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■第10話 少し震える指先で


 

 

 『カノウー・・・ 遅刻だぞ!!』

 

 

3分ほど遅れて教室に飛び込んだイツキに、担任教師から声が掛かる。


ペコリと首を前に出し悪びれる様子も無くイソイソと自席に向かうイツキ。 

机の間を通り抜けざま一瞬ミコトに目を遣ると、その顔は大きな目を更に見開き

キラキラ輝かせてまるでクリスマスのこどもの様なそれで。


ミコトはチラっと自分の机に目線を流してイツキに合図を送る。  ”それ ”の

意味が分からないはずもないイツキは、”そうかそうか ”の意を込めてちょっと

唇を尖らせ微笑んで小さく頷く。


嬉しそうに肩をすくめ目を細めて微笑んでいるミコトを、クククと小さく笑って

斜め後方の席からイツキはやさしく横目で眺めていた。   

 

 

 

ミコトは毎朝登校すると、真っ先に机の引出しに手を差し込むのがすっかり癖に

なってしまっていた。


早く話の続きが読みたくて、まだかまだかとその指先は茶封筒の感触を求め右へ

左へと狭い机の引出しの中をせわしなく動き回る。


念願叶ってやっと今朝、その感触を指先に感じた時には思わずミコトの喉から

甲高い変な音が出た。 周りのクラスメイトが謎の音に辺りを見回すもひとつ

咳払いして俯き誤魔化した。 そして、そっと指先で掴んで引っ張り出し確かに

それだと確認すると嬉しくて嬉しくてどんどん緩んでゆく頬をどうする事も出来

ずにいた。

 

 

話の続きが読めることに浮かれるミコトだったが、もうひとつ次第に膨れ上

がってゆく問題があった。

 

 

 

  ( ”three ”って・・・ 誰だろう・・・。)

 

 

 

ミコトはこの物語の作者が気になって気になって仕方が無かった。


同じクラス、少なくとも同じ学校だというのは間違いない。

分かっているのは、ペンネームと、えらく達筆だという事の2つのみ。

ミコトが恋愛小説好きだと知っているという事も付け加えて良いのだろうか。

 

 

 

  (国語が得意って事よね・・・ ゼッタイ。)

 

 

 

早く続きを読みたい気持ちと作者が気になって仕方ない気持ちで脳内は占領され

その日一日全く授業なんか上の空だった。 ぼんやりしているうちにあっという

間に終業時間を告げるチャイムが鳴り響く。


イツキがやたらと不自然にチラチラ目線を流し、掃除当番が面倒くさそうに床を

モップで撫でる中ミコトに近付いて来た。 ペコリ、首を前に出して謎の会釈を

すると照れくさそうにミコトの机に浅く腰掛けたイツキ。

 

 

 

 『・・・まだ、ヒトいるし。 早いってば。』 

 

 

 

ミコトから、”近寄って来るのが早すぎる ”というお叱りを即座に受け瞬殺され

ブツブツと不満を口にしながらイツキは再び猫背で自席へ戻って行く。 何故か

今日に限って中々人が引かない放課後の教室にジリジリと苛立つ気持ちを堪え、

やっとの事で静寂を掴みとったふたりは、慌てて顔を揃えてひとつの机上に浅く

腰掛けると、ミコトは茶封筒からそれを丁寧に丁寧に引っ張り出した。

 

 

 

  ”第2章 第1話 ”

 

 

 

シンプルなタイトルが目に入ると、ミコトは息を止めてそれに見入っていた。


ワクワクしすぎて少し震える指先が原稿用紙の端を覚束なくつまんでいた。

 

 

 


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