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■第30話 公園での待合せ


 

 

 『えっ? えーっと・・・


  今は、まだ・・・ 歩いてる、けど・・・。』

 

 

 

突然掛かって来たミコトからの電話に、イツキは思い切り動揺していた。


定規を当てられた様に急にシャキンと伸ばした背筋は、まるで教師に叱られ

廊下に立たされる小学生のそれ。

 

 

戸惑いながらもミコトからの電話が嬉しくないはずもなく、思わず人差し

指でポリポリと頬を掻くと、小脇に挟んで抱えていたカバンがストンと

足元に落ちて中身がアスファルト上に散らばった。

 

 

 

 『新作は一緒に読むってルールでしょ!!


  なに勝手にルール変更してんのよ・・・ カノウのくせに・・・。』

 

 

 『く・・・ くせに、ってナンだよ!!』

 

 

 

そんな小憎たらしい悪罵でさえ、イツキの耳をこれでもかと言うくらいに赤く

染める。 ミコトもケータイに向かって敢えて憎まれ口を叩きながら少し俯い

て笑いそうになる頬を必死にいなしていた。

 

 

 

 『ねぇ・・・

 

 

  校門でて、左のほう行った先に公園あるじゃない・・・?


  ・・・そ、そこまで戻って来てよ・・・。』

 

 

 

『え??』 イツキは思いもよらぬミコトのひと言に、聴こえたそれが

間違いではないか聞き返す。

 

 

 

 (ぇ・・・ こ、公園?


  待合せ・・・んの、か・・・? 公園で・・・ ふ、ふたりで? )

 


  

 

 『ァ、アタシもすぐ自転車で向かうからっ!!』

 

 

 

それだけ吐き捨ててミコトはケータイの通話をOFFにした。

 

電波の向こうからは更にうろたえる気配が伝わったものの、イツキからの返事

など律儀に聞いて受け答えできる程の余裕など、頬を赤く染めるミコトにも

一切なかった。

 

 

ミコトはまるで自分の落ち着きない心臓をぎゅっと押さえ込むように切った

ケータイを両手に包み込む。 照れまくっている自分を必死に誤魔化そうと

躍起になるも、心臓が胸の奥の奥で跳ね狂うようにせわしなく音を立てうるさ

い程で。


小さく震える自分の手を他人事のように見つめ、暫し呆然としていた。

イツキ相手にこんなに慌て動揺する自分が自分じゃないみたいで。

 

 

そして、『ぁ・・・ 公園。』 イツキに指定した公園へ向かわなければと

慌てて原稿用紙をカバンに詰め、ミコトは夕暮れの穏やかな廊下をパタパタ

と小さな足音を立てて駆け出した。


その頬は暮れかけた陽に照らされて、やわらかく橙色に染まっていた。

 

 

 

 

指定された公園に先に着いたのはイツキだった。


突然の予想だにしない出来事に頭が追い付かず、ソワソワと落ち着かない。 

どこで待っていれば良いのか、出入口に立っているべきかベンチに座って

待つべきか。 座るなら足は組むべきか気怠さを醸し出し背中を丸めるか。

 

 

 

  (さり気なく、って どーしたらいいんだよ・・・。) 

 

 

 

とにかく、なにがなんでも自然な感じを装いたい。


アタフタ動揺して女子慣れしていない感丸出しの格好悪い姿だけは見せたく

ないと、取り敢えずカラッカラに乾いて引っ付きそうな喉をなんとかする為

公園内にある自販機の前に立ち目の前に並ぶラインナップを眺めていた。

 

 

本当は、この ”みるくたっぷりミルクティ ”が飲みたい。


それはイツキの大好物で、自宅の冷蔵庫にはいつもそれが冷やされている様

母親には口を酸っぱくして言っていた。 しかし、気怠さを最大限装ってい

るイツキがミコトの前で ”みるくたっぷり ”という乙女向けな枕詞はやはり

頂けないのではないかと苦々しく唇を噛み締める。 


やはり ”無糖ブラックコーヒー ”あたりが妥当なのではないか。 または

緑茶などお茶系がベストか。 しかし年寄くさいかも、爽やかにシュワシュワ

炭酸系が青春ぽいかもなど、延々選びきれずにボタンを押し掛けた指を空中で

止めたまま暫し真剣に悩んでいた。

 

 

すると、

 

 

 

    ピ・・・  ガゴン・・・

 

 

 

突然、後方から伸びたセーラー服の腕が人差し指でボタンを押し、イツキが

本当は飲みたかった ”みるくたっぷりミルクティ ”が取出口へと落ちた音

が響く。

 

 

驚いて振り返ったイツキの足元にしゃがみ込み、取出口に手を入れミルクティ

を掴んだその顔は悪びれもせず澄まし顔で言った。 

 

 

 

 『ごちっ! アタシ、これ一番すきなの。』

 

 

 

片手に掴んだペットボトルを小さく左右に振って立ちあがったミコトが悪戯に

ニヤリ口角をあげ、夕陽に照らされていた。

 

 

 


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