天井
天井から物音がする。
虫や小動物ではない、大きな生き物の移動する音だ。
こちらのスキをうかがうようにして、ズルズルとはい回っている。
こちらも動きを悟られぬようにゆっくりと動き、和室の床の間に飾ってあるヤリを手に取った。
穂の部分がみっつに分かれた三叉槍だ。
それの柄を長く持ち天井に向けて構えた。
天井から発せられる音へ全神経を集中する。
ズ、ズズ
と、小さく聞こえた。
ねらっていた所よりもすこしだけズレていた。
構えをなおしてふたたび待つ。
さきほどの音でだいたいの位置も移動方向もつかめた、次で仕留める。
ズズズズ
いまだ――
そう思った瞬間、音が聞こえた瞬間、すでに三叉槍は天井に突き刺さっていた。
手応えはあった。
しかし、反応がなかった。
柄を握ったまま構えを解かず、しばらくそのまま待った。
逃げる音も、うめく声も聞こえず、なんの音もしない。
成果の確認のために三叉槍を引き抜こうとチカラを込めた。
が、抜けない。
みっつの穂先が深々と天井へ刺さっているが、それが原因ではない。
天井の先でなにかに刺さっているために抜けないのだ。
カラダのひねりと全体重を一気にかけて、力任せに引き抜いた。
三叉槍は、勢いよく抜けた。
それに合わせてバランスを崩し、倒れそうになったが柄の石突を支えにしてどうにかこらえた。
目の前に穂先が来る。
みっつの刃にはなにかがベッタリと付いていた。
粘度の高い、薄茶色をした、ピーナツバターだ。
指先ですくってなめてみる。
一切甘みのない純粋なピーナツバターの味だ。
きっと海外のモノなのだろう。
「か、返してください!」
天井にあいたみっつの穴から必死な声が聞こえた。
穴を見上げるが、そこにはなにも見えなかった。
ふたたび指ですくってなめる。
「あぁ、そんなぁ」
天井から悲痛な声が漏れる。
もう一度刺そう、と思ったが、それはこれをナメとり終えてからにする。