■第1話 真剣に原稿用紙を読みふけるその横顔
血相を変えて教室に飛び込んで来た理由を ”忘れ物 ”と言い掛けて、咄嗟に
イツキは口をつぐんだ。
誰もいない教室の机にぽつんと置き忘れられた ”それ ”が、見紛うこと無く
ド・ストレートに自分の物だと言っているようなものになってしまう。
それはマズい、超絶マズ過ぎる。
しかも ”それ ”を手に取り読んでいるミコトは、中学からの顔馴染みであり
気怠さを最大限装うイツキが毎夜甘酸っぱい恋物語などしたためているなんて
考えもしない相手なのだ。
『サ、サササエ・・・ささ財布、 教室に忘れてさぁ~・・・
慌てて戻って来たんだよ・・・
そうそう! 財布、財布っ!!
いやぁ~ 小遣いもらったばっかで、チョ~ォ金はいってるから
まじ、オレ、焦って戻って来たんだよねぇ~・・・。』
嫌な汗が額やら背筋やらワキやら、穴という穴から吹き出していた。
ゾッとするとはこうゆう事を言うんだと、どこか他人事みたいに関心する。
しかし、イツキの過剰過多な言い訳にも、ミコトは一切興味が無さそうに
『へぇ。』 と一言だけ小さく吐いて、再び手元の原稿用紙に目線を戻す。
ミコトにとってはイツキが慌てようが財布を忘れようが、小遣いが多かろうが
少なかろうが正直どうでもよかった。
真剣に原稿用紙を読みふけるその横顔に、イツキは恐る恐る声を掛ける。
その顔は強張るだけ強張り声も裏返りそうだったが、なんとか平静を装い
まるでミコトが手にするそれにたった今気付いたかの様なテイで。
『ぇ。 なに?
・・・な、なに読んでんの? お前・・・。』
自然な感じを装えたか不安でいっぱいで、再び穴という穴から例の液体が吹き
出す。 学ランの中に着ている、だいぶ流行から遅れてお年玉でやっと買った
憧れブランド・アバクロのTシャツの背中がびっしょり濡れて寒くてリアルに
背筋が凍りそうだ。
頭の片隅で、このまま汗が出続けたら脱水状態になって倒れるのではないかと
別の杞憂も生まれはじめていた。
すると、ミコトがぽつり呟いた。
『 ”感想お願いします ”って一言かいた封筒が、
アタシの机の上に置いてあったの・・・
”three ”って、ペンネームだけ書いて・・・。』
イツキが目を見開き慌ててガバっと顔を伏せる。
(マママママ、マジかー・・・
なんでサエジマの机に大事なそれ置き忘れるかな、オレー・・・
ばかばかばかばか! オレのばか!!
つか、”感想お願いします ”だけ、
巧いこと活きちゃってるって、どんなミラクルなの、それ・・・。)
すると、ミコトが囁くように続けた。
『この人・・・ すごいよ・・・
アタシ、最初の1ページですっごい引き込まれた・・・
・・・この人・・・ 天才なんじゃない・・・?』
その言葉が耳に響いた瞬間、イツキは顔を上げて天井を見上げた。




