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何かがおかしい

 軽快に階段を上っていくメイベル。

 何だか子兎が跳ね回るように見えて、それもまた可愛いように思えてしまう。


「こっちこっち」

「メイベル、もう少しゆっくり……」

「頑張れ男の子! でもいつも私が手を引かれる立場だったから、引っ張るのも楽しいかも」

「そうなのか? メイベルが手を引かれる立場って……」


 相手はよほどの……マッチョか? 俺の背丈の二倍以上あるような……そう考えているうちに俺は部屋に到着した。

 何処にでもあるような、良くある扉。

 銀色のドアノブには鍵がついている。


「えっとこれで良いのかな、あ、開いた音がした」


 そしておそるおそる中を開くと、机と椅子、本棚とベット以外、何もない部屋。

 続く先にはトイレやらシャワー室やら台所がついているのだとメイベルに説明されて、行ってみるとその全てが揃っている。

 自分の住んでいた場所の部屋に比べれば狭いが、これでもこの辺りの物件では特に広い部屋らしい。


 人の気配が周りにしない分、気兼ねしなくていいので気楽な雰囲気だとカナタは思う。

 ここにベットを置いて本棚に机に……あ、食品保存用の魔道式冷蔵庫とかも必要で……事前に一人暮らしに必要なものマニュアルを買っておいて良かったと俺は思う。

 そこで俺が必要な他の家具をどのように配置するかについても考えていると、メイベルが肩を叩いて、


「それでカナタはどうする? 必要なものまだまだあるでしょう?」

「あ、はい。ついでに今日の報酬の半分、引っ越し祝いに渡すね」

「え! でも俺はあまり役に立たなかったし」


 それこそ、お猫様に遊んでいただいていたような俺である。

 そんな俺にメイベルは、


「心配してくれたの、嬉しかったんだ」

「心配なんて誰でもするだろう?」

「うーん、私の強さを知っているから少し新鮮だったの。まあ、過保護なのも嫌だけれど、なんていうのかな、守って欲しい女心?」

「何だそれ」

「なんなんだろうね。でもまあ色々買い揃えないといけないから、お金は必要でしょう? 出世払いでも良いから貰っておいた方が良いんじゃない?」

「それは……そうだよな。よし、メイベルよろしく」


 それに頷くメイベルが紙幣を取り出して俺に渡す。

 受け取り、俺は財布にそれを入れて、次いでメイベルに問いかけた。


「近くで家具を売っている店はないか? 幾つか欲しいものがあるんだけれど」

「いいけれど、カナタ、料理が出来るの?」

「うん、一応は。趣味程度だけれど……こんな事になるんだったらもっとやっておけばよかった」

「まあまあ、それってカナタの国の料理?」

「そうだけれど、そっか。ここでは珍しいかもしれないし手に入らないものもあるかもしれないな」

「じゃあ、輸入雑貨店も行ってみる? カナタの国で良く使われているスパイスとか缶詰があるかも」

「そうなんだ、そこも案内してもらえないかな、そのうち」

「いいよ、カナタと行きたい場所私には一杯あるし」


 そうメイベルが笑う。

 俺はそんなメイベルのこの微笑に魅入られてしまう。

 メイベルに出会ったのは今日なのに、すでにずっと一緒にいるような安心感がある。

 これは一体なんなんだろう、そう俺が思っていると、フィリアの声がした。


「メイベル、カナター、お土産のりんごパイ食べましょう!」

「はーい、師匠。カナタ、行こう!」

「え、でも家具とか……」

「それは今すぐ必要なもの?」

「……これから揃えていけばいいか」


 そうメイベルに言われてうなづく俺。、

 食べたりんごのパイは、俺に少しだけ故郷を思わせる味だったのだった。






 夜になって、俺はベットに転がっていた。

 そういえば布団と毛布だけは必要だと気づいて慌ててメイベルと一緒に買いに行ったのだが、


「じゃあこっちを私が持っていくわね!」

「ええ! だって敷布に枕に……」

「全部持って行くのきついでしょう? カナタは」

 

 この程度大丈夫だと片目をつむるメイベルに、とりあえずは毛布だけを持っていく俺。

 おかしい。何かがおかしい気がするのだが、それが俺には良く分らない。

 そして部屋にもって来て布団をしきメイベルと別れた。

 メイベルは家に帰るらしい。


「また明日ね、カナタ」

「また明日」


 手を振って別れて、その後クロさんの料理を手伝い、クロ、フィリア、俺で夕食を食べた。

 今日は歓迎も兼ねてクロが俺に食事をふるまってくれた。

 良い人達というか、何故かすぐに受け入れてくれて居心地が良いというか……。


「それは運が良かったのかもしれないな。でも今日は色々あった」


 まず初めに道を聞いたら悪い奴らに捕まって、それをメイベルが助けてくれて、この部屋を紹介してもらって、悪い奴らのアジトを潰して、生活に必要なものをいくらかかって……。

 俺、活躍してない。


 でも目立たないにはそれも良いだろう、目立つと追手に見つかるしと思う。

 そしてようやく一人になれて静かだから、そろそろ眠くなってきたから眠ろうかなとベットに転がったのだが、


「疲れているはずなのに、妙に目が冴えているな。はあ、そうだよな……一人でこんな所まで来て」


 希望と不安、自分の力を試したい、そんな欲望。

 自分は意外に、自尊心が高かったのだと俺は気づかされる。

 自分ひとりでやる。

 けれどそれは自分の事を自分でやっていく事で、ある程度好き勝手出来るということ。


「それくらいの楽しみがなくちゃ逃げて苦労する意味がないよな。本当に頑張ってあいつらを撒いたし」


 今は見当違いのところを探しているんだろうなと俺はニヤニヤする。

 そう思いながら窓の外を見ると金色の三日月が見える。

 違う空なのにこの月だけは同じで、自分はずっと逃げられないのだと言われるように思い俺はカーテンを閉めた。


「そんなの分っているさ、ただの時間稼ぎだって」


 いつかは戻らないといけないだろう事も。

 けれど思いの他一人というのも居心地が良い。


「良い人達に出会えたからかもな」


 初めにメイベルにあって、それからクロさんやフィリアさんにあって今に至る。


「メイベル、か」


 確かに始めて会った時はびっくりしたが、とても可愛くていい匂いがするいい子で……ああいうお姫様は自分の周りには居なかった。

 それともあれが町娘というものなのだろうか。


「メイベル」


 今日あったばかりの彼女。

 元気はつらつで、力が強くて伝説の“青き閃光拳”の使い手で……。

 そこまで考えて、自分よりも力の強くて戦闘能力のある彼女ってどうなんだろうと思う。

 思って良く良く考えて、大した問題じゃないなと思いそこで急に眠気が襲い彼方は瞳を閉じたのだった。

 

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