好きかも
俺はメイベルと共に歩き出す。
まだ日は高くて、空は明るい。
今度は本気を出すと呟いた俺。
その表情がいつものおっとりしたものでなくて、何処か真剣みを帯びており、メイベルは少しどきどきしてしまった。
そんなメイベルに気づかずカナタは、歩いていく。
人通りの多い道のその先に、またもや古ぼけた石造りの家に辿り着く。
その中に先ほどの魔法使いがいるのを確認してから俺はふと気づく。
「あれだけ強力な魔法を使えるんだったら、仲間のいる室内で攻撃を仕掛けたほうがいいんじゃないのか?」
「……確かに。じゃあ私、行くね!」
「あ、メイベル待って……うう、話を聞いてくれない」
俺はメイベルを追いかけて、その建物に開いた大穴から中に入っていく。
そこで既にメイベルは何人もの男達を倒した後でその先に、先ほどの魔法使いがいる。
ついでその手にある白い石は……。
「ミラルダ家の宝物庫にあった石か!」
俺が叫ぶとその魔法使いの男はその石を持って駆け出す。
それを見たメイベルが駆け出して、
「逃すか!」
けれどそれを邪魔するような男がまた数人。
ついでに俺は、魔法を使ってきたときにすぐ対応できるように結界の魔法を準備しながら、攻撃用の魔法を準備する。
「“火の鳥”」
鳩程の炎の塊が、羽を広げて7つほど出現する。
メイベルから少し離れた男の刃物を中心に攻撃を加えていく。
男達が刃物を取り落として呻くのを見ながら、メイベルが更に攻撃を加えて気絶させていく。
その間に先ほどの黒ローブの男は、“石”を持って逃げてしまっていた。
その様子を見ながら、俺はメイベルに、
「メイベル、さっきの男を追うか? それともここにいる奴らを倒してからにする?」
「あの石の力を発動させる気かどうかで話は変わってくるから、まずはあの黒ローブの男を捕らえる方が先かも」
メイベルがそう結論付けて、再び走り出そうとした。
そこで、建物の上の方で花火の上がる音が聞こえる。
パーンと大きな音を立てて火薬のはぜる音が断続的に聞こえて、そこで俺は気づいた。
「まさか花火で他の奴に、連絡しているのか?」
「早くやめさせないと……」
「待って、メイベル。そうなると、花火で連絡してアジトを引き払っている可能性がある。それも、その石を使う事を決めた後かもしれない」
「! となると仲間である黒ローブを追いかけたほうが良いわね、どう考えても」
「そういう事、行きましょう!」
そして俺は駆けて行く。
黒ローブのいる方向が分るのでそれを追っていけばいいと俺は走り、メイベルが後を追う。
途中大通りに出るがあまりに人が多くて先に進めない。
「カナタ、あいつどっちの方にいるのか教えてもらえる?」
「あっちの、お城のある方かな」
「……分ったわ。裏道を通るから一緒に来て!」
答えるまでにメイベルの声に一瞬間があった気がしたのだが、それには答えずメイベルに手を引かれて、俺達は城を目指したのだった。
この国の城は白く、幾つもの尖塔が重ねられていた。
その屋根は濃い青に色づけられていたが、白い大きなく豪奢な城である事には変わりはなく、周りは木々や池に彩られた庭園となっていた。
なので門をくぐってから城までの距離も結構あり、その中に兵士も沢山いたはずなのだが……。
「眠らされている?」
メイベルがまず門の前に来て呟いたのはその言葉だった。
その視線の先には、大木をいびきをかく門番が二人。
どちらも筋肉ムキムキの屈強な男たちだ。
怪我ひとつしていないのは僥倖と言えそうだが、怪我をさせるとその痛みで彼らが目を覚まし面倒さと考えたのかもしれないと俺は気づいた。
そこで俺はあの魔法を使っているんじゃないかと気付いて、メイベルに、
「眠らせる魔法があるのかもしれないから、それを防御する魔法をかけておくよ」
そして魔法を使うと同時に、俺の腕輪が緑色に光る。
その光が俺とメイベルに降り注ぎ、光の薄い幕が二人を覆う。
それを見ながらメイベルは、
「前から思っていたのだけれど、カナタの腕輪が光るだけでどんな魔法か外からじゃ分りにくいね」
「うん、そういう風に魔道具を作ったんだ。でないとこちらがどんな魔法を使うのか相手に知られてしまうから、その時点で対策を取られてしまう可能性があるからね。あまり手の内を明かさないほうがいいんだ」
「魔法使いも大変なんだね。こう、拳で一発ってわけにも行かないみたいだし」
「……メイベルの使う拳は万能すぎる気がする」
「ふふ、だから伝説の“青き閃光拳”なのよ。これで終わり?」
「うん、光も収まったし、上手くかかっていると思う。行こう」
そうして魔法をかけ終わった事が分って城の中に入っていく。
城の庭には沢山の兵が倒れこんでおり、同時に薄紫色の霧のようなものが漂っている。
どこか異常な光景だが、それでも、さすがに城というだけあってそこかしこに見える魔法から、カナタは中の人達はもしかして起きているのかもと思っているとそこでメイベルは、
「城の中は、そういったものに対しての防御が特に強い魔法で満たされているから、眠りの効果が低くて中の人達は起きていると思う。戦闘になっているかも」
何故かメイベルが城にちょっと詳しいようだ。
魔力は弱いと言っていたけれど、城らしく隠すように作られている。
だから魔法が苦手なメイベルがそれを知っているのは不思議だった。
なので俺はどうして知っているのだろうと思うも、もしかしたなら城に出入りした事があるのかもしれないと思う。
つまり、城のメイドさん?
そう思って俺はメイベルを見るが、この鮮やかな動きはメイドであって貴族のお姫様のものじゃないよなと俺は心の中で失礼な事を思った。
ついでに、今まで会ったお姫様たちはこんなじゃないし、もっとこう……ぶるぶると俺は震えた。
それを見たらしいメイベルが、
「大丈夫、私がカナタを守るから怖がらなくていいんだよ?」
「……何だかそれも情けないので、俺にもメイベルを守らせてください」
「……やっぱりカナタって好きかも」
小さな声で付け加えられて、俺はそれを良く聞き取れなかった。
けれどメイベルは嬉しそうだったのでそれでいいと思いながら、俺は城の中へと入り込んでいったのだった。




