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■第2話 最上級の褒め言葉


 

 

  (ぁ、あれ・・・? ここ、屋外じゃねーよな・・・?)

 

 

 

突如、頭の先から足の先まで稲妻にでも打たれたような激烈な衝撃が、

一気にイツキを襲う。

 

 

 

 

 ”天才ナンジャナイ? 天才ナンジャナイ? 天才ナンジャナイ?・・・”

 

 

 

 

ミコトの一言が頭の中をグルグル グルグル巡り、トラあたり今にも発酵

してバターになりそうだ。

 

 

 

   (か・・・雷さま、ドコー・・・?)

 

 

 

呆然と瞬きもせず最大限に首を反って教室の天井を見上げ続けているイツキの

横顔をミコトは不思議そうに見つめ、同じように天井を見てみる。 

そこに何かあるのか、ぽっかり口を開けて。

 

 

『な、なに? なに見てんの??』 暫し一緒に上を見ていたミコトに不審顔で

声を掛けられ、イツキはあからさまに取り乱した。 なにか巧い理由をこじつけ

なくてはいけないのにミコトからの ”天才 ”という予想だにしなかった最上級

の褒め言葉に、ケータイのスヌーズ機能よりしつこく延々と痺れつづけるイツキ

の脳は、そう簡単には通常の状態に切り替わらない。

 

 

ただただ潤んだ目で天井を見つめ続け、そしてちいさく呟いた。

 

 

 

 『て、ててて天才・・・ 天・・ 天井も・・・ 


  意外と汚れるモンだよなぁ・・・。 ほら、あそこ!』

 

 

 

学ランの腕を垂直に伸ばし、実際は然程汚れてもいない天井を指さすイツキに

ミコトはふんっと鼻を鳴らしバカにして呆れた様にかぶりを振った。

 

その顔は ”聞いて損した ”とでも思っているようなそれで。

 

 

ゴクリと息を飲み込む音が、イツキの喉元から響く。


反っていた首を静かに戻し、恐る恐るミコトの方へ視線を流す。 ポケットに

手を突っ込み背を丸めて、ゆっくりゆっくりミコトの方に近寄る。 踵を踏ん

づけた上履きが教室の床を擦れる音と、猛スピードで打ち付ける心臓の鼓動が

やけに耳にうるさい。

 

 

イツキは、ミコトのその細い指先が掴んでいるそれをそっと覗き込んだ。

 

 

 

  (オオオオオレの・・・ 


   ・・・ど、どどどどこら辺が ”天才 ”なんだろ・・・?)

 

 

 

その2文字に舞い上がるだけ舞い上がった絶賛・有頂天中のイツキは、読者

第一号のミコトからもっと詳しい評価を聞きたくて仕方がなかった。

 

  

ミコトが浅く腰掛ける机の横に立ち、まるで

”まぁ、ちょっとオレも興味ない訳でもない ” という顔を向け、

体を傾げ小さく呟く。  『なに? どれどれ・・・?』

 

 

すると、ミコトが途端に不審な目を向け睨んだ。

 

 

 

 『アンタなんかが ”コレ ”の善さ分かる訳ないじゃんっ!!』

 

 

 

鼻にシワまで寄せて原稿用紙を守るかの様に、それを胸に抱いてイツキから

遠ざけ死守するミコト。


『 ”なんか ”ってナンだよっ!!』 そう言い返しつつもその時イツキは

自分が作者だとは1ミクロンもミコトに気付かれていない事を知る。

 

 

『いいから、ちょっと見せろって!!』 半ば強引にミコトからそれを奪う

ように引っ張った。


心の中ではあんまり強引に引っ張って原稿用紙が破けたりでもしたら大変で

気が気じゃない。 なんとか適度な力加減でやんわり押したり引いたりして

それを奪い、イツキはペラペラと原稿用紙をめくると、まるで軽く流し読み

している様なフリをした。

なにせ自分が書いた文章。 しっかり読み込まなくたってなにが書いてあるか

分からないはずもない。

 

 

しかし一見、適当に馬鹿にしながら飛ばし読みをしている様な感じにミコトは

更に不機嫌そうに唸った。


『ど~ぅせ、恋愛モノになんか興味な・・・』 言い掛けたミコトの言葉を

遮ってイツキは大袈裟に声を張り上げた。 

 

 

 

 『えええ スゲーじゃん!! ぉぉおもしれーよ、コレ・・・。』

 

 

 

自分で自分の書いたものを褒めちぎって、思わず赤面する。

 

ミコトを ”読者兼評価者 ”としてなんとか取り込んでおきたいイツキは、

怪しまれないよう納得するように、うんうんと腕組みをして唸ってみせる。

 

 

 

 『分っかるなぁ~・・・ こんな気持ちっ。』 

 

 

 

眉根ひそめ体の前で腕組みして、ちょっと切なげに哀愁込めて呟いてみた所

『嘘つけ。』 ミコトから速攻で全否定の3文字が剛速球で返って来た。


 

 

気が付けば、ふたりでひとつの机に浅く腰掛けたまま顔を突き合わせて原稿

用紙に綴られた歯がゆくて甘酸っぱい恋物語を読み耽っていた。

 

 

 


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