夢の明日でさようなら そのに、
アケミ 夢見る人
ナオミ 夢見るのは怖い
大層大きな夢を掲げてパソコンを人差し指でトントンと打ち、MAD動画を作成していたアカリ。
「MAD動画を世に上げる」発言から二週間ほどときは経っていた。
未だに完成する気配はなくなんならナオミの方はその発言すらもとうに忘れてしまっていた時の事。
要約動画を作成し終えて彼女は二週間と閉まっていた襖を強く開けた。
炬燵に入りながらブロックブラストをやっていたナオミは肩をびくっと揺すらせて彼女の方を見る。
よしてアケミの姿を見て彼女は記憶が蘇らされた。
まだ夢は続いていたのかとそのすぐ後に感情が走っていきながらもそれを抑えて彼女は聞いてみた。
「どうしたの」
アケミの方はずかずかと炬燵の方まで歩いて行ってその上にPCを置き言った
「見てください」
そうして開かれたPCの画面には何やら作業をしてたであろう編集画面が満遍なく映し出されている。
カーソルは動画開始のシグナルが表示されたところまで持っていかれ、彼女のクリックと共に動画は開始された。
それは既存の曲をドナルドによって歌わせるといったニコニコ動画を彷彿とさせるノリが延々と続いていく内容だった。
チョイス自体古く、いかめしいものがあったがそれに加えてドナルドの音声のレパートリーは三種類しかなくナオミは中盤くらいですでに飽きてしまっていた。
その感情は動画終了まで覆されることはなく何の起伏もなしに終了した。
そうして見終わった彼女は隣できらきらとした瞳を輝かせる一人の少女を見て目を背けた。
「どや」
喜びをふつふつと醸している彼女の表情は耐えがたいものがあり良心の呵責があってか
「うぅん」
と呻くだけしかナオミはできなかった。
その反応が期待していたものだったのかアケミはこの二週間のことを話し出す。
「てか聞いて大変だったんだよ、
だって私そもそも編集ソフト自体触れたことが無かったからまずソフト入れてってところに一日使って、で使い方よくわからないからこれで完全マスターっていう本を読破したのよ。大体二日くらい?
それからMAD動画作り始めてさ、難しいんだよね曲のチョイスするのが、だから色々な動画を調査してみて何と何のコラボが一番心に響く…というかインプレッションを稼いでいるのかを見てみたの。
そしたらマクドナルドのおじさんが結構頻繁に使われててさ。
これは使えるぞってことで有名な動画から素材を拝借してで作ってみたの。」
果たして話し終えてアケミはつづけた。
「それでこの曲何だったか知ってる?」
「…えっと、グリーンピースは赤く完熟する?」
ナオミは何となくなにか止めてやらないといけない良心の呵責に揉まれていたがしかし受けた彼女が一体どう反応するだろうかを想像して遂に切り出せないまま彼女の質問だけに応じた。
「そうそれ、知ってんだ
これもね最近一番有名になってる歌から拝借してきた感じなんだけどさ」
「へー…
…
上げたら?」
「実はもう、上げているんですね」
そういってアケミはyoutubeの画面を示す。
アイコンには電灯についているひもの写真が使われていて、アカウント名は「ブラックエビデンス」である。
「ブラックエビデンス…?」
「そう!
世の中には良くないことがたくさんあるでしょ。
その沢山の嫌なことをブラックって思ってて
ブラックな物って何なのっていう事を教えたいから、教えるってことでエビデンスがいいかな
って思ったからさ」
「あぁ…世の中に対しての啓蒙的な曲を発信するチャンネルだよって名義で説明してるっていうこと?」
「まあそう」
長々としゃべったことを纏められたので不服そうにアケミは返す。
なんか中二病臭いなと心の中でとどめて言わないようにした。
「あ、誰か見てる人いる」
そこには表示数一の記録が残っていた。
とはいってもこんな動画中々再生されるものではないだろう…と内心毒づいていたナオミの目に信じられない光景が映りだした。
表示数が見る見るうちに上昇するのだ。
それは世に言うバズそのものであり彼女たちは余りの上昇率に驚嘆しかできなかった。
「うわああああ」「えな、え…」
アケミの方は純粋にこの曲がたくさんの人々に届けられた承認欲求の解消からオーガズム同然のドーパミンがシナプスを立ち上り続けて止まない。
反してナオミの方は期待していなかった動画の向上率に対して裏で策謀めいたものがひしめいているのではと己の命が狙われているなどと言った統合失調的な妄想に揶揄われていた。
そしてひとたまりもない感情の濁流のままに彼女たちは抱き合って画面を凝視し続けた。
夜が更けてもなお。
もうどれくらい地下になっただろうか。
収監されていた男児は上下感覚を見失ったが為下へ下へと掘り進めていた。
その先には世界をつなぐ意識の繭があった。
男児はその絡まり合っている糸同士をちぎったり結んだりして遊ぶことにした。
やけに血生臭い繭であった。
男児は繭の中で絡まってそのままけらけらと笑った。




