表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

昔の作品

作者: 花ゆき
掲載日:2013/10/27

師匠、僕はあなたのために、世界を転覆させる。 






最初に、世界にとても愛された娘がいた。

そのありあまる恩恵による魔力で、彼女は世界を支えていた。

みなが彼女を讚えた。


あぁ、なんてすばらしい――世界の申し子だと。



しかし、彼女は愛されたあまり、歳を重ねることが出来なかった。

世界による溺愛は、彼女を時代から取り残す。

娘に、孫に先に逝かれる悲しさは彼女を追いつめた。


悲しみに生きる意思を失い、動かなくなった彼女。

彼女のために、世界は考えた。

仲間を作ればいい。


流れ星が四つ降り注ぐ。

それが、柱の始まりだ。



柱はその魔力量で世界を支える。

彼らは何度も代替わりをしてきた。ただ一人、中央の柱を除いて。


中央の柱は、世界から祝福を受けている。

その途方もない魔力はつきることなく、国が栄えて、滅びるのを何度も見守っている。


そんな中、柱が一つ崩れた。欠けた柱を埋めるように、それぞれの柱が支える。

しかし、それは一時しのぎでしかなかった。確実に命が削られていく。

柱は、引き継ぐことができる。だが、引き継がせなかった柱の気持ちも分かるため、みな責めなかった。


魔力あるかぎり、命に終わりはない。

その永遠ともいえる時間を、後継者に引きがせることは、重い楔につなぐということだから。


残った柱が動けなくなるほどに追い詰められ、それでも世界を支えた。

世界の寵愛する彼女は、中央の寝殿から、いや、彼女の寝室からぴくりとも動かない。

生身の間隔を切り離して、世界を支えた。

その姿を見て世界は再び考えた。


また流れ星が降り注ぐ。柱が多数生まれた。

ようやく、バランスが保たれたのだ。



彼女は中央の神殿から出てくることはない。

彼女が動けば、世界のバランスは崩れるのだから。

それが当たり前となったころ、彼女の補佐に弟子希望者が訪れた。

動けない彼女のために、選ばれた子どもだった。

彼女からあふれだす魔力に耐え切れないものが多く、逃げ出すものばかりだった。


何人目かの弟子希望者が彼女のもとに来た。

彼は優秀だった。

彼女の魔力に耐え、動けない彼女のために尽くしていく。

独りという孤独から開放された彼女の魔力量は安定し、他の柱も楽になったそうだ。



彼女はそんな弟子の優しさに、忘れていた人の心が蘇っていく。

彼は、心を凍らせた彼女をそのまま愛した。

心を凍らせてまで、自分を守ろうとした臆病な人が中央の柱をしているだなんて、信じられなかった。

そして、それ以上にそんな不器用さが愛しく思えたのだ。

彼女は愛されて、心を取り戻した。



それを、彼女を寵愛する世界が許すはずがなかった。

世界のバランスが崩れる。世界が柱に重圧をかけるようになったのだ。

その重みに耐え切れず柱が減っていくことに、彼女は責任を感じた。

突然の出来事に、柱は代替わりすることなく、少数となってしまったのだ。


そんな傲慢な世界が、弟子は憎らしかった。

世界だからといって、彼女をどうしてこんなに追い詰める。

とんだ傲慢だ――。

彼は決意する。世界を転覆させると。



神殿を飛び出ていった弟子に、彼女はただ涙を流す。

止めることなんて出来るはずなかった。


私は何でもないただの長生きした、臆病な人間。

臆病で、そのままでいればずっと彼と一緒にいれると思ってた。

こんな私じゃ、愛される資格なんてない、と。

ついていきたかったのに、それすら叶わない。


世界の寵愛が、鎖のように彼女を身動きできなくさせる。




世界は、なぜ柱が必要か。

弟子はその原因から調べていった。

古文書をさかのぼり、あらゆる蔵書を読みあさった。

調べていくうちに、弟子は青年に相応しい年齢になっていた。


漆黒の髪の、美しい人は今日も中央の神殿で世界を支えているのだろう。

指通りのよい髪を束ねると、感謝の光を黒真珠のような瞳に浮かべて微笑む彼女が好きだった。

真っ白な肌を病的だと思った。

彼女は外に出たことがないのだ。

だから、彼女の手を引いて外に出たい。

そして陽の光の下で、困ったように笑う彼女を見たいんだ。

その思いだけが彼を進ませた。


ある日、ほとんど虫に食われた本を見つけた。

劣化した用紙に書かれた古文を解読し、虫食い部分を予測し、一つの結論にたどり着いた。

世界はにはなぜ柱が必要か。それは、文字通り柱が世界を支えているからだった。

世界は、浮島だったのだ。




「もういいんだ。誰も犠牲にならなくていい」


弟子は仲間を集めた。仲間になってくれたのは、柱と縁の深い者ばかりだった。

彼らと一緒に柱の元まで浮遊し、魔法による攻撃で世界を支える魔力の柱を砕いていく。

すぐさま、柱たちは異変に気づいた。もちろん、中央の柱もだ。


「やめて、砕かないで……!」


今までの日常が壊されようとしている、その不安に彼女は震えた。

そんな願いを無視して、弟子は最後の魔力の柱を砕く。

弟子は魔力の柱を断ち切った。

柱の宿命も断ち切った。


大きい島が引力にしたがって落ちる。

その場にいる彼が危ない。


「絶対、あなたを死なせたりしない」


中央の柱は、初めて世界のためではなく、愛する人のために力を放つ。

そんな最古の柱に、残りの柱も続いた。

弟子の仲間になった者の中には柱の親族や、恋人もいたからだ。

大切な人を守りたい一心で魔力を放出した。

各々の大切な人を守るかのように、包み込む魔力が柱の砕けた衝撃から守る。

この白い魔力は師匠のものだと、弟子は微笑んだ。


そして、柱の維持に回されていた膨大な魔力が落下する島を包み、そっと地面へ着いた。

地上に降りた浮島。

柱たちは世界から、解放されたのだ。




たまらず最古の柱は、中央の神殿を駆け出し、彼の元まで魔力をまとって飛んで行く。

彼の姿が遠目に見える。

ただ弟子が無事だったことに、嬉し涙を流した。

加速して、彼の元へたどり着いた。

役目を終えたのだと誇らしげに微笑む弟子に、彼女はとびつく。


「バカっ、バカね……」


弟子は彼女の漆黒の髪をなでた。

師匠を追いかけて、いつの間にか見下ろして頭を撫でられるほどになっていた。

それでも、気持ちはあのころと何ら変わりない。


「ねぇ、あなたの荷物を僕にも分けてよ。あなたと一緒に生きたいんだ」


彼女の黒真珠のような瞳を覗きこんで、告げる。

そう言った弟子に、彼女は怯えた。

大丈夫と伝えるように抱きしめる。


「世界にあなたを独占させたりしない。僕と一緒になってほしい」


彼女は、涙で彼が見えなくなった。

長い長い孤独が終わることを感じたのだ。

二人重ねた唇。彼女の巨大な魔力量か二等分になった。


寿命と魔力量は比例する。

彼女は、永遠から、世界から解放された。


「思い出を作ろう。時間は沢山あるから」 


強い光を、手をつないだ彼から感じる。

あぁ、温かい……。


彼女のいつもの困ったような笑顔が、輝いた笑顔になった。

あなたとなら二人、歩める。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ