18
結局食べ損ねたお弁当は、授業の合間の短時間休憩の時に胃袋へ収めた。
大抵ゆっくり味わって食べることが叶わないからと、弁当を作ってくれる下の姉には、パンで充分だと言ったのだが「成長期に食べないでどうする」と返された。
僕の実情を話すと、分割して食べやすいように、ごはんはおにぎりに、おかずはスティックに刺して毎日用意してくれるようになった。
面倒だろうに、ありがたいことだ。
良いお嫁さんになると思うのだけど……なぜ、あぁも男運に恵まれないのか。
口を滑らせると次の日のお弁当の、おにぎりの中身がオカカからイナゴの佃煮に、ナゲットにかかるケチャップがデスソースになりかねないので、決して口には出せない。
下駄箱に行くまで油断は出来ないが、朝に続き放課後もフィッティングの予定は入っていない。
上級生も同級生も、大半の女生徒は一度カウンセリングをしている。
昼のメガネの先輩のような人は稀だし、一年にそう何度もフィッティングをする必要はない。
下級生に関しては、まだ学校生活に馴染めていない時期だ。
まずは交友関係を広げ、不慣れな校舎で教室の位置を覚えるのを優先させる。
そんな中で怪しさ満載のあだ名で呼ばれている先輩を呼び出して、自分に合った下着を見繕って貰うなんて猛者は、早々いない。
昼に来た子たちは、なかなか肝が据わった女性たち、ということだな。
友人知人、姉妹に僕が過去見た人がいたとか、そういう理由でもない限り、下級生が依頼に来ることはない。
直接呼出しに教室へ来たのは、今回が初めてだ。
今のところ、手紙で呼び出されることばかりだな。
上級生の教室に顔を出すというだけで難易度が高いのに、その上あのあだ名で呼び出さなければならないのだから、当然だろう。
一種の苦行だもの。
僕の本名が浸透していないばっかりに、申し訳ないなぁ。
是非とも尻込みして、この悪しき伝統を断ち切って貰いたいものだ。
僕としては現状を、後学のためと思えば、決して悪いことばかりだとは思わない。
色んなおっぱいと触れ合えることは、僕にとっても至福の時間と言える。
それで女性が喜んでくれるならウィンウィンだし、良いこと尽くめと言えるのだろうが……
……暫くは、ゆっくり過ごせる日が続くのだろうか。
ぼんやりそんなことを考えながら、放課後、春風の通る誰もいない教室で一人、ぼんやり外を眺める。
将来勤めることになるであろう会社の社長から直々に、インティメイトアドバイザーの資格を取るよう仰せつかっているので、その勉強の時間は必要だ。
学生の本分である、学業だって疎かにしてはならない。
決して悪くない成績とはいえ、順位や点数が下がればお小遣いをカットされるし、赤点を取って放課後の時間や休日を潰すなんて、絶対に嫌だ。
貴重な時間を割いて、光栄にも僕を望んでくれる女性のためにも、下着の流行に敏感でありたいから情報収集だって怠れない。
なにより、女性をより美しく魅せるための技術を向上させたい。
自分の中にあるイメージを、紙ではなく実物におこすための特訓もしたい。
しなくては、と言う使命感や義務感に駆られる物事も多いが、したいと思うことも同じくらい多い。
時間はいくらあっても足りない。
そう感じる。
フィッティングの時間は楽しい。
快感も得られるし、目の保養にもなる。
料理の下ごしらえと例えたがまさしくその通りで、そこで手を抜いては、その上から着る衣服もなし崩しになってしまう。
基礎である身体のラインが崩れた状態では、せっかく着飾っても、その美しさが半減してしまう。
他の誰かの手に任せるくらいなら、僕自身で採寸して土台からしっかり携わって”魅力的な女性”を完成させたい。
今僕が出来るのは、その、下ごしらえまでだ。
それがもどかしいと感じている。
もっとこうしたい。
ああ出来たなら。
フィッティングが終了し、シンデレラフィットとも言える程、相手の女性に適した下着をあてがえられた時の達成感と同時に、その上から衣服を着てしまった時の、あの美しさを隠され消されてしまったかのような喪失感。
虚しくなる。
制服は仕方ないと、諦めねばならない部分もある。
それでも、「その制服サイズ合っていないですよね!? 採寸した責任者呼んで来い!!」と叫びたくなることが多い。
将来の進路希望を提出するにあたり、改めて真面目に考えた時。
両親を尊敬しているし、社長である母さんが許可してくれるなら、雇って貰いたいと思ったことは多々とある。
だけど僕が将来したいと望んでいることは、フィッティングでも下着作りでもデザインを起こすことでもない。
一人の女性を最も魅力的に、完璧と言える状態までもっていき、輝かせることだ。
一から十まで、全て自分の手で行いたいと思っている。
いわゆる、トータルコーディネート。
……の下着を選ぶ所から。
それは、ほら。
おっぱい好きだし。
下着も好きだし。
しかし、そんなことを事業にしてしまったら、身体がいくつあっても足りない。
あれもこれもと手を出したら、手を抜くわけではなくても、どこかしら穴が出来てしまい、結局僕の希望から遠ざかる。
難しいのは分かっている。
デザインをするだけ。
パターンを起こすだけ。
縫うだけ。
言葉にすればだけだとしても、それらだけでも大変なのを目の当たりにして、日々過ごしているのだ。
修羅場も何度も見て来た。
全てを行うなんて、無謀と言う他ない。
僕好みに、着飾らせたいのではない。
相手の要望に沿い、寄り添いたい。
その上で自信たっぷりに「私、綺麗でしょう?」と言って歩ける女性が、世の中に溢れるようになって欲しい。
内に閉じこもらずに、積極的になれる女性が増えて欲しい。
日本は昔気質な人が多いせいか、男尊女卑が根付いてしまっているせいか、女性を卑下す男性は未だ多い。
そんな社会で育ってしまったせいもあるのだろう。
胸を張って自信満々に生きられる女性が、少ないと感じる。
女性に敬意を表されたいと望みながら、女性には敬意を払わない野郎が多すぎる。
度し難いことに、無理矢理性的なはけ口にされ、道具扱いされる人もいると聞くし。
僕は、ちょっとで良い。
男なんかに従わなくても、自己主張をしても蔑ろにされず生きていけるのだと、自信を持つための、力添えが出来るようになりたい。
その手助けをしたいと思うのだ。
どう足掻いても、筋力的な問題で抵抗出来ないパターンもあるけれど、抗える項目を増やすのは、いいことだろうし。
数多くのおっぱいと触れ合うことで、この一年で自信も付いてきた。
技術だって前よりも向上している。
お世辞を言わない姉からも上手だと、太鼓判を貰った。
あとは、口で言うだけにならないよう、まだ出来ていない所に着手しようと思っている。
目下の目標は、インティメイトアドバイザーのバッジ取得だ。




