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よく分らない謎の草

 そしてその夜。

 夕食は俺とメイベルが二人で作る事となった。

 つまり共同作業であったわけだが、


「はぁああああああ」


 力をこめて、メイベルが素手で人参やキャベツ、しいたけを程よい大きさにカットする。

 まな板の上に転がるその野菜達を見ながら、俺はメイベルが居ると料理が楽でいいなと思いながらひき肉を炒めていた。

 今日はひき肉を使ったスープと野菜炒めを作る予定だった。


 デザートのプリンは昼間クロさんが作っていたので、後は器に乗せて、これまたクロさんが台所のお皿で育てているハーブを添えるだけだった。

 ちなみにこの時計屋の奥が小さな庭になっており、そこには今の時期に実る赤い果物やハーブ、よく分らない謎の草が植えられている。

 この草はなんですかと俺が聞くとクロがにやりと笑い、


「聞きたいですか?」


 と問いかけられたので、カナタは嫌な予感を覚えて首を横に振った。

 そんな俺に自称、前の世界を滅ぼした魔王は薄く笑った。

 その笑顔とうっすらと漂う魔力があまりにも怖かった俺は、少しぷるぷる震えていると、


「カナタ! ご飯作ろう!」


 と、今日は泊りがけになると実家に言ってきたらしいメイベルが俺を呼んで急いでそちらに向かった。

 そんなメイベルに俺は、


「助かった、メイベル」

「? どうしたの?」

「いや、クロさんがよく分らない草はなんですかと聞いたら、意味深に笑って……怖かった」

「でも、あそこの庭のいあるものは食べられるものしかなかったはずだけれど」

 そうメイベルが不思議そうに答えるので、すぐにやってきたクロを俺は恨めしそうに見て、

「クロさん……僕が怖がるのを面白がっていたでしょう」

「いや、カナタ君が面白い反応をするからね……でも」


 そこでまるで射抜くようにクロが俺を見た。


「君は僕が怖いと思っているようだからね」

「いえ、俺は別に……」

「下手をすると君は、メイベルちゃんよりも強いのかもしれないね」


 にこっと邪気なく笑いながらクロが告げる言葉に俺は必死で平静を装う。

 けれど心の中は動揺してしまい、ちょっとでも何かをされたら叫びだしてしまいそうだった。

 クロが何気なく言ったように装った言葉。

 けれどクロは分っているのだろう、だから俺は戦慄しているのだ。

 そして多分、俺はクロに敵わないかもしれない事も。


 確かにフィリア達は抑えられると言っているけれど、この穏やかそうなクロのこの時折見せるいようで巨大な“何か”はそんな簡単に抑えられるものではないような気がするのだ。

 その自分の感覚には俺は自信がある。

 だってこう見えても俺は……。

 そう思いながら不安そうにクロを見ていると、そこで不機嫌そうなメイベルが、


「クロさん、酷いです! 何で私がカナタに負けるんですか!」

「え? いや……カナタ君も強いような気がしたから」

「そんな曖昧な答えじゃ嫌です。私、カナタの事助けたんですから、私の方が強いんです!」

「うんうん、そうだねメイベルちゃんの方が強いね」

「クロさん! そんな風に……カナタ?」


 そこで俺はメイベルの肩を叩いた。

 何処か悲しくなりながら俺は、


「俺だって男だから、男としてのプライドがあるんだ」

「でも私の方が強いから、カナタの事守ってあげるよ!」

「……気持ちは嬉しいんだけれど、こう、なんかこう……」

「それともカナタは私に守られるのが嫌なの? 一緒に居るのが嫌?」

「え? そ、そういうわけじゃないけれど……えっとこう、心情的な何かがあるわけで」

「だったら良いじゃん。カナタは私とずっと一緒に居れば」


 それを聞いていた俺は赤面した。

 だってそれってこう、誤解するような言葉に聞こえる。

 そして、それを言ったメイベルもその意味に気付いて顔を赤くして、


「ま、待って、今のなし。そういう意味じゃないから」

「う、うん、そうだな、そうだよな……」


 気まずい沈黙が流れた所で、そこでクロが手を一回叩いて、


「はい、今の話はこれでおしまいです。そろそろ料理を二人でしてくれないかな」


 と、更に俺としてはメイベルが傍にいることを意識させられるという状況が悪化したような所に放り込まれるようなものだが……結局メイベルはそんなに気にしていないようだった。

 これもいい事なのだろうなと思うのだが少し不満を感じながらも、カナタは別の話題を振る。


「そういえばメイベル、お泊りをよく許してもらえたな。フィリアさんの家じゃないのに」

「うん、身代わりを立ててきたから。枕とか」

「……それって」


 実力行使したのではと俺は思っているとメイベルが、


「いいの、いい子ばかりやっていると羽目を外したくなるものだもの」

「そうか……でも今日のあれは危険じゃないのか?」

「お師匠様が話を通してくれるらしいから、大丈夫だよ」


 言い切ってしまうメイベルに随分と信頼があるんだなと俺は思いつつ、あのフィリアさんが何らかのサポートをしてくれていつのかもと思った。

 その信頼関係を見ながら俺はふと興味がわく。

 だからメイベルに、


「そのうちメイベルとフィリアさんの出会いについて教えてくれないか?」

「? いいわよ。そのうちね。……と、野菜は刻んだから、他に何かすることがある?」

「じゃあお皿を出しておいてくれ」


 そう言って俺とメイベルは、出来立ての料理をお皿に盛って行き、そんな仲の良い二人をフィリアとクロが優しそうに見つめていたのだった。

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