表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある執事の日常 ~お嬢様の中の人は多分ギャル~  作者: コシノクビレ
第四章 灼熱の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/63

第五十五話 ルクシオン冒険者学院

 夕暮れ時、客室の扉が軽くノックされた。


 扉を開けると、王宮の使者が立っている。


「レティシア様・オクタヴィア嬢とその従者であられるクラウス殿・セバスチャン殿をドラガ陛下がお食事にお誘いしております」


「それは光栄です。すぐにお嬢様方にお伝えします」


 俺は部屋に戻り、談笑していたお嬢様方に伝える。


「お嬢様、陛下から夕食の招待です」


「やったー! ルクシオンの料理、楽しみ!」


 お嬢様が目を輝かせる。


 俺たちは身なりを整え、セバスチャンとオクタヴィア嬢と合流して食堂へ向かった。


 王宮の食堂は予想以上に広く、天井には火山岩を削り出した装飾が施されている。中央には長いテーブルが置かれ、そこには既にドラガ王とガルガ副議長が座っていた。


「おう、来たか! 座れ座れ!」


 ドラガ王が豪快に手を振る。


 俺たちは席に着く。


 テーブルの上には豪華な料理が並んでいた。


 火山地帯特有の香辛料に加え、新たにルミナスの特産になった”塩”で味付けされた肉料理。地下水脈で育てた野菜、そして溶岩魚と呼ばれる珍しい魚の塩焼き。


「そういえば…」


 ドラガ王が席に着きながら話し始める。


「ロトの親書に『魔法陣が繋がったら迎えに来い』って書いてあったな」


 その言葉に、ガルガ副議長が眉を顰める。


「兄上、人の転送は魔法陣に大きな負荷がかかります」


「分かってる。だが今回は開通テストも兼ねてるからな。必要な試運転だ」


 ドラガ王が立ち上がる。


「ちょっと行ってくるぜ」


 そう言い残し、止める間もなく王は食堂を出ていった。


 もっともらしい理由を付けているが、テストであるならば絶対に王がやるべきではない。


 話を聞いている限り、早くロートニア王に会いたかっただけな気がする。


 十分ほど経った頃、食堂の扉が開いた。


 満面の笑顔を浮かべるドラガ王と共に、見慣れた金髪の男が現れる。


「よくやったなお前ら!」


 ロートニア王が笑顔で入ってくる。


 俺は頭を下げる。


「ロトっち!」


 お嬢様が笑顔で駆け寄る。


「相変わらず元気だな。そして無事で何よりだ」


 俺たちを眺め満足そうに頷くロートニア王とドラガ王。


「さて、飯にしようぜ」


 全員が席に着き、食事が始まる。


 ルクシオンの料理は想像以上に美味だった。香辛料が効いた肉料理は力強い味わいで、溶岩魚は淡白ながら深い旨味がある。地下水脈で育てた野菜は甘みが強く、火山灰の土壌で育ったとは思えない柔らかさだ。


「そういえば、4人を学校に通わせるんだったな」


 ドラガ王が肉を頬張りながら言う。


「ああ、懐かしいな……地獄だったな…」


 ロートニア王が遠い目をする。


「え? 元勇者でもそんなにきつかったの?」


 お嬢様が驚いて尋ねる。


「当たり前だ。あの学校は容赦がねえ」


 ドラガ王が笑う。


 ガルガ副議長が静かに口を開く。


「通常入学は年一回。君たちは途中入学になる」


「途中入学?」


 俺は聞き返す。


「そうだ。特別入学試験を受けることになる」


 ドラガ王が真面目な表情になる。


「特別試験は通常より遥かに難しい。長い歴史で成功者は一人もいない」


 その言葉に、食堂の空気が変わる。


 俺は背筋を正す。


 ルクシオン冒険者学院——正式にはルクシオン王立冒険者学院と呼ばれるこの学校は、ルクシオン王国が誇る最高峰の教育機関だ。


 前身は二百年前、初代ルクシオン王が最強の戦士育成機関として創設した"ルクシオン戦闘学園"である。当時は純粋に戦闘技術だけを叩き込む軍事学校だったが、百年前の大改革で冒険者の知識——ダンジョン攻略、魔物の生態、薬学、経営学——も学ぶ総合学院へと変貌した。


 だが、その本質は変わっていない。戦闘に関する教育が大部分を占める。


 学院は活火山ヴォルカノスの中腹に位置し、常に噴煙が立ち上る過酷な環境にある。訓練場は溶岩流の傍にあり、気温は常に四十度を超える。その環境で行われる訓練は、並の人間なら一日と持たない。


『心弱きものは力の境地に至らず』


 これが学院の理念だ。


 完全実力主義の学校で、無学年制を採用している。座学三十六科目と実技試験を全てクリアすれば卒業。最短半年で卒業可能だが、逆に五年以内に卒業できなければ強制退学となる。


 ロートニア王が歴代最短の八ヶ月で卒業し、ドラガ王は十ヶ月、ガルガ様は一年で卒業している。


 通常入学は年一回、合格率は二十パーセント程度。


 そして、俺たち四人——お嬢様、オクタヴィア嬢、セバスチャン、そして私——が受けるのは特別入学試験だ。


 既に実力がある者向けの飛び級制度とされているが、実際は体のいい門前払いと言われている。


 通常試験を遥かに超える難易度で、『命懸けの試験』として知られている。


「特別入学試験は三段階ある」


 ガルガ副議長が説明を始める。


「第一段階は学科試験——六時間、通常試験の二倍の範囲で合格ラインは八十点以上だ」


「二倍...」


 セバスチャンが呟く。


「第二段階は実技試験——Aランク以上の現役教官と実際戦うことになる」


「Aランク以上...」


 オクタヴィア嬢が緊張した表情になる。


「そして第三段階がダンジョン攻略試験——炎獄の迷宮を三日以内に攻略し、守護者を倒して宝珠を持ち帰る」


 ガルガ副議長が淡々と続ける。


「過去十年で成功者はゼロ。失敗者の死亡率は約三十パーセントだ」


 死亡率三十パーセント。

 

 生きて帰る事すら簡単ではない。


「俺もあのダンジョンでは本気で死にかけたもんだw」


 ロートニア王が遠い目をする。


「炎獄の迷宮——あそこは洒落にならねえ。暑さだけでも厄介なのに、それ以上に魔物が強すぎる」


 ドラガ王が苦笑する。


「俺も何度か死にかけたぜ」


 二人の最強が死にかけるレベルのダンジョン。


 それが、俺たちを待っている。


「成功者なしって、テンション上がる⤴」


 お嬢様の空気を読まない発言に、食堂が静まり返る。


 このトラブルメーカーは、また何を言い出す。


「成功したらドラちゃんとロトっちに近付けるじゃんw」


 お嬢様の突拍子もない言葉に静まりかけていた空気が一変する。


「レティシア様、素敵です!」


 オクタヴィア嬢が目を輝かせる。


 ドラガ王が大笑いする。


「ガハハ! やはり面白い娘だな!」


 食事が再び盛り上がる。


 ドラガ王とロートニア王が昔話を始める。


「ロト、お前覚えてるか? 炎獄の迷宮で、お前が溶岩に落ちそうになったこと」


「覚えてるに決まってるだろ! お前のアホなアドバイスに耳を貸したせいだ!」


「あれは成功しただろうが!」


「まぁ結果オーライってやつだな」


 二人の王が笑い合う。


「あの時はこんなバカな男は二度と現れないと思っていたが、まさかお前の作った国から再び現れるとはな」


 その後も、二人の王の信じられないような馬鹿な話は続いていった。もしかしたらお嬢様はまともなのかもしれない。。。


「レティシア」


「ん?」


 お嬢様が顔を上げる。


「特別入学試験は本当に命懸けだ。油断するな」


 ロートニア王の声が低くなる。


「分かっています。仲間と協力して必ず全員無事に合格してみせます」


 お嬢様が真剣な目でロートニア王を見る。


「クラウもセバスチャンもオクタヴィアもいるし、私たち強いから」


 その言葉に安心したのか、ロートニア王が微笑みを浮かべ立ち上がる。


「そうだな。お前たちなら大丈夫だ。明日、俺が学校を案内してやる。今日はもう休め」


「はーい!」


 お嬢様が元気よく答え、俺たちは席を立つ。


 客室に戻る途中、俺は窓の外を見る。


 火山の噴煙が赤く染まり、夜空を照らしていた。



☆☆☆☆☆



 翌朝、俺たちは王宮の玄関でロートニア王と合流した。


「よし、じゃあ行くぞ。ルクシオン王立冒険者学院へ」


 王宮を出ると、そこには馬車が待っていた。


 ”馬車”といっても、この馬車は普通ではない。


 馬の代わりに炎を纏った魔獣——フレイムウルフ——が繋がれている。


「これに乗るのか...」


 セバスチャンが呟く。


「ルクシオンでは普通だ。火山地帯を走るには、これが一番速い」


 ロートニア王が馬車に乗り込む。


 俺たちも続く。


 馬車が動き出すと、予想以上の速さで街を駆け抜ける。


 窓の外には、活火山ヴォルカノスが迫ってくる。


 噴煙が立ち上り、溶岩が流れる様子が見える。


 三十分ほど走った頃、ようやく馬車が止まった。


 目の前には、火山の中腹に建てられた巨大な建造物がある。


 黒い火山岩で出来た城のような学校だ。


「着いたぞ。ルクシオン王立冒険者学院だ」


 ロートニア王に続き俺たちも馬車を降りる。


 正門の前には、二人の守衛が立っている。


「議長!」


 俺たちにとっては”王”でも、ルクシオンでは冒険者ギルドの”議長”の顔が強い。噂には聞いていたが、ルクシオンでのロートニア王の人気は絶大である。


「久しぶりだな。彼らを案内しに来た。開門を頼む」


 ロートニア王が笑顔で答える。


 守衛が感激の表情で門を開き、俺たちは学院の敷地内へと進んでいく。


 そこには、訓練場や教室棟、寮、そして奥にはダンジョンへの入口までが見える。


「ここが俺の母校だ」


 ロートニア王が誇らしげに語る。


「厳しいが、最高の場所だ。お前たちもここで成長できる」


 ルクシオン王立冒険者学院——ここで、俺たちの新しい戦いが始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ