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もう一度小さく呟いて

 見上げた窓から、見える三日月。


「カナタは、もう眠ってしまったかしら」


 そう、何処かけだるそうな穏やかな声。

 メイベルは自分の声に、溜息をつきたくなった。

 柔らかなレースのあしらわれた毛布。


 今の時期は暖かくてこの程度で良い。

 そう思ってその毛布をどけて、メイベルはベットに転がる。


 上を向けば花のすかし模様の入ったレースが重ねられた天蓋が見える。

 見慣れた光景。

 ここがメイベルがずっといなければならない息の詰まる場所。

 侍女であり影武者のミィはもう眠っているだろう。

 けれどメイベルは中々寝付けなかった。


「カナタ、か」


 今まで会った男の子で一番美形で優しくて……ちょっと頼りない。


「貴族みたいだけれど家出か。自分の力を試したい、か」


 自分にも覚えのある感情にメイベルは嘆息して、同時に貴族ならカナタの素性は分るだろうと思う。

 名前を偽名にしても方法は幾らでもある。あるけれど。


「もう少しお話したいな」


 こんな気持ちは初めてだった。

 ここにいる同年代がムキムキマッチョしかいないのも理由かもしれないが、


「……心配してくれた、あの力を見せても」


 一応私だって女の子なんです! と憤っても外では笑われるだけだし。

 なのにカナタが素直に心配してくれて嬉かった。

 そん事でと人は思うかもしれないけれど、メイベルにとってはとても嬉しかったのだ。


「カナタ……」


 もう一度小さく呟いて、メイベルはその日眠りについたのだった。







 はっとして俺は目を覚ました。


「クリームシチューに鍋ごと追いかけられた……夢か」


 流石にクリームシチューにおいかけられる展開はないよなと思いながら、俺は背伸びをする。

 ついでに着の身着のままでここに来て、一応、持ってきた袋に代えの着替えとパジャマもあるのだが……。

 服も買ってこないとなと思いながら背伸びをして、大きく俺は欠伸をする。


 ぐっすり眠ってしまった。

 昨日は目が冴えて眠れないと思っていたのに、この様だ。

 やっぱり疲れていたのだろうと俺は思う。

 そこで俺は、シャワーでも浴びてくるかと立ち上がり、体を綺麗にしてから着替えて……鏡の前で、自分の格好がおかしくないかを確認する。


「うん、普通に見える、普通って素晴らしい!」


 等と叫んでから俺は、そこで部屋のドアを叩く音が聞こえてくる。


「カナター、下でご飯を一緒に食べよう!」

「メイベル? こんな朝早くからどうしたんだ?」

「いや、暇で」

「……ところで、下でご飯て、どういうことだ?」

「クロさんが朝食を作ってくれたの。作り過ぎたから皆で食べようって」

「それは嬉しいな。待ってくれ、今行く」

「うん、早くしてね!」


 再び俺は、自分の姿がおかしくないかをじっくりと確認して、


「よし、行こう」

「あれ、何だかいいもの着ているね」

「……おかしいか?」

「うんん、この格好も素敵だなって」

「そ、そうなんだ」


 そう答えながらメイベルに褒められて、何処となく顔が熱くなる。

 素敵だと女の子に言われて悪い気はしないものである。

 それどころか妙に嬉しくなってしまい、頭がぼんやりとしてくる。

 昨日会ったばかりのメイベルなのだが、彼女と話していると俺はそわそわしてしまう。


 何でだろうなと俺は首をかしげながら下の階へと向かう。

 そこでメイベルが俺に振りかえり、


「今日は出来た手のパンを私がお土産に買ってきたの。だから暖かくて美味しいんだよ!」

「そっか、じゃあ起きてて丁度良かったな」

「起きてなかったら、部屋まで入り込んで布団を引き剥がすから安心して!」

「……ドアは?」

「修理すれば大丈夫!」

「……俺、これからも頑張って早起きするわ」


 メイベルに扉を壊されるなどという目立つ事は俺は出来るだけ避けたいのだ。

 それこそ、道行く人達に見向きもされないような雑草のように、隠れていたいのである。

 せっかく上手く逃げ出せたのだから。


 そう思って下の階に来て、店の入り口の横の部分に当たる、階段の下にある裏口に俺は連れて行かれた。

 ドアを開くとすでにサラダやベーコンエッグ、パンが置かれ、そして、


「クリームシチュー?」

「うん、突然クロさんが作らないといけない気がして朝から作っていたらしいよ?」

「……夢の原因はこれか?」

「夢?」

「クリームシチューに追いかけられる夢を見たんだ」

「面白い夢だね、私もそんな夢が見てみたいよ」

「……悪夢だったのに、酷い」


 そう俺がふてくされるとメイベルが笑う。

 そしてやってきたクロとフィリアに、俺は挨拶する。


「おはようございます、クロさん、フィリアさん」

「おはようカナタ君」

「おはよー、あら、結構良い服着ているじゃない。貴族っぽいわね」

「そ、そうですか?」

「冗談よ、さあ食べましょう? 暖かいうちに」


 フィリアは、からかっているつもりかもしれないが俺はしゃれにならないよと、心の中でぼやいたのだった。

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