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適当な長話  作者: 二本指
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夢の明日でさようなら

「どうして僕だけ他の人と違うの?」

地上に降る雨も聞こえてこない地下何メートルかの位置にある牢獄に手監禁されている男児がいた。彼は自分の力のことをよく知らないのである。特段やることもないから壁や織りなどを噛んだり引っ掻いたりして自身の体を痛めつけている。けれど死なない。彼は死ねないのだから。

彼は何もできない無力に拉がれてそのまま意識の縁迄泥寝に着く。

ラッパを吹く音がどこかから聞こえる、夏の空がじくじくと人々の精神を痛め、湿気が身体をがんじがらめにして離さない。悠々自適な生活を望んだある女性がいた。それは扶助だったり不労所得による漫然とした経済的充足を意味するものではなく、何処かに心のゆとりを持てる場所を望んで旅をしていた。それは日本に住んでいた。

「私に出来ることがないかって考えたときにさ、やっぱり歌歌うのが一番いいんじゃないかなって、人の心に直接届くのはいつだって心惹きつけるインパクトがあるんだ」

それは一緒に住んでいる人間そうして説いた。

「そ」

片方はあっけからんと無関心である、その人間は知っている、望むべきものが抽象的な人間ほどその信念は全く収拾がつかないものであり、また、そうして蒙昧模糊な理想を掲げる凡人程頑なに夢を曲げない頑固さがあるものだと。だからこそ彼女はなにも反論する意思も沸かずに相槌をうつ。そうしてしまったのは賢さゆえなのかただ僕は納得する自分でいられるならばそのままにいていいと思うのだ。

そっけなく返されたそれは何か自分が取り返しのつかないことを言ってしまったのではないかと言う一種の罪悪感に駆られもしたがそれには人生を通し築き上げて来た道のりを自身の成功体験だと信じて止まない強情さを根に持つ狂信的な敬虔が宿っていたおかげで忘れてしまってそのままにつらつらと夢を語り続ける。

「歌さ、なにがいいかな。やっぱロック系が一番心に響くような気もするんだけどさ。でもメジャーじゃない、みたいなさ」

片方は読んでいた本である『かめはめ波の打ち方』を読みながらまた「そ」とそっけなく返してくる。その人間が蒙昧模糊な精神を反発するのとは同時にこのような本を読んでいたのは、実現不可能な目標に対してどれだけ論理的に遂行可能性を高めているか、という飛躍した妄想の確固たる意味付けに興奮する性癖を持っていたからである

その裏腹に気づかずにそれは「ナオミなんか変な本読んでるくせに、話聞いてよ、私本気なのに」と腹を立てている。それは、人を見ようとしない。外側だけをなぞった人格を本性だと主張し、周りにそれを発信する。どこの誰が言っているのかもわからない迷信めいた性格診断を擁立して、人間を知った気になろうとしている生物だからである。このような人間こそ己のエゴをじっと見る必要があるのだが、自分自身を知るには知ろうと内省しない限り不可能な問題であり、彼女は根拠のない揺蕩った自信を掲げて闊歩しているため、永遠に自分自身を知ることは不可能なのだ。だからこそそれはもっと人の興味を見て、それを聞いて、個人と面白がれる人間にならないといけない。

「私って何がうまいって思う?」

片方は鼻をすすって答えた。

「アケミ、そもそも今日は冷え込むよ」

「今私一言も言ってないからw路上だなんてw一回もw」

片方は半笑いで己を馬鹿にするように笑うそれに対して少しイラっとはしたが些事な感情で揺れる程器が狭いわけではないので感情をシカトする。

「動画動画、youtube。歌うま素人ってたくさんいるから、TVにもそういう人いるし、私も出れたら出れるんじゃないのかなってさ」「うん」

「そこで感情を揺らす音楽作れたらいいくない?」「感情を揺らす音楽って?」

「だからさ、ミセスみたいな、バズってる曲とかがそれでしょ」「うん」

「そうじゃない?」「ん」

そしてそれは発言をやめてしまったので本を閉じて膝に置いていた片方は何か言いたいのかな、と難しいことを表現されるのに少し待っていたが一向に話しだそうとしてこないので追求してみた。

「バズってる曲作れんならいいんじゃに」

そんなこと絶対無理だろうけどという冷笑が密かにあったのが照れたはにかみとして発言に出たのを「じゃにーずみたいに」と不要な言及をしてさらに煙に巻くそれに対して疑問をぶつけることにした。

「曲とかは作れんの?」

するとそれは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて自室に入っていった。それから机の軋む音が聞こえてから出て来たそれの腕にはノートパソコンがあった。「きっとこれでなんか歌用のソフトとか入れて適当に弄ってるとかなんだろな…」と片っぽは内心聞く前から呆れてしまっている。満を持してそれは机の上にノートパソコンを置いて片方に説明を始めた。

「それがね、歌ってオリジナルだけじゃなくて、こういうMADとかがあってさ」

とここまで話したところで片方はこの先の話の展開が何となくわかった気がいて、嫌な予感が叩きながら少し期待感を孕んで聞いてみることにした。

「もしかしてMAD動画の音楽を作るつもりなの?」「そそそそそ!あ知ってた?」

落胆。動画ソフトもろくに触ったことのないし知識量も遊び心も感じた事のない人間の感性で手を付けていい代物ではないだろう片方はそれの持っている自己認知能力の皆無さに落胆した。そして初めの理想から一つ最悪な結末を予想せずにはいられず遂に聞いてしまった。

「もしかして初め言ってたあの、心に届ける曲ってこういうMAD動画で作るの…?」

おそるおそる聞いた彼女の表情を見れないのかそれは調子いいように「うん!」と無邪気に答えてしまった。作れたとしてもできあがるのはきっと呪いのビデオの類である。

「ナオミ機械得意でしょ、手伝ってくれる?」

「…」

彼女は逡巡していた、これを手伝ったところで一体何になるのか、ただ同居人に説得したところでそのような暇人は時間を全く無下にできてしまえる無根拠の勇み足が酷いのできっと聞き入れてはもらえない。つまり同居人に対して同情している余地と同居人に対してどうにでもなれといった自身の中の二項の心情が対立してせめぎ合っていたのである。

「それってさ、やったとこでなんになるの?」

彼女が選択したのは、同居人に対する思いやりであった。若い時間は有効に活用しないといけないモラトリアムの中で怠慢に働いているのは究極に死を予測させる。そのため彼女はそれにも同等の感情で苛まれないようにもなんとか道を阻めることを選んだ。

「なんでそんなこというの?」

「…私は、それ、あー。なんか…」

「じゃあ編集方法教えるだけでいいから、いいでしょ」

「…」

隣人は思考を放棄した。

「分かった。」


初めの夢。


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