え自意識過剰ではないはずだと、ミコトは手の中の包みを見つめた。


きっと内気で奥手なソウスケのことだ、女の子にプレゼントを渡すなんて

生まれてはじめてのことだろう。 渡されたそれは、ソウスケの緊張から

くる手汗で少ししっとりしていた。

 

 

有難いという素直な気持ちに混ざり、申し訳ないという本音が顔を出す。


手の中で佇むソウスケからのそのやさしい重みを、肩を落としたように

微動だにせずじっと見つめているミコト。

いつまで経ってもそれを開けて見ようとしない様子に、ソウスケが言い訳

する様にやたら早口でまくし立てた。

 

 

 

 『ほら! この間、授業中に誕生日言わされてたでしょ・・・?


  だから・・・ あの・・・ いつも一緒に図書室に来てるし・・・

 

 

  図書室付き合ってもらってお世話になってるってゆーか・・・


  ・・・サエジマさん、本、好きだし・・・

 

 

  だから、あの・・・ それ、今すごい流行ってる推理小説なんだ!


  すごい面白かったから・・・ だから、あの・・・。』

 

 

 

『ありがと・・・。』 声のトーンを落とすことも忘れるくらい余裕が

なくなって息荒く畳み掛ける、いつもは冷静なはずのソウスケをミコトは

小さく微笑んで見つめた。


可愛いラッピングの包みをそっと開き、中からハードカバーを取り出すと

その硬い表紙をそっと指先で撫でる。

 

 

 

  (アタシ・・・ 


   ・・・推理小説なんか、ゼンゼン読まないんだけどな・・・。)

 

 

 

ソウスケがくれた今テレビや雑誌で話題の推理小説。

確かナントカ賞も受賞した有名作家の作品で、本屋に平積みになっていた。

 

 

それをぼんやり見つめていた。

 

 

見つめながら、机の上に置いたカバンの中に大切に大切に忍ばせた茶封筒を

想った。 朝早くミコトの机に忍ばされたそれを、そっと。


大好きな恋愛モノのそのお話を、イツキが懸命に綴るその原稿を、やわらかい

えんぴつのその文字を、怒ったような今朝のイツキの顔を。 

 

 

ミコトは想って、思わず泣きそうになった。

 

 

 

  (ふたりで・・・ 早く読みたいな・・・。)

 

 

 

そっと窓辺に目を向けると、今日は目映い程の夕日は雲の陰に隠れて姿を

見せてはくれなかった。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ