何かを早まったのではないか
「私の名前は、メイベルよ」
先ほど俺を助けた少女はそう名のった。
こうして俺の隣で、今日はいい天気だねと言っている分には普通の美少女だ。
でも、出会い頭に攫われかけている所を助けてもらうなんて、男としてどうなのかな、俺、という自虐勘に囚われるが、助けてくれたメイベルは美少女である。
それこそ今まで俺が会った事がないくらいに可愛い美少女だ。
なびく金髪は陽の光で鮮やかな輝きを帯びて、ピンク色の瞳は宝石のように輝いている。
ただ一つ問題なのは、彼女の名前がこの国の姫と同じ名前な所だが。
そこで彼女は俺の二の腕を見て、
「男の人なのに、腕が細いんだね」
「! 一般男性の平均的な太さなのかと」
「そうなの? 周りが同年代の者達は皆、筋肉に愛を捧げるムキムキばかりだったから……新鮮かも」
「そ、そうなのですか。はは……」
やはり噂は正しかったのだろうか。
俺はそう笑顔の裏側で冷や汗を垂らす。
そこでメイベルが、そういえばと何かを思い出したように微笑んで、
「私、まだ貴方の名前を聞いていないかも」
「え? あ、はい、俺は、カナタです。先ほどは助けて頂いてどうもありがとうございました」
「うん? ああ、アレはたまたまよ。趣味で賞金稼ぎしていて、今日は訓練も無くて暇だったから散歩をしていたら、お金が歩いていたから捕まえる事にしたの」
こうやって笑っていれば可愛いのだが、言っている事はと言えば、賞金首がお金って……と思わなくもないカナタだが、ここで機嫌を損なわれても困るので、黙っていた。
それにメイベルは可愛いし。
そこで俺に今度はメイベルが別の質問をした。
「それで、その道具……さっき袋から出して腕輪をしていたみたいだけれど、おしゃれなんだね」
「え? いえ、これはおしゃれとかそういう物ではなく、魔道具なんです」
そこで俺は何も否定しなくてもいいんじゃないかと思った。
こうやって正直に答えるから面白みのない男と思われるんだろうかと、ふと頭によぎる。
そんな俺にメイベルが更に興味を盛ったように目を輝かせて、
「カナタは魔法使いなの? だったらどうして捕まっていたの?」
「ああ、それは魔法は、魔道具がないとどうにもならないんだ」
「あれ、呪文さえあれば魔法が使えるんじゃないの?」
「うーん、そういう人もいるけれど、大抵は魔道具を使わないと魔法は使えないと思うよ?」
「そうなの? 皆、『はー!』って掛け声を出すだけで炎を出したり氷の矢を出したりしているけれど」
「いやいやいや、そんな人達、普通はいないだろう。……いないよね?」
不安を感じてかなたはメイベルに聞いてみた。
それを聞きながらメイベルは逆に、妙に思う。
「え? 町の人達、皆そんな感じだけれど」
「……ちなみに、メイベルさんはそんな魔法が使えるのでしょうか?」
「メイベルでいいわ……そして無理よ。大体私は、魔法使いとしては弱い方だから、知識はあるんだけれど掛け声で魔法なんて出せない。母と違って精々今、荷馬車を壊したくらいの威力しか出ないしね」
どうやらこの国の人達は呪文なしで魔法が使えたりするらしい。
規格外すぎる、俺の常識とかけ離れた世界だと俺が唇の端をひくつかせて、
「……この程度、ですか。そういえばさっき、素手で破壊していたように見えましたが」
言いながらちらりと馬の手綱を引きながら俺は、先ほど壊した横の部分を見る。
車輪がどうにか大丈夫だったので、荷馬車の後ろに例の賞金首たちを縄で縛って転がして、そのままこの荷馬車でメイベルの住んでいるらしい町に向かっていたのだ。
助けてもらったお礼もかねて、カナタが馬を操っていた。
そしてあわよくば、良さそうな隠れる場所に案内してもらおうと思ったのだが……先ほどの話から、メイベルのいる町は随分と恐ろしい場所らしい。
何かを早まったのではないか、そんな不安が俺をおそうが、そこでメイベルが俺の不安に気づいて、
「どうしたのカナタ、なんだか顔色が悪いわよ?」
そのメイベルと問いかけに俺は引きつった笑みを浮かべながら、
「いや……随分と恐ろしい、じゃなくて、個性的な町だから俺が馴染めるかなと」
「大丈夫よ、私も外からここにきているけれど、皆親切だよ?」
「メイベルは外に住んでいるのか?」
「うん……まあ、私も色々わけありでね。でも師匠も皆も、優しくて良い人たちばかりなの」
「そうなのか……じゃあ大丈夫かな?」
「うんうん、きっとすぐに馴染めると思うよ!」
そう微笑むメイベルを見て、一瞬どきりとしてしまう俺。
だが落ち着け自分と俺は自分を落ち着かせる。
そもそもこんな風に逃げなければならない理由が俺にあるわけで、決して恋愛するためにここに来てもらっているわけではない。
けれど出会いというものは、そんな事はお構いなく襲って来る事に、この時俺はまだ気づかなかった。




