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そんな優しい石ではない

 目が合って彼が悲鳴を上げるのと同時に、メイベルが拳を突き出した。

 壁と窓が破壊される威力を持って、目の合った泥棒が叩きつけられる。

 そして、宝物庫の前には、錠前に細い針金を入れる男が数人と後から三人ほどやってくる。

 けれど襲い掛かる男達を、メイベルは次々と一撃で倒していく。


「ごふっ」

「何だ手応えのない連中ね」


 ふんとメイベルが笑うと背後から三人が一斉にメイベルに襲い掛かる。

 けれどそんな彼らにメイベルは、一瞥すると瞬時に攻撃を加える。

 瞬く間に三人を倒してしまう。

 けれどまだ遠くから足音が聞こえて、何人ここに投入しているんだよと俺が思っていると、


「ひぃい! 早くしろ!」

「開きました!」

「急げ!」


 飛び込んでいく男達。

 そういえば先ほど錠前に針金を通して鍵を開けていた。

 錠前を何で壊さないんだろうなと俺は思ってはっとする。

 そもそも、普通、錠前は壊せない。


 自分の考えや感覚が毒されている事に気づいて、俺はぞっとするがその前に、宝物庫に入ったやつらをどうにかするのが先だと頭を切り替える。

 宝物子には既にメイベルが入りこんでいたが、彼女が倒そうとするも妙な壁に阻まれているようで、メイベルは拳でパンチを繰り返すも一向にそれを超えられない。


「く、お師匠様なら、こんなもの簡単に壊せるのに」

「いやいや、普通魔法の壁は魔法でしか壊せないのが道理だ。だから、こうする“開け”」


 俺が腕輪……魔道具を使い、阻んでいた結界を消し去った。

 それっを見た男が目を丸くして、


「あの結界を破っただと! 馬鹿な!」

「魔法関係は得意なんだ、俺。というわけで後は任せた、メイベル」

「はーい。さてと、悪い子はどこかしらねー」


 メイベルが微笑を浮かべながら、指をゴキゴキ鳴らせる。

 それを見た男が、真っ青な顔になり、


「おい! まだ見つからないのか!」

「ま、待ってくださいよ、ごちゃごちゃしすぎて……あった!」


 そう言って取り出したのは、握りこぶしの半分程度の石だった。

 乳白色で、表面がつやつやとしている丸い石。

 けれどそれを見て俺は分った。

 これはこの地域の人を強くしている、そんな優しい石ではないと。

 そしてこれはとても危険な代物で、彼らに手渡してはならないと。

 小さく呪文を唱えると魔道具の腕輪が今度は赤く輝いて、


「“対象限定・火炎球”」


 そう呟くと二つほど大きな炎の塊が生じて、その二人に襲い掛かる。


「「ぎゃあああ」」


 しかも、その二人以外に炎は燃え移らない。

 高度な条件操作魔法を俺は一瞬で操って見せたのだが、それに気づく者はここに誰一人いなかった。

 あの黒ローブの男は妙に力がありそうだったから気づかれたかもしれないが、ここにそれらしい人間はいなかったのは幸運だったと俺は思う。


 そしてとりあえずここにいた奴ら全員を倒したメイベルと俺。

 そこで俺は周りを見回して、


「これでどうにか無力化できたな」

「そうだね、後はこの黒焦げの二人をつかめてるだけでいいんだけれど、援護の人達を倒すか」


 メイベルがくるりと振り返る。

 そこには即座に倒されたその泥棒を援護しに来たらしい男達がいて、呆然と中の様子を見ていた。

 それはそうだろう、一瞬にして全員が倒されてしまったんだから。

 けれどメイベルが振り返ると彼らはびくっと振るえ、そのまま逃げ帰ろうとする。

 と、二人のわきを白い石が飛んでいく。

 どうやら先ほど倒した黒こげが最後の力を持って振り投げたらしい。


「しまった!」


 メイベルが焦リ駆け出す。

 そして俺も彼らの手にあの石が渡るのは危険だと駆け出したのだった。







 そこにいた男たちは五人ほどだが、すぐに更に五人加わる。

 この屋敷の警備はどうしてこんなにザルなんだと思いながら、けれどすぐにあの入り口の門と柵を思い出す。

 そう簡単に出し抜けるようなものではない。


 魔法に関して造詣の深い誰かが関わっている。

 そう思いながらカナタもまた風の魔法を使い、突風を巻き起こして二人ほど倒す。

 ちなみにその二人は、石を持って逃げた相手の横に居る二人で、石を持った相手をメイベルが倒した時にその石を他の人間に渡さないためである。

 そこでメイベルがその泥棒に襲い掛かった。


「その石を返せぇええ」

「うわぁああああ、ごふっ」


 悲鳴を上げて倒れる男。

 うつ伏せに倒れていたがためにその腕を引っ張って仰向けにさせて、俺は懐に手を入れようとして……その危険な気配がない事に気づいた。


「こいつ、もっていないのか? あいつ等逃げたし」

「そうなの? じゃああっちを追いかけないと」

「でもあいつらからも感じない……そういった魔道具の気配を遮蔽する道具を使っているのかもしれない」

「じゃあ、手当たりしだい全員倒してしまえば良いのね」


 乱暴な方法だが、今はこれが最善だった。

 なので再び俺達は駆けて行くが、気づけばその泥棒達の人数がどんどん増えている。

 あまりにも手際が良すぎて、しかも大人数なのが俺には不安を募らせる。


 何か妙な事に巻き込まれているのではないかと。

 そこでふわりと屋敷のメイド、マリアさんが現れてそして、箒を使い、一斉に数人をなぎ払った。


「あら、思いの他弱いわね。そして少し人数が多いから私達が加勢してもかまいませんよね?」


 にたりと笑みを浮かべるマリア。

 その獰猛さに、俺は何で豹変しているのですかと思った。

 そして嬉々として彼女は彼らをむそうし、しかも、執事らしき人や他のメイド達も現れて、次々と泥棒を倒していく。

 こんな普通のメイドっぽい人達に、何でこんな力があるのだろうと思っていると、


「こうやってネズミ狩りをするのが楽しくて仕方がないのよね」


 そう舌なめずりをしながら、マリアは箒で倒していく。

 そんなマリア以外もよくよく見ると、メイドも執事持て誰で泥棒を倒す事に情熱を感じているように恍惚とした表情で次々と屍を増やしていく。

 ちなみに全員、生きていそうなので俺は良かったと思いはするのだが、


「何であの人達こんなに強いんだ?」

「この程度の強さはここでは一般的なんだけれど、そういえばこの屋敷の噂、カナタは知らないんだっけ」

「噂?」

「そう、ここに盗みに入ったやつらはトラウマを抱えて捕まり、更正するというもっぱらの噂なの」


 それを聞きながら俺は、メイドや執事、はては料理人まで参戦したこの地獄絵図に、何かがおかしいと思いはするものの、メイベルみたいのが一杯いるなら何の不思議もないと諦めた。

 そんな俺に気づいたのかメイベルが、


「カナタ、今失礼な事を考えたでしょう?」

「いや、ソンナコトハアリマセン」


 さっと答えながら目をそらす。

 そんなこんなで、その泥棒達を取り押さえる一幕は一旦落ち着いたのだった。


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