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「どうぞ」と意を決したような、覚悟が込められた声をかけられた。
全員、準備が整ったようだ。
何も取って食いやしないのに。
なぜ皆、そこまで緊張するのだろうか。
望んでこの場にいるはずなのに。
カーテンを開ける前に「失礼します」と一声かけ、まず後方を確認しつつ鏡を中に入れ、その後すばやく中に入った。
そして改めて、カーテンをキッチリと閉める。
ガンちゃんしかいないけど、念のためだ。
女性陣からしてみれば、タイミング悪く。
保健室に赴いた野郎からしてみれば、ラッキースケベに預かることができる状況だ。
気を付けるに越したことはない。
実際フィッティングを始めた最初の頃は、半裸状態の女生徒たちを拝むことができるかもしれないと、その些細な可能性に賭けた数少ない男子生徒が、口実を作って保健室を訪れることが多かった。
熱がある気がするとか、気持ち悪い気がするとか。
わざわざフィッティングをしている時間帯を狙って増える保健室の利用者に、一時期ガンちゃんは頭を悩ませていた。
そういう仮病は顔色を見て追い返せばいいけれど、カッターで指を切ったとか、転んで擦りむいたとか言われてしまうと、万が一があってはいけない。
雑菌は怖いからね。
なのでガンちゃんも、無下に追い返し難かったに違いない。
なのでフィッティングをする区画に、一枚厚手のカーテンを増やして貰った。
経費は、母さんの会社持ちだ。
それ以降は、偶然でも覗き見ることが叶わないと悟り、更に女生徒から毛虫を見るような目で見られたために、男子生徒が覗きに来るようなことは無くなった。
未だに、感想を聞かれることはあるけどね。
一体なんだよ。
感想って。
中に入り、改めて「宜しくお願いします」と頭を下げて一礼をした。
依頼者は向こうだが、フィッティングは僕にとっても利がある。
丁寧な態度を、崩してはいけない。
やはり後輩ちゃんの一人が制服をきっちり着て、モデル系の後輩さんと共に、ベッドの横に置いてあった椅子に座っていた。
酷くバツの悪そうな顔をしている。
悪いのは、僕なのに。
「配慮が足らず、申し訳ありませんでした」
そう言って、先ほど用意しておいた小さな紙を手渡した。
素直に受け取り、そこに書かれている内容を見て、首を傾げる後輩二人。
その紙自体は全員に渡すつもりだから、説明は後でしますよ。
その後、依頼者三人に向き直る。
そして……僕にとって、至福のひとときが始まる。
あだ名こそ気に喰わないが、僕も大衆男子の例に漏れず、おっぱいは好きだ。
大好きだ!
母性の象徴だからとか、本能的に惹かれるからだとか、そう言う理屈はどうでもよろしい。
十人十色の、個性溢れる大きさや形。
肌触りや柔らかさもそうだが、何より触れた時の吸い付くような、それでいて少し力を込めれば指を押し返すように反発する、あの唯一無二の感触。
年齢によって変化する肌の質感も、肉付きによって様相を変える質量も、どんなおっぱいも尊いものだ。
おしりはおしりで魅力的だし大好きだが、筋肉が大きいせいなのか、臀部はもっとドッシリと重量感がある。
触れた時の感覚も、おっぱいとは全然違う。
座れば押し潰される、過酷な運命にあるからだろうか。
おしりには、初々しさや儚さのようなものが少ない。
僕は、おっぱいの方が好みだ。
おっぱいは正義である。
大きくても小さくても、おっぱいを前にしたら、敗北の白旗を掲げる以外の選択肢は、存在しない。
勝てるわけがないのだ。
戦うだけ無駄だろう?
自分のサイズに合う、色味も肌に適応した下着を身に着けた女性の破壊力は……ハンパないぞ。
艶やかさが天井知らずで、正しく、男の理性なんて簡単に破壊されてしまうだろう。
いや、そこは壊されちゃダメなんだけどさ。
ある意味、僕が女性の半裸姿を見ても興奮できなくなったのは、僥倖だったのかもしれない。
もしカウンセリングをする度に理性が決壊していたら、何度牢屋に入るハメになっていたことか。
きっとお巡りさんに名前と顔を覚えられ、何度目の連行なのかを数えられるようになるんだ。
あまりに連日通報されるものだから、取り調べの際のカツ丼を出し過ぎて、警察署が破産してしまうかもしれないね。
そういえばアレって、昭和ドラマだけの話なのかな。
……任意同行された被疑者なら、取り調べ中に好きなメニューを頼めるけど、逮捕者は出されるお弁当しか食べられないんだって。
げっ!
しかも被疑者の自腹って書いてある!!
やっぱナシナシ!!!
勃起障害上等!
僕は今のままでいいです!!
女性をより美しく魅せるための、ツールになれる。
そんな現状が、僕にとって最高の立ち位置なのだから。
ED疑惑はほぼ確定だとしても、僕は今に満足している。
完成形にたどり着くための道程とも言える採寸は、料理で言うところの、下ごしらえに相当する。
ここで手を抜いてしまっては、せっかくの美女たちも、結果に導くことが出来ず、魅力が一割も二割も減ってしまう。
妥協なんて、一切許されない。
だから僕は誠心誠意、全身全霊をもって、フィッティングを行うのだ。
特技だと他者に称されるまで成長してしまった、視姦による女性の肉体の数値化だが、なにも、悪いことばかりではない。
採寸をすることによって、寸分の狂いなく自分の目が、感覚が正しいと証明された時のあの、例えるならばパズルのピースがカチリとハマった時のような、何ものにも代え難い恍惚感を得られるようになった。
そしてその数値から導き出され、宛がえた下着に身を包んだ女性の脇や腹部、背中から寄せて上げた、いわゆる贅肉として嫌悪されがちな脂肪が、見事にカップに収まり、愛し慈しまれるおっぱいに代わった時の、あの達成感。
艶やかさが増し、喜び、満足し、より美しく、より華々しさを増した女性たちの、自信に満ちた、あの表情。
下手な自慰よりも、余程自分の欲求を満たしてくれる、あの感覚。
大変……すばらしい。
羞恥に染まった表情が、喜びの表情に一転する時の……そう。
一種の支配欲に似た感覚は、他では味わえないのだよ。
変態と言われようと、かまわないさ。
男は多かれ少なかれ、皆変態です!
きっぱり!!




