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初めましての方も、他の作品でいつもお世話になっている方も、言うも憚られる新作ですが、是非とも宜しくお願いいたします!
一年の計は元旦にありと言うくらいだし、元旦に一話目上げたいな、と思っていたのに前準備ばかりで全く執筆出来ていないので、何年も前に書いたプロトタイプをとりあえず更新します!
ごめんなさい!
今日も今日とて、上級生と下級生から”お呼出し”がかかる。
四限目の授業が終わり、早くこの飢えを満たせと言わんばかりにせっついて、グゥグゥと鳴くお腹をようやく鎮められる。
そう思っていたのに。
……珍しく今朝が平穏だったので、油断した。
大きいノックの音とほぼ同時に、ガラガラと響く教室のドアを開ける音。
それに負けず劣らず大きな声で、僕の聞き間違えようのない不名誉な通称が、叫ぶかの如く呼ばれる。
勢いよく開かれたドアの前には、合計ニ組、五人の人影。
偉そうに胸の前で腕を組んで仁王立ちしている上級生と、その後ろに隠れるように控えている、たぶんこちらも上級生だ。
僕の席は窓際だから、座っていると当然、その足元が見えない。
靴の色が確認出来ないので定かではないけれど、見覚えがなんとなくあるし、上級生だろう。
仁王立ちをしている先輩は、陸上部だろうか?
日焼けし、ほど良く締まった細身の肉体と、ポニーテールにしている長い髪から覗く、うなじのバランスが素晴らしい。
なるほど。
この見た目ならば、しおらしくしているよりも、今のように快活で偉そうな態度の方が堂に入って、似合っている。
自分のキャラクターが、よく分かっていらっしゃる。
その先輩を盾にしている女の子、と歳上に対して失礼な印象を抱いた先輩は、いかにも図書委員をしていそうなおとなしい雰囲気の、眼鏡と三つ編みが似合う人だ。
隠れてしまっていて、その肉体を見る事は叶わない。
まぁ、後で嫌でも見ることになる。
チラと見える分には、太っていると言うことも無し。
痩せていると言うことも無し。
あえて言うならぽっちゃり、と言う形容になるだろう。
健康的で大変よろしい。
その横には身長の高い子を中心にして、その両端に一人ずつ、もじもじと身を縮こませながらニ人組の上級生と、こちらを交互に見ている見覚えのない、恐らく下級生たち。
そのニ人は、まだ中学生に毛が生えたと言う感じの、ある程度の幼さを残している印象だ。
肉体の発育も、まだまだ途上の様子である。
幼児体型という名の蛹から、大人の女性の肉体へと羽化しようとしている。
この時期にしかお目にかかれないであろう貴重なひと時を、僕に提供してくれるだなんて……
……――と感激出来たら良かったのだろうが、残念ながら何の感慨も、感銘も受けない。
もう、似たような状況に何度も遭遇しているせいで、慣れきってしまっているのだ。
それこそ、数え切れない程の回数である。
事情を知っていたとしても、聞く人によっては後ろから刺して来かねないセリフになってしまった。
だが、事実なのだから仕方ない。
そう、仕方がない。
溜息を吐き、立ち上がる。
周囲が小柄なため、また大半の生徒が既に机を移動させたり、教室から出て行ってしまったりしているので、立てば本日の利用者の靴の色が確認できた。
中央の子は早熟なのか、下級生ニ人と同じ靴の色をしているが、随分と大人びて見えるな。
すらりと伸びた手足と、メリハリのついた体形。
顔を見ると大衆向の顔立ちで、モデルでもしていそうだ。
どこもかしこも成長しきっており、これ以上の発展は余程の事が無い限りなさそうである。
いや……キッチリと着た厚手の制服の上からでも解る、この違和感の正体は、何だ?
この僕でも、掴めない何かが彼女にはある。
むしろ、この五人の中では、一番伸びしろがあるということだろうか。
育て甲斐がある、と言う意味ではなく、すでに完成されている芸術品に、さらに手を加えてより自分好みに仕上げる。
そんなやり甲斐を覚えると言うか。
ガンプラ的な。
いや、女性を例えだとしてもプラモデルに見立ててはいけないな。
物じゃないんだから。
当然だが直接見てみないと、正確には判らない。
どちらのグループも、目的は同じだろう。
ならば、見てやろうじゃあないか。
ニチャッとした笑みを浮かべないよう、全力で表情筋に力を入れる。
そうすれば‘’王子‘’と揶揄する人もいる程に整った顔に見えることだろう。
数少ない同性からは、尊敬と嫉妬の眼差しを向けられ、やれ『帰ってきたら感想を聞かせろ』だの『いつかシメる!』だの、好き勝手なことを言われる。
これも呼び出しと同様、いつものことだ。
気にするだけ無駄である。
今日は気分がいい。
ご希望通り、手取り足取り教えてやろうじゃないか。
立ち上がるだけで、多数の異性の同級生から、憐れみと軽蔑の混ざった、精神的ダメージの大きい視線による無言の攻撃を喰らう。
僕は慣れているから多少平気になったが、他の男子にはそんな目線を送らないで欲しい。
この年頃の男の子は、とても繊細なのだから。
……そう、女性の柔肌のように。
思考が早くも保健室へと飛びそうになり、僕はもうひとつため息を吐いて、表情を引き締めた。
誰が希望者なのだろうか。
気恥しそうに隠れている、三人かな。
なら、少ない方だ。
早く終わらせて、ゆっくりご飯が食べたい。
……いや、もしかしたら。
この五人全員が、僕をご所望なのかもしれない。
そうしたら、弁当を食べている余裕なんぞ微塵もないぞ。
どれだけ早く終わらせようとしても、一人十分はかかるのだから。
万が一食べ損ねてしまった時のために、せめてジュースだけでも買えるようにと、小銭入れをケツポケットに突っ込み、呼び出しに応じるために扉へ向かった。
「いってらっしゃ~い、おっぱい王子!」
「そのあだ名で呼ぶな!!!」
ふざけた、不名誉な二つ名を呼んできた友人に憤る。
しかしそのあだ名を聞いても、他の同級生たちが笑うことはない。
怒鳴り返されたヤツも、その理不尽さに怒り返してくることもない。
何を今さら、と肩をすくめるのみである。
なにせこのやり取りも、いつものことだから。
……そう、僕は王子は王子でも、頭に人前で口にするのは憚られる、その四文字が付けられたあだ名で呼ばれている。
いつのまにか恒例となってしまった、とある作業のせいで、‘’僕=おっぱい王子‘’の方程式が学年中……いや、全校生徒にすら留まらず、先生の間でも定着しきってしまっているのだ。
王子ですら恥ずかしいのに、更にその上でオッパイだぞ?
何を考えているんだ、最初にそのあだ名で呼んだ野郎は!?
……いや、名付けたのは女生徒だろうけど。
だってこの学校、元女子校だから。




