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ダブル猫じゃらしマスター

 現在俺は、道端に生えていた猫じゃらし……緑色のエノコロ草を二本ほど取り、ダブル猫じゃらしマスターとなっていた。

 その両手を使い、いざ、目の前の三毛猫に俺は攻撃を仕掛けた。


「行くぞ、これでどうだ!」


 しかしその三毛猫はその俺の猫じゃらしを一瞥すると、なーおと低く鳴いて顔を前足で擦り始める。

 それを見ながらも、俺は諦めず二つの猫じゃらしを揺らす。

 けれどその三毛猫は、俺の相手をしない。

 ぺろぺろと自分の毛の毛づくろいをしているのみである。

 しかも俺の目の前で油断したかのように。


「俺は猫にすら舐められるんだろうか」

「なーおっ」

「いや、返事をするように鳴くのではなくてですね、俺の相手をして下さい」

「なーおっ」

「いや、少しくらい良いじゃないですか。頼みますよ」

「なぁーおっ」


 何処か嘆息したように猫は鳴いて、毛づくろいを止めて俺の前に来る。そして、


「ほーら、こっちだぞ!」

「なーお」

「ほーらほーら」

「なーおっ」

「ほーらふりふりふり」

「なーおっ」


 猫じゃらしで猫を弄ぶ快感。

 猫からは遊んでやっている感がひしひしと伝わってくるが、俺はそれは気づかなかった事にした。

 そして遠くから俺やメイベル達の様子を伺う黒いローブを着た男がいたが、俺は見ているだけだったので気づかない振りをした。

 追っ手だったらまた逃げないとなと俺はぼんやりと思って、猫じゃらしを振る。

 猫がそれに向かって手をぺしぺしと動かして、相変わらず猫は可愛いなと俺は現実逃避した。

 そこで傍のぼろぼろの建物から、壁を突き破って人が飛んで行くのが俺から見えた。


「まだ観念しないのかしら」

「ま、待ってくれ、話し合おう……と見せかけて! ぐふっ」

「お前がそのナイフを取り出すよりも私の拳の方が速いわ! ……って、もう気絶したの? 根性が足りないわね」


 そう嘆息するメイベルの声に、俺は振り返り、


「メイベル、終わったのか?」

「うん、次で二十個目。まぁ、随分と変なのが溜まっていたから、大掃除になって、全部で1000ゴールくらい行っている……」

「そんなに!」

「といいなぁ。あいつ等一見悪そうな顔をした本当の悪人だけれど、賞金がかかっていなかったりするから、下手するとこんな苦労したのに0って事にもなるのよね」

「結構割に合わない仕事なのか? 賞金首狩りって」

「そもそも賞金首になるような犯罪者がそんなにいないのよね。だから基本、野党狩りなんてあればいいほうで、土砂崩れの石の片付けとか農作業の手伝いとかそんな副業が本業みたいになっているの。ああ、どこかに凶悪な敵でも現れないかしら」

「……そんなものが何処からともなく出てきて堪るかと言いたい」

「いないに越した事もないわね。でも修行の成果を中々試せないから。それもまた良い事なのだけれどね。……わ、可愛い猫ちゃん。おいでー」

「なーおっ」


 こちらに向かってきたメイベルに、先ほどまで仕方なく遊んでやっているというかのような三毛猫が、自分からメイベルに歩いていって、そのままメイベルの差し伸べた手に乗っかり、大人しく撫でられて喉をごろごろ言わせている。

 それを見ながら俺は、


「俺にはそんなに懐いてくれなかったのに」

「そうなの猫ちゃん」

「なーお」

「違うって」

「猫語が分るのか? メイベル」

「全然分らないけれど何で?」

「……次に行こう次に。日が暮れる前に」


 俺に懐かなかったけれどメイベルに懐く猫がちょっとむかっとしたという心の狭い俺だった。

 それに猫ちゃんバイバイと手を振って俺を追いかけるメイベル。

 そんな俺の心中といえば、どうしてこんな事になったんだろうという疑問ばかりが浮かぶ。


 まず初めにアジトに来た時、俺は魔法を使おうとした。

 けれどそのすぐ横をメイベルがかけて行き、次々と悪そうな奴らを倒していき、俺が呪文を唱える前に制圧してしまったのである。


「私のこの悪を断つ拳で、お前達を倒す!」


 とメイベルが叫んで突入して行くわけだが、その後は一応俺も頑張って半分くらいは倒せたと思う。

 だが、それに対抗意識を燃やしたメイベルによって、もうそれについていけなくなった俺はこのような状態に……というかもう色々と俺は疲れてしまったのである。


 なので猫にお相手して癒してもらっていたのだ。

 とはいえそもそもメイベルがとても強い事、そして俺がいなくてもいい事、邪魔をするわけにもいかない事という三つの理由から俺は手伝うのを今回見送ったのであるが。

 と、途中からメイベルに案内されて歩いていくと、再びぼろぼろの変な家のようなものがあって、昼間なのに灯りがついて男達が何かを見ている。


「確か人数は……見えない所に後一つ人の気配があるわね」

「良く分るなメイベル」

「え? 普通分るものじゃない?」

「……俺とメイベルの普通はちょっと違うみたいだ。で、どうする?」

「それはもちろん……こうするに決まっている!」


 そう叫んだメイベルが、その拳で壁を突き破って中に突入した。


「はぁああああああ」

「な、何だこいつは! ま、まさか俺達の計画がばれて、ごふっ」

「くそ、たかだか小娘……ぐふっ」

「お頭! この、国家の犬がぁああ……うがぁ」

「ひ、ひぃい助けて下さい助け……馬鹿め……なんだとっ! ごっ」

「ひいいいい、来るな、来るな、くるなぁああああ……がっ」

「ゆ、許してください、出来心で……ごふっう」


 そこで声は途切れ、辺りは沈黙で支配される。

 こうして、悪い奴らの企みは阻止されたのだった。

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