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■第33話 誕生日の日付


それは英語の授業終了間際のことだった。



またしても嫌な課題を出していた英語教師が、授業終了後にノートを集める

係を選出しようと脂ぎってテカった頬を歪ませてニヤリと笑う。




 『じゃぁ~・・・


  ・・・今月誕生日のヤツ。 はい、その場で挙手っ!』




生徒たちは皆この教師の選出方法を愉しんでなどいないというのに、それに

気付かぬこの独身ハゲ頭は、まるでゲームのようにひとり意味不明に浮かれ

ている。 ”空気が読めない ”とはこうゆう人間のことを言うのだとみな

揃って露骨に嫌な顔をしていた。



”誕生日 ”というキーワードに、苦い顔をして渋々手を挙げるその中に

ミコトの顔もあったのを、イツキは見逃さなかった。

 

 

 

   (アイツ・・・ 今月、誕生日なんだ・・・?)

 

 

 

すると、教師が手を挙げた一人一人に何日生まれか言わせはじめた。


『13日です。』『5日~。』 そして、最後のひとりミコトが日付を

言おうとしたその顔を見て、教師は思い出したように告げる。

 

 

 

 『サエジマはこの間ノート係やったばかりから、免除だな。』

 

 


  

    ガタンっ!!

 

 

 

聞けると思って少しワクワクしていたミコトの誕生日をふいに流されて、

イツキは無意識のうちに膝で机の裏側を思い切り蹴り上げてしまった。

 

 

 

   (な、なんでだよ・・・ 言わせろよな・・・。)

 

 

 

自分が発してしまった大きな音に照れ隠しに慌ててヤル気がなさそうな

顔で机に突っ伏したイツキを、教師は目を眇めて視線を向け迷惑そうに

小さく舌打ちをする。

 

 

そして気が変わった様に『まぁ一応訊いとくか。 サエジマ、何日だ?』

 

教師のそれに、思い切り怪訝な顔を向けてミコトは呟いた。 『24。』

 

 

そんなのどうでもいいフリをして、興味ない顔をして、聞いてないテイで

机に突っ伏す気怠いイツキの机に隠れた顔はほんの少しニヤけていた。 

広げたノートの隅に小さく ”24 ”とメモると、その数字をシャープ

ペンシルの細い鉛色でグルグルと囲む。

 

 

 

  (誕生日かぁ・・・。)

 

 

 

ミコトになにかプレゼントしたい気持ちが急激に込み上げ溢れる。


今すぐにでも候補探しをしたい。 

自宅でパソコンに向かい ”JK 誕生日プレゼント ”で検索したい。

そして駅前のデパートに偵察に向かいたくて堪らないイツキのシャープ

ペンシルを掴む指先が、落ち着きなく高速でノートに黒点を記してゆく。  

 

 

 

  コツコツコツコツ コツコツコツコツ・・・

 

 

 

  (なにがいいんだろ、なにがいいんだろ・・・


   つか、女子にプレゼントなんかしたことねーしな、オレ・・・

 

    

   てか、その前に


   なんつって渡すんだよ・・・

 

 

   オレが急に誕生日にモノ渡したりしたら、


   アイツに100パー ドン引かれんじゃね・・・?)

 

 

 

  コツコツコツコツ コツコツコツコツ コツコツコツコツ・・・

  コツコツコツコツ コツコツコツコツ コツコツコツコツ・・・

 

 

 

すると、バコンという破裂音と共にイツキの頭頂部にまたしても鈍い痛みが

走った。 ”プレゼントを渡すなにか巧い理由 ”を考えあぐね悶々とする

その顔をムクっと上げると、例の如く教師が教科書を丸めてすぐ横に立ち

コツコツとペン先を打ち続けているイツキを睨んでいる。

 

 

 

 『うるっさいんだよ、カノーォウ・・・


  なにコツコツやってんだ、俺の授業の邪魔してくれるな!

 

 

  ・・・ノート係は、やっぱりお前な。』

 

 

 

その遣り取りに教室中に笑い声が響く中、最前列のソウスケも振り返って

笑っていた。


ソウスケの机に広げた几帳面にまとめられたノートの隅にも ”24 ”と

いう数字がしっかり記されていた。

 

 

 


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