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えぴろーぐ

 それから、まるで倒すのを見計らったようにクロとフィリアがやってきた。

 そして、先ほど倒して小型化した魔物を見るとクロが顔を嬉しそうに輝かせて、しゃがんでその猫を呼ぶ。


「ナルちゃん、僕です、クロですよー」

「なー? みゃっ! にゃぁああ」


 クロを初め見て首をかしげたその魔獣であった猫は、すぐにクロが誰か分ったらしく素早い仕草で駆け出してクロに抱きついた。

 その猫に懐かれている様子が俺にはちょっと羨ましかったのはいいとして。

 子猫を抱き上げたクロが、その猫――アテナルなので、ナルと呼んでいるらしい――の顎の下をなで上げながら、


「久しぶりですね、もう少し落ち着いてから呼ぼうと思っていたのですが、まさか他の奴に呼ばれたなんて」

「なーお」

「そんなに僕に会いたかったのですか?」

「にゃー、なーお」

「そうですか、可愛いですね。でも臆病な貴方が良く召喚に応じましたね」

「にゃー、にゃにゃ」

「あいつらがあんまりにも美味しそうな匂いを嗅がせるから、ですか。途中嫌な匂いもあったけれど、良い匂いの時に反応したらそれで誘惑されたと。駄目ですよナル、知らない奴の誘惑に乗っては」

「なぁー……」

「そんな悲しそうな声を出しても駄目です。いいですか、これは飼い主として……何ですかカナタ君」 


 クロが肩を叩くカナタに振り返る。

 俺は色々と突っ込みたい衝動に駆られながらもカナタは、その猫を指差して、


「その猫が伝説の魔王が使役した魔獣アテナルなのですか?」

「うんそうだよ?」

「ひと晩で大きな町を焼き尽くした巨大な怪物?」

「そうだね。でもそれほど大きくはなかったでしょう? 尤も今回ので最大の大きさでしたから、そこになるまで異界で魔力を蓄積して、最大になった所でこちらにきたはず。それを倒したカナタ君は素直に凄いと僕は思うよ?」

「でもペットなんですよね?」

「うん、そうだけれど」


 俺はクロのその言葉に何となく悔しくなった。

 そしてもっと強くなろうと決めた所で、クロが、


「でもこの子は臆病ですから、カナタ君のような魔法で助かりました。少しでも傷つけられると全力で襲いかかります。倒すのであれば一撃でその力を無力化できるような高度なものでないと」

「でも、メイベルが魔物……ナルの意識をそらしてくれたから、出来たのです」

「良いコンビじゃないですか」


 そう笑うクロに、言われてみればそうだし、そのコンビと言う言葉も俺にはいい言葉のように思える。

 そこでメイベルがフィリアに、


「師匠! 私、ようやく“青き閃光拳”と呼ばれる燐光を発する事ができました!」

「本当! それはおめでとう。でもこれからは自分が意図した時にそれが出せるようにならないと」

「はい! でもこれで一歩また師匠に近づくことが出来ました!」

「そうね、それも愛の力かしら」


 フィリアが面白がって言うと、メイベルが顔を赤くして慌てだす。

 そしてちらりとカナタの方を見てメイベルが、にこっと微笑んで、それを見るだけで俺はどきどきしてしまった。

 そんな二人をクロとフィリアが微笑ましく見守っていると、


「姫様、ご無事ですか!」

「あ、ミィ。大丈夫だった?」

「はい、フィリア様に守っていただきましたから。本当にフィリア様には……」


 そう言い出すミィの頭をフィリアが撫ぜる。


「人助けは当たり前。お礼を言われるほどの事はしていないわよ?」

「うう、ですが、私は姫様達と違って弱いですから」

「あら、メイベルだって私よりも弱いわよ?」

「師匠! 酷いです!」

「貴方にはあなたの役目があるからそれを頑張れば良いの」


 そう言われてミィは小さく頷いてメイベルを見上げる。

 それにメイベルは、


「ミィが影武者をやってくれなかったら、私、こんな風に自由に動けなかったもの。それにカナタにも会えなかったし」


 メイベルがそう俺を見て頬を染める。

 その可愛さにくらくらカナタがしていると、そこでミィが首をかしげる。


「え? そこにいるカナタ王子が、今度の姫様のお見合い相手なんですが。まさか姫様、全然絵すらも見ていなかったのですか?」


 メイベルがカナタを驚いたように見て、そしてカナタもこんな場面で言うのも何だかなと思いながら、


「俺は、アール国第二王子、カナタ・アールです。メイベル姫」


 そう、俺は初めてメイベルに自身のフルネームを話したのだった。






 それから、俺が自身の身分を証明して、城に滞在する事となった。

 ついでに困った事が、客室にやってくる挑戦者たちだ。


「我々のアイドルメイベル姫がこんな、とか勝負を仕掛けてくるのは、何とかしてくれないかな」


 俺は深々と溜息をつく。

 だいたい何で皆スキンヘッドでムキムキなんだと思うも、俺はうんざりした。


 そもそも力技で勝てないので魔法を使うと文句を言われるし。 

 とはいえ、一番の難関であるお父様への自己紹介は容易に終わったのは俺にとって幸運だったかも。

 メイベルに目の色の似たその王は、俺の手をぎゅっと握って、


「本当にメイベルでいいんだね、良かった」

「え、あ、はい……」

「何せ妻に似てじゃじゃ馬でこんなでは男も寄り付かないと思って頑張って大人しくさせていたのだが、気づけば私の目を盗んでこんな風に……いやぁ、良かった」


 そう喜ぶメイベルの父が、昔の自分達の馴れ初めを話し出した。

 なんでも、このメイベルの父はシール王国の第一王子であったらしい。

 勇猛果敢で傲慢な強い王子だったのだが、ある日、この国にやってきて現在の妃に一目惚れをしたらしい。

 そしてそのまま攫ってしまおうとしたのだが……返り討ちにあったそうな。


 けれど妃の方も現王様に惚れたらしくて、そのまま婿にされたらしい。

 とはいえ、第一王子という後継者を失ったシール王国は、この国に条件をつけた。

 つまり何時何時までにこの国を訪問しなければ、婿とは認めないと。

 その時間はどうやってもシール王国に辿り着けない時間だった。


 なのでメイベルの母は、山を三つほど壊して更地にして直線距離でそのシール王国に辿り着き、止めに入った親衛隊をも倒して王の前に現れたらしい。

 でもっていちゃいちゃなのを見せ付けて、どうにか許可をもらったのだそうだ。

 そしてそれからは友好関係にあり、争うなど信じられないそうだ。

 なのでかの悪い奴らを尋問すると現れたのは小国オリが絡んでいる事がわかる。


 かの国はこの国の富が羨ましく、奪いたいと常に考えていたから。

 但し、城に進入を許す程度の力を持っていることが分ったためにこの国も即急に対策を取るらしい。

 そして俺とメイベルだが、お見合いはするもののもう少し二人でデートしたり自由でいたいという事になって。


「だってまだまだ私も未熟者だから極めたいの!」

「俺も、クロさんに魔法を教えていただきたいです、師匠!」


 そう言って俺もクロに弟子入りした。

 現在更に俺は魔法を強化できている。

 そうそう何でメイベルの影武者ミィがフィリアの事を知っているのかと思えば、フィリア自身がミラルダ家の当主で貴族であるらしい。


 どおりで簡単に宝物庫の番を俺達にさせられるよなと俺は思う。

 ちなみにクロが押さえた“破滅石”はフィリアが自分の所から持ち出されたといって、宝物庫に隠したらしい。

 でもってまたクロに求婚するも適当に流されてフィリアが怒っていた。

 何だかんだ言って穏やかなこんな日常も俺にとっては居心地がいい。


 そして、おきさき様達が帰ってくるからと延期された初デートを俺は今日する事となる。

 一応賓客としてもてなされている俺だが、こちらのクロの上の狭い部屋の方が居心地が良かったのでそちらに逃げてきていた。

 尤も現在はデート用にちょっとおしゃれな服を着てみたりするが。


「カナタ、早くして」

「分ったよ、メイベル!」


 俺は答えて傍にある鞄をつかみ、部屋のドアを開ける。

 俺の新しい一歩はここから始まるのだった。


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