関係ないといいな
帰り道、ついてくる黒ローブの気配がなくなっているのにほっとしている俺。
どうやら俺への追ってではなかったらしい。
だが油断は禁物だ、応援を呼んだのかもしれないのだから!
「……関係ないといいな」
「どうしたのカナタ」
「いや、別に。それで賞金は幾らくらいになりそうなんだ?」
その俺の問いかけに、メイベルが縛り上げた男達の値段を呟いていき、貰った賞金の袋を見て、
「うーん、500ゴールね。意外に少ないわね」
「いや、でも一日に500ゴールは大金じゃないのか?」
「それはそうだけれど、前はこの十倍を稼げた事もあってね。最近何処も平和だから、犯罪も少なくて」
「いい事じゃないか」
「良い事だね。ふう、さってと、ただいまぁ!」
勢い良く、メイベルは時計屋の扉を開ける。
すると中にいたクロが振り返り、
「お帰り、メイベルちゃん、カナタ君、どうだった?」
「500ゴールだったよ!」
「中々良い稼ぎですね。暫く修行に専念できますね」
「うん、やっぱりカノレ岩山を素手で頂上まで登るのを、一時間以内にしたいし」
「あまり無理しないでくださいね」
そうにこにこと笑うクロとメイベル。
そこで何となく気になった俺がメイベルに、
「そのカヌレ岩山って何処にあるんだ?」
「家の前で見える一番高い山よ」
「……え?」
「本当よ、でもあれを登るくらいはまだ楽な部類かな。そうだ! 今度はカナタを荷物代わりに連れて、あの岩山を登ろうかな!」
「やめてー!」
俺は必死になってメイベルを止める。
そんな荷物のように運ばれながら岩山登りなんて恐ろしすぎる。
魔法を使っていない状態で空中浮遊なんて、なんて恐ろしい事をメイベルは言うんだと俺は必死にメイベルに思いとどまるよう説得しなければと俺は焦る。
けれどメイベルはそんな俺を見て、
「でも修行では楽な方だよ?」
「俺、それを学べる自信がありませんから。あ、これ家賃ですクロさん。鍵をいただけますか?」
「いいよ、はい」
そう言って渡された鍵には時計が付いている。
「あの、この時計は?」
「無くしても、正確には無くしかけてもここに戻ってこれるように」
「なるほど、個性的ですものね」
これだけ変わった意匠ならここのものだと分りそうだと、俺は思ったのだが。
と、クロが、にこりと笑って、
「本当にそういう意味だと思うかい?」
「……他に何か?」
「さあ、どうだと思う?」
「止めて下さい、そんな意味深に言わなくてもいいじゃないですか!」
はははと面白そうに笑うクロ。
そんなクロに俺はむっとしながらも、ここで問い詰めてもこの人は答えないし冗談の可能性も捨てきれないと我慢して俺はクロに、
「部屋を教えて頂けますか?」
「メイベルちゃん、カナタ君に場所を案内してあげてくれないかな?」
「分りました。行こう! カナタ!」
そう俺の名を呼んで、メイベルは手を引き走り出したのだった。