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■第17話 ”尊敬 ”だけではない気持ち


 

 

ミコトは自分でも気付かぬうちにソウスケの背中を目で追うことが多く

なっていた。

 

 

最前列の席に座るソウスケは、常に美しい姿勢で佇み授業中はおろか休み

時間でさえそのスタンスを変えはしない。

 

片手に文庫本を持ちしっとりと目を落とす横顔。 優等生なのにそれを鼻に

掛けることもなく、穏やかで余裕があって物腰やわらかでソウスケ以外の

人間が作者かもしれない可能性など、ミコトは全く考えてもいなかった。

 

 

気付けば、なにかとソウスケに声を掛けるようになったミコト。


それは他愛もない、例えば次の授業の教師の話だったり、近付いている

試験の範囲だったり至って普通のなんてことない話だったけれど、決して

モテ要素が強い訳ではなく女子から積極的に話し掛けられた経験など無い

ソウスケにとってもそれが嬉しくないはずもなく、ソウスケからも次第に

ミコトに話し掛ける機会が増えていた。

 

 

 

とある放課後、図書室で久しぶりに会ったふたり。


奥の方の机で静かにハードカバーに目を落とすミコトの姿を見付け、

ソウスケが嬉しそうに小さく微笑んで斜め後方から声を掛けた。

 

 

 

 『ここで見掛けるの、なんか久しぶりだね?』

 

 

 

体を屈めてミコトの耳元で遠慮がちに小声で囁いたソウスケ。


周りなどなにも見えない程本の世界に集中していたミコトは、突然すぐ

後ろで響いた声に驚き肩を強張らた。


『ビ・・・、ックリしたぁ・・・。』 強張った顔で振り返ったミコトに

ソウスケは可笑しそうに 『ごめんごめん!』 と微笑んで謝る。

 

 

横に座っていいかチラっと目線で確認し、隣のイスを引いたソウスケ。


イスの脚が床面に擦れて音を立て読書中の人に迷惑掛けないように、

そっと軽く持ち上げて静かに腰掛けるソウスケがソウスケらしくて、その

所作ひとつひとつに、ミコトの胸の奥はほんのり熱を持つ。

 

 

 

 『ミスギ君も、読書・・・?』

 

 

 

ほんの少し照れくさそうに目線を向け小さく訊ねたミコトに、

『返しに来ただけ。 でも、なんか借りようかな・・・。』 そう言うと

ミコトが読んでいる本の背文字を見ようと、ソウスケは小さく体を傾げた。

 

 

 

 『恋愛モノ、好きなんだっけ・・・?』

 

 

 

背文字にある有名恋愛小説のタイトルを目にソウスケの口から出たそれに、

ミコトは思わず息を呑む。


なぜか頬は急激に熱くなり、心臓が胸の奥でドキン ドキンと弾けるように

音を高鳴らせる。 少し震える声で、ミコトは小さく返事をした。

 

 

 

 『ぅん・・・ 好き。


  ・・・恋愛モノ、読むの大好きなの・・・。』

 

 

 

決して気付かれてはいけない、ミコトが作者の正体を知っているという事実。


そして、ソウスケの表情を伺うように、目の奥の真意をはかろうとするかの

様に思い切って続けた。

 

 

 

 『・・・ミスギ君、は・・・?』

 

 

 

すると、ソウスケは迷うことなく満面の笑みで返した。

 

 

 

 『ボクは活字中毒だから、ジャンル問わずにナンでも読むよ~。』

 

 

 

それをミコトは、微かにベールに包みつつの明確な肯定の意だと判断した。


そして、あんな繊細な物語を書くことが出来るソウスケを改めて心の底から

尊敬していた。

 

 

 

その気持ちが尊敬だけではないという事に、この時ミコトは気付けないでいた。

 

 

 


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