時間の問題でしょう
それでも結局五人ほど逃してしまったらしい。
「周辺に包囲網を形成しましたから、捕まるのは時間の問題でしょう」
マリアが、得意げにメイベル達に嗤う。
それを見ながらカナタは、この人達に任せておけば全部解決なんじゃないかと思った。
こんなにも楽しそうに敵を倒しているわけだし……と思って、だからさっきメイベルに突っかかっていたのかこの人と俺は思う。
そこでメイベルが悔しそうに、
「く、これもまだ私が未熟だからなのね」
「え? いや、でもメイベルはよくやった方だと思うよ?」
実際、メイベルがあの宝物庫に入り込んだやつらをほとんど倒して、俺は少しお手伝いしただけ。
だからメイベルは十分に戦ったと俺は思うも、
「駄目よ! 石を奪われたし。それをされないのが一番の目的だったもの」
「それはそうだけれど、ここの人達強いから捕まるのは時間の問題だよ」
「これじゃあ、お遊びみたいじゃない。私一人で如何こう出来る様になりたかったのに……」
そう嘆くメイベルだが、そこでメイドのマリアに男が一人走りより、
「周辺地域の検問を強化しました」
「そう、やつらが見つかるまでそれを続けて頂戴。あとは、じわじわと追い詰めるだけね。仲間はここにいるから、こいつらから状況を吐き出させるのも良いわね」
メイドのマリアがにたぁと嗤って、その倒した男達を見て歩いて行き、一人首根っこを掴んで振り返る。
「メイベルさんでもカナタさんでもいいですから、こいつを捕まえていてくれませんか?」
「あ、じゃあ俺が。ところで何をするのですか?」
「尋問です」
「……拷問とか痛い事は嫌ですよ?」
「大丈夫よ、私にはこれがある!」
そう言って取り出したのは、穴の空いた硬貨に紐が結びついているものだった。
そしてその俺がとりあえず後ろから押さえている男の顔を軽く3回はたく。
うめき声を上げて目が覚めた男にマリアは、
「誰に命令されたか言え。ここには、“青き閃光拳”の見習いがいるのよ?」
「し、知らない、俺は金で雇われただけだ」
「本当? 嘘ついたらどうなるのか分っている?」
「ひいっ、本当なんです、俺達は何も知らないんです!」
けれど一向に知らないと答える彼に、そこでマリアはその紐のついた硬貨を取り出した。
そしてその紐の端を掴み、振り子のように左右に振る。
「ほーら、本当の事を言いたくなったでしょう?」
目がとろんとしてきた男に、マリアは得意げに言う。
それを見ながらカナタは、これは無理だろうと思いつつも見ていると、
「貴方達の目的は何?」
「シール王国、の、が、この国の、力、を、恐れ、て」
「ふーん、雇い主は、誰?」
「国の、大魔法使い……くぅう」
そこで、がくりと男の力が抜ける。
聞く事を聞いたのでマリアが気絶させたのだが、そこで俺はメイベルがおかしい事に気づく。
「メイベル、どうしたんだ?」
「シール王国が何て、ありえないよ」
「メイベル?」
「あ、ごめん。でもそいつ、嘘を言っていると思う」
そうメイベルが言うと、マリアはメイベルを見て、
「そうでしょうね。こんなので出来るはずがありませんから」
淡々と告げるマリアに、その意図が分らず俺が、
「どうしてそれをやったのですか? マリアさん」
「簡単な話、まずはじめにつこうとする嘘がどんな嘘か知りたかっただけ。どうせ他の奴等も口裏を合わせていてその嘘しか言えないでしょうから、それを言ったら締め上げても良いのだけれど……」
「良いのだけれど?」
「ここは法治国家ですもの。きちんと役人に連れて行ってもらって、締め上げてもらいますわ」
そう笑うマリアに、俺はさらに自分達がここに来た意味ってなんだったんだろうと思う。
そんな俺やメイベルを見つめる人影があった事に、ついぞ二人は気づかなかったのだった。
メイドのマリア達に見送られながら歩く帰り道。
人気はあまりない。
それでも夜にある犯罪はここでは極端に低いらしいので、時々散歩に歩く人達と俺は会う。
ついでに恋人らしき手を繋ぐ男女も。
そういえばメイベルは女の子で、自分は男。
はたから見れば恋人同士に見えたりするかなと、俺が不純な事を考えていると、
「今日はありがとうね、カナタ」
「え? いやまあ、怪我もなかったし、この程度は大丈夫だけれど」
「うん、でも魔法の壁を私は壊せなかったから、カナタは凄いなって」
「……たまたまだよ」
「あの腕輪って魔道具? カナタがあんなのをしているのを見た事がないし」
「うん、でも魔道具を見せるとどういった魔法使いなのかばれてしまうから普段は隠しておくことにしているんだ。でないと相手に自分の力がどんなものか見抜かれてしまう事もあるから」
それで、対策を取られば危険が増える。
手の内を曝さないですむに越した事はない。
そこでメイベルが俺を見上げて、
「……カナタは、私が思いつきもしない事を考えているんだね」
「そ、そうかな? 普通だと思うけれど」
「そういう所も好きかも」
好きかもというメイベルの言葉に、俺はどきりとしてしまう。
単純に好意を持っているだけでなく……と期待をしてしまいそうになりながら俺は必死で自分を押さえようとする。と、
「あのね、カナタに聞きたいんだけれど、シール王国が黒幕だって言っていたよね、カナタはどうおもう?」
「嘘だって事で蹴りがついたんじゃないのか?」
「うん……一応シール王国はち……この国の王様間の出身国なの。だから陰口を叩く人達もいてね」
「そうなのか? 俺が聞いた話だと、近くの小国オリと仲が悪いって」
「そういえばそっちもそうだったね。でもそちらは国の規模に差がありすぎるから、こっちから相手にしていないのだけれどね。それでそのシール王国なんだけれど、この国の王の出身国家なの」
そういえばそんな話を聞いたことがあったなと俺は思い出していると、メイベルは、
「シール王国の第一王子だったんだけれど、は……王妃ハルナ様との熱烈な恋愛で結婚したの」
「そうなのか、でもハルナ妃は絶世の美女として有名だったよな?」
「うん、それもあってくっついたらしいんだけれど、一応第一王子でしょう? それで色々あったらしいの」
「あー、何だか山が吹き飛んだとか眉唾な話があったな。山が吹き飛ぶは、話を盛りすぎだろう」
「……そんなこんなで色々あったから、悪く言う人達もいるんだ」
メイベルが何処か悲しそうに言う。
もしかしたならそういう恋愛にメイベルは憧れているのかもしれない、そう思いながら俺は、
「別に、メイベルがそう思っているならかまわないだろう? 恋愛で憧れているならそれでいいし、悪口なんて言うものじゃないからな、聞いていて気持ちの良い物じゃなし」
「カナタ……そうだよね」
メイベルが、嬉しそうに笑って、俺の手を取る。
それが恋人同士みたいで、俺は再びどきどきしてしまう。そしてメイベルは先ほどと打って変わって機嫌が良さそうで。
そんなメイベルを見ていると俺も何だか幸せな気持ちになってしまう。
やがて、いつもの時計屋の明かりが見えてきて、そこで、
「二人とも手を繋いじゃって、可愛いわね」
「フィリアさん、何時の間に!」
「ん? 屋敷の時から二人の動きをずっと見ていたわよ?」
「……まさか」
「そう、メイベル達の成長を見ようと思っていたのだっけれど、まあ、取り逃がしちゃったわね」」
「フィリアさんが捕まえないのですか?」
「こういった失敗体験もいいことだと思って。それにあれはそんな、大したものじゃないと思うし」
そう笑うフィリアに俺は眉を寄せて、
「あれ、結構危険なものだと思うのですが」
「え? そうなの?」
「はい」
沈黙するフィリアだが、困ったような顔をして、
「クロに話してみてくれる? あいつ長く生きているから知識だけは豊富なの。性格が悪いけれど」
フィリアが俺に言ったのだった。