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■第18話 その視線の先


 

 

それ以来、イツキはミコトの視線の先を気にして盗み見ることが多く

なっていた。

 

 

ソウスケの斜め後方席のミコトと、そのミコトの斜め後方席のイツキ。

ミコトはソウスケの背中を見つめ、イツキはそのミコトを穴が開くほど

見ている。

 

 

 

  (なんだアイツ・・・


   ミスギのこと見過ぎだろ・・・

 

 

   ・・・。

 

 

   ってダセえ・・・ ギャグかよ、オレ・・・

  

   

   つか、


   女子なら物語のカスミみたいに淡い視線でこっそり見ろっての!


   あんなマジマジとガン見してたら気付かれんだろ、すぐに・・・

 

 

   つか、 一番見過ぎてんのは・・・ オレか・・・。)

 

 

 

授業中イライラが募るイツキは高速の貧乏揺すりをしすぎて、またしても

英語教師に丸めた教科書で頭頂部をクリーンヒットされた。


あまりのその快音にクスクスと教室中が忍び笑いを響かせる中、最前列の

ソウスケも振り返ってイツキに向かって小さく笑っている。 

しかしソウスケのそれはバカにして嘲笑う感じは微塵もなく、同じ男子から

見ても決して感じは悪くない。 


その笑顔をうっとりと見つめるミコトは、イツキが教師に叱られた事になど

全く興味を持たずこちらを振り向きもしない。

イツキは増々腹立たしげにミコトの緩んだ横顔を見眇めた。

 

 

 

 

その日の朝、イツキはミコトの机に新作を忍ばせていた。

 

 

放課後の教室でふたり、いつもの様に顔を突き合わせ原稿を読み耽る。


ミコトは目をキラキラと輝かせてその文字を必死に追い、頷いたり哀しげに

目を伏せたりコロコロと表情を変え忙しいったらない。

イツキはそんなミコトに合わせ、『へぇ~』とか『まじか~』とか、自分で

書いた話の流れなど知り尽くしているくせに大袈裟に感嘆の声を上げる。

 

 

一通り原稿を読み終わった放課後の教室は、一瞬の静けさに包まれた。


半分開けている窓からは穏やかな夕陽が差し込み、ひとつの机に窮屈そうに

腰掛けるふたりの伸ばした足元まで伸びている。

やさしく吹き込んだ生ぬるい風に、ミコトの肩口のセーラーが揺れた。

 

 

チラリ、横目で見るとミコトはいつまでも嬉しそうに原稿を眺めている。

ぎゅっとそれを掴む指先はほんのり熱を帯びるように桜色に染まって。

 

 

そして、

 

 

 

 『アタシね、


  家に帰ってからも何回も何回も読み返してから感想書いてんだー!』

 

 

 

と、どこか自信満々に胸を張って言った。

 

 

 

 『お前・・・

 

  ・・・ほんとに好きなんだな? この話・・・。』

 

 

 

ぽつりとイツキが呟く。

なんだかミコトの顔を真正面から見て言うのは照れくさ過ぎて、俯いて。

 

 

すると、ミコトは眩しそうに頬を染めて言った。

 

 

 

 『うんっ! ・・・大っっっ好き!!』

 

 

 

そう言い切るその顔がやたらと眩しく感じる。


なんだか急に胸に迫り上げるものに、目の奥がじんわり熱い。

イツキは口をぎゅっとつぐみ、泣きそうな顔でそっと目を逸らした。

 

 

 


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