自分が巻き込まれていた
石畳とレンガで囲われた細い路地をメイベルに引かれながらかけていく俺。
メイベルがいなければ、元の場所に戻るのは大変そうだなと俺は思う。
もっとも魔法を使えば、空を飛んで容易に戻る事ができるが。
そう思っていると唐突にメイベルが立ち止まる。
それに合わせて俺も動きを止めて様子を伺う。
その視線の先には宿と書かれた看板とそこに入って行く中年の男。
暫く見ていくと、2階の廊下を歩いて行き、一番はしの部屋の前で立ち止まる。
次いできょろきょろと辺りを見回してから部屋へと入っていく。
それを暫く観察しているも、一向に出てくる気配がない。
「……あそこで何か悪巧みをしているのかしら」
「おそらくは。でも彼らが何処に滞在しているのか分れば、目的は果たせたといっていいんじゃないか?」
「それはそうかもね。巣を破壊すれば元を断つ事が出来るし。後は戻るだけ?」
そう聞いてくるメイベルは今すぐ、壊滅させたいように目を輝かせているがそんなメイベルに俺は、
「うん。今は突入するのは我慢して」
「……はーい。ところで、カナタは道が良く分らないでしょう? はぐれないように手を繋ぎましょう」
俺の手を取ってメイベルが歩き出し、路地を抜ける。
そしてクロの家に戻ってくる頃には少し日が傾いていた。
「あ、メイベルちゃんにカナタ君、お帰り」
「ただいまクロさん。あれ、師匠は?」
メイベルは師匠であるフィリアを探すも、何故かいない。
そんなフィリアを探すメイベルにクロが、
「メイベルちゃん、フィリアに何か用かな?」
「うんん、変な奴がいたから報告だけしておこうと思ったのだけれど」
「また“無敵野菜拳”とか、そういった類の奴らが襲ってきたのかい?」
「あー、それは適当に返り討ちにしたけれど、ただ、私達の様子をずっと観察しているだけの気持ちの悪いのがいるの」
「そうなのですか? メイベルちゃん可愛いから、変質者に追いかけられていると?」
「え? そうだったの? カナタ」
くるっと振り返るメイベルに、いや、違うだろうと全力で首を横に振り俺は、
「メイベルが可愛いのはそうですが、彼らの目的は違います。……これを見てください」
そう言って差し出したのは一枚の紙切れ。
その紙を見ながらメイベルが、
「それ、さっきのあの中年男が落とした紙でしょう? 何々……『この町の住人が強い、その秘密を握る石がミラルダ家の宝物庫にある。星花の月、5日……つまり今夜、12時に強奪を決行する』」
「そのままの文だよな。もう少し暗号を混ぜてもいいような気もするが、そうらしい」
「そんな危険なものがあるんだったら、やつらの手に渡るのを阻止しないと」
「勝手に進入して、俺達が捕まっても仕方ない。しかるべき場所に連絡するのが一番妥当だろう」
「でも、あいつ等が私達を追いかけていたのがこれが関係あるかも知れないんでしょう? だったら私達の手で犯人を倒して捕まえましょう!」
「でもそれはあくまでも推測に過ぎないし……」
そうメイベルを宥めようとする俺だが、そこでクロが笑い出した。
「あははは、なるほどね、うん」
「クロさん、何がそんなにおかしいのですか」
「いや、ごめんごめん、そうだね……ミラルダ家の宝物庫に、ね」
クロは、その後も暫くおかしそうに笑ってから、
「フィリアに相談してみなさい、面白い答えが聞けるよ」
「フィリアさんにですか?」
そこでただいまーとフィリアが帰ってくる。
そういえばフィリアはここに住んでいないようだったけれど、何で自宅みたいな扱いなんだろうと俺は思ったが、聞くと墓穴を掘りそうな気がして、危険回避能力を全開にしてその話題には触れない事にする。
そんなフィリアに相変わらずクロは嬉しそうに、
「あ、フィリアが帰ってきた。フィリア」
「なによクロ」
「今夜ミラルダ家に強盗が押し入るらしいよ? カナタ君が面白い紙を持ってきたからそれで分ったんだ」
それを聞いたフィリアが微妙な顔をして俺とメイベルを見た。
「本当の話?」
「そうなんです。それでメイベルが犯人を捕まえるって……」
「そうなの、メイベル」
俺はてっきりフィリアはメイベルを止めるものとばかり思っていた。
それが俺の誤算だった。
フィリアは深々と溜息をついて、すぐににやりと笑う。
「口利きしてあげるから、その悪い奴らはメイベルが捕まえる?」
「はい!」
「じゃあ決まりね。カナタ、メイベルの事をよろしくね?」
「え? はい」
けれどフィリアの言葉に頷いた俺は、そこで何かおかしい事に気づいた。
つまりは俺は気づけば自分が巻き込まれていた、という驚愕の事実があるわけで。
「え?」
けれど、俺がそこで反論する前に話はまとまってしまってメイベルが乗り気になってしまったのだ。
これでは押しの弱い俺は断れず、俺は泣く泣くメイベルと共にミラルダ家に行く事となったのである。
でもメイベル一人じゃ危険かもしれないし、もしもの事があると嫌だしと俺は思い直したのだった。