それにどんな意味があるの
メイベルに案内された、パンケーキのお店。
「カナタは何にする? お勧めはこの、ミックスフルーツパンケーキ」
「へぇ、じゃあ俺もそのミックスフルーツパンケーキにしようかな」
「飲み物は何にする? 紅茶、コーヒーがホットかアイスで、後オレンジジュースも選べるよ?」
「うーん、じゃあアイスコーヒーで」
「じゃあ私はオレンジジュース! 注文お願いしまーす」
そう手を上げると、店員が来て注文を受けていく。
後は待つだけだなと思っているとそこでメイベルが俺を見じっと見つめる。
「な、何か用かな?」
「ん? 同年代くらいの子とこうすることって今までなかったから。そういえばカナタは何歳?」
「16歳だ」
「あ、同い年だね!」
「そうだったんだ、メイベルは何となく俺よりも年下のような気が……」
「失礼な、私が子供っぽいって言うの?」
「うん」
「カナタ、よくも言ったわね。いいわ、見ていなさい!」
そこでメイベルは席を立ち上がり、ポーズをとってみせる。
だがその意味が俺には分らない。
「? よく分らないんだけれど?」
「……しなを作って大人の女性を現してみたの!」
「……ごめん全然分らない」
「カナタの馬鹿っ」
メイベルが怒ったように座って、テーブルにひじを付いてその手を顔に当てる。
そして、さりげなく俺に見えるように指をさすと、そこには先ほど入ってきたばかりの客が座っている。
ごく普通の風体の中年の男で、けれどちらちらとさりげなくカナタ達の様子を伺っている。
「あれは……さっきの黒ローブか?」
「正解、よく分ったねカナタ」
「髪の色と、肌の色、それから、雰囲気かな」
「凄いねカナタの洞察力」
「うん、人を区別して見分けるのは昔から得意なんだ。だからメイベルが人ごみに紛れても見つけ出せる自信があるぞ」
けれどそれを言われた瞬間、メイベルは顔を赤くした。
何でだろうとか、顔を赤くしたメイベルも可愛いなと俺は思いつつさっきの会話を思い出して、俺も赤面した。
人ごみに紛れても見つけ出せる自信がある。
まるで恋人に言うようなくさい台詞のようにも取れる。
それは恥ずかしすぎるだろうと思いつつ、そこで、
「お待たせしました、ミックスフルーツパンケーキです」
丁度店員が、パンケーキを持ってきたのだった。
「カナタ、美味しかったでしょう?」
メイベルの言葉に、俺も頷いた。
薄焼きの温かいパンケーキは中がしっとりとして蕩けるような味わいだった。
そのパンケーキには純白のクリームが渦高く搾り出されて、それを取り囲むように、赤や青の、オレンジ色の果物が彩りよく散らされて、さらには香ばしくいって砕いたナッツが味に深みを与えていた。
美味しかった。
しかもコーヒーも香り高く、ミルクとシュガーシロップを加えて飲むと程よい甘さが加わり更に絶品だった。
また行きたいなと思う。
その時も、メイベルと一緒に行きたいなと思って、俺はそこでなんでメイベルと一緒に行きたいと自分で思ったのか自問自答する。
思って、真剣に考えて、それが何を意味するのかを考えつく前に、そこでメイベルがもと来た道を走り出した。
慌てて振り返り追いかける俺。
その先には先ほどの店で俺達をつけていた男がいて、メイベルが追いかけてくるのをみるや否や、一目散に逃げ出した。
「待ちなさい! さっきからじっとこちらを見て、目的は何!」
「ひいいいい、何の事か存じません知りません記憶にございません!」
「嘘おっしゃい! そう、黙っているならこちらにも考えがあるわ! とうっ!」
メイベルが地面を蹴って、そのまま逃げていく中年の男にとび蹴りを加える。
断末魔のような悲鳴を上げて前のめりに倒れる中年の男。
彼が倒れた時一枚の紙が舞い、それが何の偶然か俺の足元に落ちてくる。
その紙をそっと拾い、さっと目を走らせた俺はそれをすぐに自分のポケットにしまう。
まだ紙を落としたことに気づいていない、中年の男。
けれどメイベルがそんな中年の男に、
「あんた、どうして私達をつけていたのかしら」
「き、気のせいかと。確かにたまたま私はパンケーキを食べにあの店に訪れましたが……」
「あら、その前から私の事を追いかけていたわよね?」
「い、いえ、違います、何処に証拠があるんですか?」
「証拠? そうね……確かに今は証拠がないわね」
「そ、そうでしょう。だから放してください、ただの偶然なんですから」
「それで、正直に話すつもりは無いのかしら?」
「で、ですから本当に……信じてくださいよ! あ、そこにいる彼氏の人も止めてくださいよ!」
メイベルに踏みつけられて動けない中年の男は、そう俺に助けを求めた。
え、俺ってメイベルの彼に見えるのか、と思うも慌ててそれを頭からのけて、その中年の男を見て、
「妙に殺気だって俺達の事見ていたよな?」
「見ていません! いい加減にしてください! 貴方にはようはありません! それに、可愛らしい女の子がいたら見てしまうでしょうが!」
怒り出す目の前の中年の男に、俺は困ってしまう。
確かにメイベルは可愛いので男が振り返るのは間違っていない。
気分は悪いが。
けれど先ほどの紙も含めて、今は穏便に済ませておくのも手かと俺は考える。
それに野次馬も集まってきていて、事が大事になる前に止めたいと思う。
あまりカナタとしては注目されたくないのだから。
そこでメイベルが中年の男に嗤いかける。
「最近片手でロッククライミングをする修行中なのだけれど、もう片方が開いているでしょう? その手で、おじさんを頂上まで運んであげましょうか? もしかしたなら手が滑ってしまうかもしれないけれど」
中年の男が悲鳴を上げた。
そこでカナタはメイベルの手を掴んで、中年の男から引く。
「メイベル、もしかしたなら人違いかも」
「でもカナタ……」
「すみません。ご迷惑をおかけしました」
その言葉に初めは中年の男はよく分らず呆然としていたが、すぐに怒り出して、
「まったくだ! もうこんな事のないように!」
そう肩を怒らせて立ち上がり、そのまま何処かへと立ち去っていく。
それを見送り見えなくなる頃には、野次馬も潮が引くようにいなくなっていた。
けれどそれがメイベルには気に食わなかったらしく、
「ちょっとカナタ、何で……」
「理由は後で話すよ。所でこの先に、悪そうな奴らが住んでいそうな家、もしくは宿はあるか?」
「悪そうな奴らは知らない、というか昨日潰しちゃったから昨日の今日では出来ないと思う。だとすると、宿だけれど、この先に一つあるわ。……そこで待ち伏せしてみる?」
「その宿の場所と出来れば彼がその宿に入っていくのだけを確認出来ればいい。証拠はないし彼らの目的は分らないから」
「それはまあ、そうだけれど……それにどんな意味があるの?」
そこで俺はにやりと笑ってから、
「クロさんの所に戻ったら話すよ」
「カナタの意地悪。……行くよ!」
メイベルが宿へと駆け出して、俺は追いかけて行ったのだった。