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■第26話 胸に秘めた想い


 

 

イツキとミコト、各々胸の中にくすぶるものを感じながらも、だからと

言って何も出来ずに毎日は過ぎていった。

 

 

放課後。


再びミコトとソウスケが揃って図書室に向かう姿を見掛けたイツキ。

どんどんふたりの距離が縮まっている様に見えて仕方がない。

内気で奥手なはずのソウスケがリードする様にミコトを促し、それに

ミコトがはにかみながら続いてゆく。

 

 

 

  (くそっ・・・


   付き合ってんのかよ、アイツら・・・。)

 

 

 

実はミコトがソウスケに対し戸惑っている様子も、物事をネガティブに

しか捉えられなくなっているイツキには ”照れ ”や ”はにかみ ”に

しか見ることが出来ない。


机に突っ伏し顔だけ教室戸口に向ける気怠い学ランは、今日も激しい

貧乏揺すりを延々繰り返した。

 

 

 

  (アイツ、ミスギの前でどんな風に笑ってんのかな・・・

 

 

   手、とか・・・


   ・・・繋いでんのかな・・・

 

 

   もう、キ・・・ キス、とか・・・

 

 

   くそっ! くそっ! くそっっ!!


   カンケーねぇ、カンケーねぇ、オレにはカンケーねぇ・・・

 

 

   ・・・って、


   あんだろ・・・ カンケーあんだろ、くそ・・・。)

 

 

 

そしてイツキは徹夜をしてミコトとソウスケが接近するのを阻むように

急ピッチで原稿書きを進めた。

 

 

 

 

ミコトがイツキに目線で ”例の合図 ”を送った翌朝。


早朝までかかって原稿を書き上げ、寝ずにそのままそれをミコトの机に

忍ばせたイツキは寝不足のクマをしっかり湛えながら、ミコトをそっと

満足気に見つめていた。

 

 

放課後の誰もいない教室でふたり、ひとつの机に腰掛け座る。

 

 

ミコトは原稿用紙の表紙をなにも言わずにじっと見つめていた。


いつも通りの美しい流れるような達筆の文字。

それはどう見てもペン習字か書道を習っていた人間じゃなきゃ書けない字で。

 

 

先日、ミコトは思い切ってソウスケに ”自分では書かないのか ”訊いた。


それに返事をしたソウスケの顔は嘘を言っている人間のそれでは無かった。

もしミコトに ”正体 ”がバレかけていると勘付いたら、こんなに焦って

いるかの様に急ピッチで原稿を仕上げてくるのも考えにくい。

 

 

 

  (ミスギ君じゃ、ないんだ・・・。)

 

 

 

頭の中でさえ言葉にしないでおいたそのひと言が、ミコトの中でしっかり形

を成した。 作者はミスギではない、別の誰かなのだと。

 

 

なんだか胸にぽっかり穴が開いた様な気分で、ぼんやりと俯いていた。


細い指先でそこにあるえんぴつのやわらかい鉛色をなぞり、原稿用紙を

見つめたままいつまで経ってもページをめくろうとはしない。

隣で背中を丸めて気怠さを装い座るイツキが、そんなミコトの様子に首を

傾げる。

 

 

 

 『どした・・・?


  ・・・読まねぇの・・・?』

 

 

 『・・・ん。


  ・・・読むけど・・・。』

 

 

 

ミコトの小さな心許ない返事に、イツキは勝手に勘違いをしてどこか苛立つ。

 

 

 

  (小説読むより、ミスギと図書室行きたいのかよ・・・。)

 

 

 

すると、イツキは少し声を張ってどこか嫌味っぽく呟いた。

 

 

 

 『せっかく早目に仕上げてくれてんだからさ・・・

 

 

  お前もヨケーなこと考えてないで・・・


  つまんねぇ寄り道とかしてないで・・・ 集中して読めよなっ!!』

 

 

 

自分の口から出た声色が自分で思うよりずっとキツ目で慌てるイツキ。


ハっとして横目でチラリ、ミコトの顔色を伺った。

自分の胸の奥からドクン ドクンと激しく打ち付ける音が鳴り響く。

 

 

すると、それでもミコトは俯いたままだった。


下げた顔に連動してショートボブの軽い毛先は垂れ、小さな耳が髪の毛の

隙間から覗いていた。 それは何故か真っ赤に染まって痛々しい程で。

 

 

 

  (くそっ・・・。)

 

 

 

イツキの胸に秘めた想いが、思わず口をついて出た。

 

 

 

 『お前さ・・・


  ・・・ミスギと、 付き合ってんの・・・?』

 

 

 


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