27
学校から直接目的地に向かっても良かったのだが、教科書やノートが入っているカバンは、それなりに重い。
何より女性物の下着が入っているカバンを持ち歩いていて、万が一があっては困る。
とても……困る。
運悪く近所で下着ドロでも出ていて、巡回している警察に呼び止められてみろ。
カバンの中身を見られたら、即行連行されてしまう。
普段は保健室に預けてあるのだが、明日から連休が始まるのだ。
致し方ないじゃないか。
金庫の中なんて密閉された空間に、何日間も空気に触れることすら許されず閉じ込めていては、下着たちがかわいそうだろう!?
然るべき手入れをして、メンテナンスが必要ならば、施さなければならない。
ただでさえ、昼休みに乱暴な扱いを受けたのだ。
ほつれが無いか、生地が伸びていないか、確認しなければ。
そう思い持ち帰ったのだが、これは……なかなかに、肝が冷える。
親か姉に車で迎えに来て貰えば良かったと、後から気付いた。
まぁ、何事もなかったし、いいんだけど。
カバンを自室に放り置き、制服から私服に着替え、それをハンガーにかけ、除菌スプレーを掛けるのも忘れない。
すぐにはクローゼットに入れない。
風を通して置かなければ、除菌スプレーの匂いがこもってしまうからな。
不衛生は女性を不快にさせる。
抜かりはない。
ブラシは、スプレーが乾いてからの方がいいし、帰宅後にかけよう。
目薬を持ち歩くのも面倒だと思い、洗面台へと向かい、コンタクトを外した。
幼い頃を振り返った時、昔の自分の将来の夢が‘’王子になること‘’だったのを思い出し、鏡に映った自分の姿を見て、苦笑する。
昔は、見た目だけで自分が王子になれると信じて、疑っていなかったな。
そんなことを思い出した。
見目の良し悪しではなく。
いや、それも重要かもしれないけれど。
視界に入るだけで他者を不快にさせるような見た目では確かにないが、誰もを骨抜きに出来る程整った顔をしているだなんて、そんなナルシーなことは思っていない。
確かに、悪くはないと思うが。
むしろ、どちらかといえば良い方なのではないかとも思うが。
……十分ナルシストな発言な気もするが、そうではなく。
普段は、詮索されるのが面倒くさいのでカラコンで隠している、部分的に緑がかったようにも見える、空色の瞳。
昔は、髪の色も金に近い色で、よくハーフに間違えられた。
今は妹たちの称号になっているが、当時は僕も‘’天使‘’と揶揄されていたものだ。
実際は母の祖母? 曾祖母?? がハーフだったのかな。
確かに外国の血は入っているが、いわゆる先祖返り的なもので、僕を構成している大半の要素は日本国産だ。
世にあふれているお姫様が登場する物語は、金髪碧眼の王子様がセットだろ?
だから、その見た目があれば、自分も王子になれると信じて疑ってなかった。
そうそう。
あの子が綺麗な黒髪で、肌も色白く、唇は鮮やかな紅色をしていたから、白雪姫のようだと例えたことがあったな。
一度記憶の扉を開くと、些細なことでもどんどん思い出せる。
忘れたことにしていただけで、本当はずっと、あの子のことを思い出したくて、堪らなかったんだろうな。
……本当に、好きだったから。
成長とともに髪の色は濃くなってしまったが、流石に目の色は変わらない。
今でも、僕はあの子の王子になれるのだろうか……
そんな少女漫画のようなことを想像するが、現実はそうはいかない。
なにせ僕は‘’みんなのおっぱい王子‘’に成り果ててしまっているのだから。
はぁ……
なんでよりにもよって、王子の上についているのが‘’おっぱい‘’なんて単語なんだよ。
いや、‘’なんて‘’と言う言葉こそ使ったが、決しておっぱいを馬鹿にしているわけではない。
おっぱいは偉大だ。
正義だ。
誰がなんと言おうと、その事実は覆らない。
しかし大衆的に――特に女性に受け入れられる単語かと言えば、そうではない。
学校中からもてはやされる、眉目秀麗な神童で、誰もが羨み王子と認めるような人物になれていれば、約束の片鱗すら思い出せなくても、王子であることに自信を持って、白馬に乗るわけにはいかないが、連休後にでも彼女の教室に赴き、堂々と迎えに行けたのに。
そして謝罪して、仲直りの要求でもなんでも出来たのに。
……流石にそれは、傲慢か。
落ち度は僕にあるのに、こちらの要望を上から要求するとは、僕は何様だ、と言う話である。
要求云々は無しにしても、こんな肩書きの僕が教室に行こうものなら、彼女が後ろ指をさされることになるかもしれない。
悲しませ失望させている上で、更に迷惑までかけるわけにはいかない。
そうなっては、こちらの弁明を聞いてもらったり、彼女の話を聞くことはおろか、口さえ聞いてもらえなくなりそうだ。
それだけは嫌だ。
せっかく再会できたというのに。
頭を振りそれを回避するためにも、この連休中に、出来るだけあの子のことを、あの子と交わした約束を思い出せるよう、頑張ろう。
深呼吸をして気合いを入れ直し、スマホと財布だけポケットに突っ込んで、部屋を出た。
出かけぎわ、リビングに母がいたので、出かける旨と遅くなる可能性があることを伝える。
門限を特に設定されているわけではないが、こんな世の中だし。
男だろうと関係なく、事件に巻き込まれる可能性を否定できない。
どこに何をしに行くのかを告げ、いつでも電話を取れるようにすると言って置く。
流石に「EDを一生抱えて生きて行くのは嫌なので、その呪いを解く糸口を探しに、幼稚園時代の思い出の地を散策に行ってきます」とは言えない。
言葉だけ聞いたら、何のこっちゃと思われる。
僕自身も、そう思うし。
「幼稚園の頃の友人と再会したはいいが、その頃のことをあまり覚えていないため、話がイマイチ盛り上がらなかった。
次会った時のために、思い出しがてら散歩をしてくる」
そう言った。
うん、嘘はついていない。
母は詳細を聞くこともなく、見送ってくれた。
僕が戻ってくるまでに、「卒園アルバムを出しておいてあげる」と進言までしてくれた。
そうだな。
当時の写真を見て、何か思い出せることもあるかもしれない。
宜しく頼んで、足早に門をくぐった。
更新頻度落ちます。
ご了承下さい。




