表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある執事の日常 ~お嬢様の中の人は多分ギャル~  作者: コシノクビレ
第四章 灼熱の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/63

第五十九話 炎獄の迷宮①

 翌朝、まだ日が昇りきらない薄暗い時間に俺たちは王宮を出た。


 お嬢様は既に目が冴えきっていて、昨夜から何度も装備を確認している。オクタヴィアも緊張した面持ちで大剣ルミナス・ヴァルキリアの柄を握りしめていた。セバスチャンだけは相変わらず落ち着いた様子だが、その目に宿る光は鋭い。


 火山の麓、炎獄の迷宮入口には既にドラガ王とロートニア王が待ち構えていた。


 朝靄の中に立つ二人の姿は、今でも十分に英雄の面影を感じさせる。


「よく来たな」


 ドラガ王が腕を組んで頷いた。


「三日以内に守護者を倒し、宝珠を持ち帰れ。それが合格条件だ」


 ロートニア王が付け加える。


「守護者なのに倒しちゃっていいの?」


「がっはっは。既に倒すつもりでいるのか! その意気や良し!」


 お嬢様の疑問にドラガ王が満足そうに頷く。


「だが心配は無用だ。守護者に生死の概念はない。戦って相手を認めた段階で宝珠へと姿を変えるが、翌日には何もなかったかのように鎮座している」


 ドラガ王の説明にお嬢様が安心した表情を浮かべる。負ける事など一切考えていない…。


「過去、誰一人として成功していない。だが、お前たちならきっと......」


 ロートニア王のその言葉こそ冗談めかしていたが、表情には真剣さが滲んでいた。


「絶対クリアする! ドラちゃんとロトっちを超えてみせるから!」


 その宣言に、二人の王が笑った。


「イグニスにドラガの名前で宜しく言っておいてくれ。そのうち顔を出すってな」


「無理はするなよ。命より大切なものはない」


 ドラガ王が最後にそう告げると、巨大な石の扉がゆっくりと開いていく。


 中から熱気が溢れ出し、空気が揺らぐ。


 俺たちは四人、並んで一歩を踏み出した。


 扉が背後で閉まる音が、やけに重く響いた。



☆☆☆



 ダンジョンに侵入してすぐに違和感を覚えた。


「......静かすぎる」


 俺が呟くと、セバスチャンも頷いた。


「ええ。ガルガ副議長の講義では、入口付近にも火炎蜥蜴や溶岩スライムが複数生息していると」


 そう、本来ならBランク級のモンスターがうじゃうじゃいるはずだ。


 だが、姿が全く確認できない。


 隠れている可能性もあるのだろうが、そもそも気配すらない。


 お嬢様が首を傾げる。


「みんなお腹すいちゃったのかな?」


「警戒を怠らないでください、お嬢様」


 俺はそう告げながら、周囲を観察する。


 溶岩が流れる通路が続いている。赤い光が壁を照らし、熱気が容赦なく肌を焼く。ガルガ副議長の地獄の講義を思い出しながら、溶岩流のルートを予測する。


「この先、三十メートル進んだところで通路が二手に分かれます。右は溶岩流が増す危険ルート、左は蒸気が噴出する罠が多いルート」


 オクタヴィアが地図を広げる。


「副議長の講義資料によれば、左ルートの方が最短距離ですわね」


「だが罠が多い。慎重に進む必要があるな」


 セバスチャンの言葉に、お嬢様が頷く。


「じゃあ左で。罠は知識があれば対処できるもんね」


 さすがガルガ副議長。ここに来て改めてあの講義の時間に感謝する。


 俺たちは左の通路へ進んだ。


 果たして、講義で習った通りの場所に蒸気噴出の罠が仕掛けられていた。床の僅かな亀裂、壁の変色、空気の流れ。全てが教材通りだ。


「ここですわね」


 オクタヴィアが指差す。


「ええ、間違いありません」


 俺が罠の起動タイミングを計算し、セバスチャンが魔法で空気の流れを操作する。蒸気が噴出するが、俺たちはその合間を縫って通過した。


「副議長の特訓マジ意味あったじゃん!」


 お嬢様が嬉しそうに笑う。


 だが、俺の違和感は拭えなかった。


「やはり、、、、あまりにもモンスターが......いなさすぎる」


 通常なら何度も戦闘になるはず。


 それなのに、一体も遭遇していない。さすがに偶然では済ませられない。


 これは異常だ。


「何か......ダンジョンの中に、モンスターたちを怯えさせる存在がいるのかもしれません」


 俺の推測に、三人が顔を見合わせた。


「新種のモンスター、ですか?」


 セバスチャンが問う。


「分からない。同種族でも突然変異的に強い個体が生れることもある。どちらにせよ最大限の警戒を続けていく」


「一体何が......」


 オクタヴィア嬢の言葉が途中で途切れる。


 俺たちは更に奥へと進み続けた。




 一日目の夜営は、比較的安全な空洞で行った。


 溶岩流から離れた場所で、温度も多少マシだ。


 お嬢様が簡易的な結界を張り、セバスチャンが見張りのローテーションを組む。


「私が最初、次にクラウス殿、その次にオクタヴィアお嬢様とレティシア様で」


「了解」


 当初俺とクラウスだけで見張りをするつもりでいたが、二人のお嬢様が猛反対。


 『あなた達は使用人ではなく仲間です』とはオクタヴィア嬢の言葉だが……。いいえ使用人です。…俺間違ってないよな?


 セバスチャンと説得を試みたが、全く意見を曲げる気のないお嬢様らに俺たちが根負けした。何とかお嬢様二人での見張り、とするのが精いっぱいだった。


 俺は携帯食を口に運びながら、これまでの道のりを振り返る。


 罠は多かったが、全て講義で習った通りのもので対処は容易だった。だが、モンスターは依然として姿を見せない。


 明日、異変の原因に辿り着ければいいのだが。




 二日目。


 さらに奥へと進むにつれ、熱気が増していく。


 空気が重い。呼吸するたびに肺が焼けるような感覚だ。お嬢様が回復と体力強化のバフをかけ続けてくれているが、それでも過酷だ。


「もうすぐ......最奥層です」


 セバスチャンが地図を確認する。


「守護者の間まで、あと二百メートル」


 オクタヴィアが大剣を握り直す。


「ついに、ですわね」


 相手はSランク相当の古代を生きた魔獣だ。


 油断すれば、当然命はない。


 通路が開け、巨大な空間へと出た。


 目の前に広がるのは、溶岩の湖。


 赤く煮えたぎる液体が、不気味な光を放っている。そしてその中央の岩盤に、巨大な影があった。


 

 炎龍イグニス—



 全長二十メートルを超える紅蓮の龍。ガルガ副議長の講義で習った通りの姿だが、イメージよりも全然大きい。


 鱗は溶岩のように赤く輝き、翼を畳んだ姿はまるで山のようだ。


 荒い息遣い。


 鋭く光る瞳。


 明らかに気が立っている。むしろ殺気といっても過言ではない。


「近寄るな......人間よ」


 低い咆哮が響く。


 古代魔獣の中でも、高い知能を持つ個体は人語を解するとガルガ副議長が言っていた。だが、その声にも殺気が籠る。


 ”好戦的だが敵意はない”と習っていたが、とても敵意が無いようにはみえないのだが。


「お嬢様、下がってください」


 俺は一歩前にでてお嬢様を庇うように構える。


 セバスチャンも細剣を構え、オクタヴィア嬢が大剣を両手で握る。


 と、龍が突然動いた。


 巨大な爪が振り下ろされる。


「散開!」


 俺とセバスチャンが左右に飛ぶ。


 爪が地面を砕き、岩盤が砕け散る。オクタヴィア嬢が大剣を構える。


「レティシア様、バフを!」


 お嬢様が杖を掲げる。


「全員全マシマシ~!」


 光が四人を包んだ。


 身体が軽くなる。魔力が溢れる。筋力・敏捷・防御、全てが底上げされる感覚、戦闘開始だ。


 龍の一撃が地面を砕く。


 溶岩が噴き上がり、空気が爆ぜる。


 俺は影魔法で龍の足元へ滑り込む。セバスチャンが細剣で関節を狙う。だが、龍の反応が早い。尾が薙ぎ払われ、俺たちは後退を余儀なくされる。


 オクタヴィア嬢が自慢の愛刀を振るう。


「せいやぁぁぁっ!」


 大剣が龍の前脚に直撃する。


 だが、鱗が硬い。


 まったくダメージが通らない。


「くっ......!」


 オクタヴィア嬢が歯噛みする。


 龍が咆哮し、炎のブレスを吐いた。


「散開!」


 俺の声に、全員が四方へ飛ぶ。


 炎が通路を焼き尽くし、岩盤が溶ける。間一髪で回避したが、あと一瞬遅ければ全員炭になっていた。


「やっぱ強いね!」


 お嬢様が杖を振る。


「でも負けないから!」


 回復魔法が俺たちを包む。


 傷が癒え、体力が戻る。だが、このままでは消耗戦になる。守護龍の防御を突破する手段が必要だ。


 俺は龍の動きを観察する。


 攻撃は確かに強力だが、何か違和感を感じる。


 何だ? 何がおかしいのか見極めろ。


 明らかに何かを守るような動き。その場から動こうとしない。


 龍の背後には......


「卵?」


 セバスチャンが呟いた。


 巨大な卵が、岩盤の窪みに安置されている。


 真っ白な殻が、溶岩の光を反射して輝いていた。


 お嬢様が目を見開く。


「ちょ! ちょっと待って! ストォォォォップ!」


 お嬢様が両手を上げて叫ぶ。


「タンマ! タイム! ストップ!」


 守護龍が動きを止めた。


 俺とセバスチャン、オクタヴィア嬢も攻撃の手を止める。


「お嬢様、一体何を......」


「だってさ、この子......守ってるんだよ? 卵を」


 お嬢様が龍を指差す。


「私たちを攻撃してるんじゃなくて、卵を守ろうとしてるんだよ。ね?」


 守護龍が低く唸る。


 だが、その目には敵意ではなく、困惑が浮かんでいた。


「だからどうした……人間よ。さっさと立ち去るが良い」


「ん~なんか悩んでない?」


 …俺の苦難が、今決定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ