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普通っぽかった

 灰色の石が敷かれた石畳の道。

 左右には色とりどりの花々が育てられたレンガの家々が立ち並ぶ。

 そんな中をマリアがメイド服姿で駆けて行く。

 俺達はそんな彼女の白いリボンがたなびくのを追いかけながら、路地を右左に駆けて行く。


 荷物も持っているメイベルよりも明らかに俺の方が走る速度が遅い。

 メイベル達早すぎと思いながら息を切らせて俺は追いかけていく。

 そこで、マリアが立ち止まると同時にすぐ後ろをかけていたメイベルの頭を後ろに伸ばした右手で押さえつける。


「大人しくしなさい、やつらよ」

「マリアさん、私達の事に気づいていたんですか?」

「当たり前よ、あんなに足音を立てられたら否が応でも分るわ」

「……やはり私はまだまだ未熟」


 そう悔しそうに呟くメイベルだがそこでようやく俺は追いついた。


「はあはあ、ようやく追いついた」


 息を切らす俺だがそこで、マリアの目がきらりと光った。

 その輝くあくどい笑みに、俺は嫌な予感を覚える。

 例えるなら、屈折させて遠距離の光景を見る魔法を作った時、従兄弟に風呂を覗こうと目を輝かせて言われた時のよう。

 じりっと俺は一歩後ずさるが、すぐにマリアに捕まえられる。


「貴方、確かカナタ君だったかしら」

「は、はい、あの、手を放していただけないでしょうか」

「お願いがあるのだけれど聞いてもらえる?」

「あの、どんな事でしょう、か」

「あそこのアジトに、一発強力な魔法を打ち込んで頂戴」


 俺はマリアのその言葉に固まった。

 そもそもそんな威力のある魔法を使うと、


「皆死にますよ! ここの人達と違ってあの人達、普通っぽかったじゃないですか!」

「そういえばそうね。じゃあ箒でしばきたおすのが一番良さそうか。でも……上手く術を操って、彼を怪我させずに無力化する方法はない?」


 にやっと笑うマリアに、俺は自分の手の内を探られているような気がしながらも、とりあえずは出来ないと嘘をついたのでここは本当の事を言っておく。


「眠らせる気体のようなものを発現させる魔法はありますけれど、それでマリアさんは満足なんですか? 眠っている相手を縛り上げるだけで」

「お断りだわ」


 そう俺に笑い、今度はマリアはメイベルを見て、


「メイベルさん、一緒に突撃して、カナタ君に援護してもらえるかしら」

「分りました、カナタ、お願いしていい?」


 メイベルが元気良く俺に言う。

 結局は力技でごりおしか、と思いながらも俺は、自分の援護で少しでもメイベルが守れるならそれで良いかと思い頷いたのだった。





 メイベルとマリアが二人同時に走り出した。

 そしてそのままレンガの壁をぶち壊して中に入り込む。と、


「なんだてめぇは!」

「くそ、もうかぎつけてきやがったのか! 野郎共やっちまえ!」 


 というような何処かで聞いた事がありそうな悪役の声が聞こえて、同時に何かが跳ね飛ばされるような音やらなにやら。

 遅れたが俺が中を覗きこむと、既に何人もが倒されているが、まだまだ敵はたくさんいる。


 拳を振り出す小太りの男。

 もう片手には銀色に光るするどうナイフを持っている。

 けれどメイベルはそれを流れるような仕草で拳を受け流す。

 メイベルの髪がさらりとなびいて、そのまま足を蹴り上げる。


「ぐあぁああ」


 男のもう片手にあるナイフが宙を飛んで、地面へと突き刺さる。

 そんな男にメイベルはにやりと笑い、


「ナイフなんて無粋なものでしか、自分の力を誇示できないのかしら。だから貴方は弱いのね!」

「この……小娘が!」


 その挑発に乗った男が左右同時に腕を伸ばしてメイベルを捕まえようとするも、メイベルは軽く地面をけり中高く飛び上がる。

 そのままメイベルを捕まえようとして前のめりになった男の顔面にとび蹴りを加えた。


「あんたなんかこの拳を使わなくても十分だわ。そしてあんた達もね!」


 そして今倒したばかりの男の子分らしき男達を回し蹴りで軽くひりませてから、拳を振り下ろす。

 すぐさま三人ほどメイベルは畳んでしまった。

 けれどその背後から二人ほどメイベルに向かって刃物を振り下ろそうとする男がいるが、


「“幻影、火の鳥”」


 俺がそう呟くと、鳩程度の大きさの炎が生まれ、それが鳥のように羽を伸ばしてその男たちに向かっていく。

 そしてその鳥がナイフを持った男に触れると同時にその男たちが炎に包まれる。


「「うぎゃあああああ」」


 悲鳴を上げて崩れ落ちる男達。

 気絶した頃にふっと炎が消える。

 けれど洋服の一部が焦げている事からあれが本当の炎であったと皆が気づく。

 同時に、俺は大量のそれを生み出して、


「これで一気に片付けてやる、死にたいやつから来い」


 そう告げると同時に男たちが一斉に逃げ出した。

 けれど逃げる、背という無防備な部分をさらけ出す男たちを狩るのはメイベル達にとっては造作もないことだった。

 次々と倒して、すぐに全員がきをうしなってしまう。

 そして気絶した男たちを全て転がしてからメイベルが、


「カナタ、お手伝いしてくれてありがとう」

「どういたしまして。派手な魔法を見せ付けて脅かしたらいいかなと思ってやってみたのだけれど」

「カナタって役者だね。あんな風に演技して」

「……ああいう張ったりは苦手だけれど、メイベルに少しでも危険が及ばないようにって思って、頑張ってみたんだ」

「! カナタ……心配してくれたんだ」

「それはまあ、うん。その……友達だし」

「うん、友達だからね」


 にこにこと嬉しそうに笑うメイベルだが、俺は胸にちくりと痛みを感じる。

 メイベルは友達?

 本当に俺はそう思っているんだろうか。

 そんな不安が胸に去来して、俺は笑顔がこわばってしまう。そこで、


「そこのお熱いお二人さん、ほら、これアジトの場所を記したらしい地図なんだけれど、どうする?」


 そう、メイベルと俺にマリアは言ったのだった。





 同じ地図が二枚ほどあったので、一枚は俺でもう一枚がマリアという事になった。

 ついでに先ほどのそうどうで役人が来てアジトにいた男達全員を連れて行く。

 そんなこんなで俺は再び買い物袋を持ち上げて、歩いていく。


「地名が書かれているけれど、こことあそこは昨日掃除と称して潰したところなのよね」


 メイベルが腕に買い物袋を提げて、地図を見ながら呻く。

 けれどこことあそこといわれても何処が何処だか俺には判らなかったので聞いてみると、


「大体十個あるアジトのうち、三つがやられているから後七つなんだけれど……」

「やっぱり量が多いのか? メイベルでは荷が重いのならフィリアさん達に……」

「そうじゃなくて、あの執事さんやメイドさん達が追跡していたのならもう既に全部、壊滅済みなんじゃないかと思って」


 そっちかよと俺は思いながらそれはそれで危険な場所に俺は首を突っ込んで目立たずにすむし、メイベルを危険に曝さずに住む。

 それはとてもいい事のように俺には思えた。

 けれどそれをいうとメイベルが怒りそうなのでとりあえず俺は、


「メイベル、戻ってフィリアさんが色々話を聞いてくれていると思うから、その話を聞いてから回らないか?」

「でももしかしたら、少しくらい残っているかも」

「それにその地図が正しいかどうかだって分らないじゃないか」

「うぐ、言われて見れば確かにそうかも」


 メイベルががっかりしたように肩を落とす。

 そしてとりあえずは、クロの家に戻る事となったのだった。

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