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番外編-6

 その話を聞きながら俺は、エリトの顔をまじまじと見た。


「何かの冗談としか思えないが」

「冗談でここまで来る気にはなれないね。まあ、カナタの顔と様子見に位は来るかもしれないけれど、事情が事情だからね」

「俺、今までそんな重要人物扱いされていなかったよな?」


 今までのあの城での自分の扱いを思い出すと、明らかに突っ込みどころがある。

 そんなに危険なら関しやら何やらついていたりもっとこう……。

 俺が真剣に悩んでいるとエリトが、


「というわけで連れて帰る理由はわかったかな?」

「そこで、クロさんを巻き込もうと?」

「ええ、味方につかれると面倒ですしね。カナタと魔王クロが手を結んで反撃されたらさすがの僕でもどうにもなりませんしね」


 エリトは相変わらず笑っている。

 何を考えているのかわからない。

 そこでクロがため息を付いた。


「貴方は、カナタ君がお気に入りなのですか?」

「そうですね、従兄弟であり友人ですから」

「それで僕を挑発してただで済むと思っているのですか?」

「ええ。僕には魔法攻撃は全然効きませんからね」

「へぇ、それは面白いですね。僕の力が全く効かないなんて……では、試してみますか? そういえば貴方の家は、彼女の妹の血筋でしたか」

「そうですね。でも良いんですか? ここで僕を攻撃しても」


 そんなエリトの言葉に、珍しくクロが獰猛な雰囲気を少し醸し出しながら笑い、


「今更怖気づいたと? それなら逆立ちしてお許し下さいといえば許して差し上げますよ。ええ」


 先ほどの説明によっぽどムカッとしたのか、クロがそんなふうに言うも、それにエリトは相変わらずの笑顔で、


「そうなると、服が耐え切れませんので、僕の裸体を彼女たちに見せつけることになるのですがよろしいですか?」

「……」


 クロが沈黙した。

 それはそうだろう。

 好きな女性に自分以外の男性の裸体をこう……そういう偏った趣味はクロには無かったのは良かったのかもしれない。


 そう思っているとそこで、深々とクロが嘆息した。


「そういう所が彼女にそっくりです」

「そうなのですか? それは知りませんでした」

「ええ……でも物理防御もとても強いと? 彼女はそうではありませんでしたからね」

「そんな話を聞いたことがあります。僕はそれよりも強いと言われていますから」

「聖女と今は呼ばれているのでしたか。はあ、どうしてこう……ね。彼女は常に僕の前に立ちふさがるのか」


 困ったようにクロが呟いて大人しくなる。

 そういえばその“聖女”については俺はあまり知らなかったなと思っているとそこで、


「でも、カナタ君を連れ帰るお手伝いはできませんね」

「師匠……」

「カナタ君、そんなに嬉しそうに僕を見ないでください。照れてしまいます」


 そう俺はクロに言われてしまう。

 なので俺が黙っているとそこでクロが、


「先ほど言いましたよね? 貴方は僕とカナタが手を組んだなら帰るしか無いと」

「そうですね。反撃できませんし。困りましたね~」


 エリトが相変わらず笑ってそんなことを言う。

 だが聞いていて俺はあれと思う。

 だって今の話では、


「まるで俺がここに残ってもいいみたいじゃないか」

「……友人の惚気けるような顔を見れただけでも、十分、情報としては価値があるかな。そして、まあ、色々な意見の人達もいるということです」

「……つまり何人くらいの意見で、エリトはここに来たんだ?」

「二人かな。でも人数の問題ではなくその人の背景の力も危険だからね。そういった意味でも……カナタ、君自身が自分は危険人物だと思っていないとしても、そう思う人がいるということは頭の片隅に入れておいたほうが良い」


 どうやら俺への忠告も兼ねて、エリトはあんなことを言っていたようだった。

 そのためにここまできた部分もあるのだろうかと俺は思いつつそこで、エリトに俺は聞いてみた。


「エリト自身は俺のことをそんなふうに危険人物だと思っていたのか?」

「いや、今までの付き合いで、そんな根性も何もないことが分かっているからな、カナタは」

「根性って……」

「そもそも野心も何もないだろう。野心があったなら意気揚々とこの国の姫を堂々と落としに行くだろうし。お見合いがあるからといって逃げ出すようなヘタレがそんなことをするわけがないというのが殆どの人の意見だと思う。僕もだが」

「……」


 意図せず友人がどう思っているのかが分かったが、それはそれとして、


「それでエリト、これからどうするんだ? クロさんと俺が組んだから、帰るしか無いんだろう?」

「そうだね。とりあえず目的は果たしたから後はゆっくり帰って、途中の観光名所でも見に行って遊んでこようかな」

「それでエリト、そういえば来たのはエリト一人だったけれどお供の人はいないのか?」

「ん? 話がややこしくなりそうだったから途中で撒いたけれど。まだこの町についていないと思うよ」

「……」


 お供の人たちも大変だなと俺は思ったが、こうしてエリトの本音を聞けなかったかもしれないことを考えるとそのほうが良いのかもしれない。

 そう思いつつ俺は、そういえばこのクロがさっきいつだって彼女が立ちふさがると言っていたのを思い出す。

 エリトはその血を引いているというかその辺りの話を俺は全然知らなかったなと思いつつ、


「聖女の話を俺はよく知らないや」

「それはそうだろうね。僕の家は古い小さな王国、それも滅んだ亡国の王の家系だからね」

「そうなのか?」

「そう。それが言っとき滅びかけたのがその魔王クロのせいで、そしてそれを留めたのが僕の祖先の姉君だったという話だ」

「そうなのか。もう少し話が聞きたいから後で……」

 

 そこまで俺が言ったところで、クロが俺を見ていた。

 そして少しため息を付いてから、


「せっかくですので僕が知っている彼女について、お話しましょうか」

「いいのですか?」

「ええ、いい加減彼女との思い出にもケリを付けないとなと思ったしそれに」

「それに?」

「いえ、何でもありません」


 クロがそう言って、何かを懐かしむかのように話し始めたのだった。




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