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とある執事の日常 ~お嬢様の中の人は多分ギャル~  作者: コシノクビレ
第三章 セーラ服の女神

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第四十六話 真・女神降臨

 火刑台‐古びた頑強な木の柱に、お嬢様が鎖で縛り付けられている。


 広場を埋め尽くす数千人の民衆。その大半が、お嬢様を慕う人々や、今回の処刑に異を唱える人々だ。


 だが、それでも処刑は止まらない。教会の人間により淡々と準備が進んでいく。


 俺は火刑台から十メートルほど離れた場所で、両腕を聖騎士二人に押さえつけられている。手枷が冷たい金属の感触を伝えてくる。本気を出せば引きちぎれるとは思うが、今はまだその時ではない。


 貴賓席——広場の北側、階段状に設置された豪華な席。


 最上段、中央にはエル・ルミナ教ルミナス王都大聖堂の大司教ルーカス・フェリクスが立っている。その隣には、西大陸エリュシュア聖国から派遣された、高位聖職者たちと思われる男たちが陣取っていた。ルーカスの対応を見ている限り、ルーカスよりも立場が上の人間なのだろう。


 その近くの台座の上に、小さな水晶がまるで戦利品のように置かれている。


 俺たちが苦労して取ってきた…いや、最後はとある魔法少女が一撃で瞬殺したけど、それでもそれまでの過程で苦労して取ってきた”光の依代”だ。


 お嬢様が古代神殿で女神から託されたあの聖遺物である。


 捕らわれたお嬢様と、無造作に置かれた女神様の依り代を見て怒りが込み上げそうになるが、俺は深く息を吐いて心を落ち着かせる。


 今は、お嬢様を信じて待つしかない。逆に俺が怒りに任せて暴れてしまえば、お嬢様と女神様に迷惑が掛かってしまう。


「民よ!」


 ルーカスの声が広場に響き渡った。魔法の影響なのか、喧噪の中クリアに聞こえてくる。


「今日、いよいよ神の裁きが下される!」


 その瞬間——


「ふざけるな!」


「レティシア様は無実だ!」


「俺の娘に手を出したら貴様ら全員王都中鼻フックで引きずりまわしててめえらの内臓で手足縛って思いつく限りの苦痛を与えてやるからなぁぁぁぁあああ!!!」


 ……民衆からの激しいブーイングと、とある貴族からの罵声がさらに勢いを増し、怒号が広場全体を揺らした。


「レティシア様を返せ!」


「教会の独善を許すな!」


「私たちの女神様は俺たちの幸せを願ってくれている!」


 民主の怒声が波のように押し寄せる。


 だが聖騎士たちは一切動じない。盾を構え、民衆との間に壁を作る。


 ルーカスが続ける。


「この者は——」


 その声が、微かに震えている。


「——神の領域を侵し、女神を冒涜した!」


 魔法により声は届くが、その言葉に感情は感じない。


「その罪、万死に値する!」


 それでも、ルーカスは宣告を続け、それに呼応するように民衆のブーイングがさらに激しくなる。


 俺は、火刑台のお嬢様を見た。


 お嬢様は——微笑んでいた。怒るでも怯えるでもなく、いつものように天使のような微笑み。


 自身の親友という女神を信じる声が大きくなることが嬉しいのだろう。


「…レティシア・リオネール」


 ルーカスが、お嬢様の名を呼ぶ。


「最後に、何か言うことは?」


 広場が一瞬で静まり返り、数千人の視線が火刑台のお嬢様に集中する。


 お嬢様は、堂々と答えた。


「私は何も間違ってない」


 その声は、広場の隅々まで届く。


「美味しいものを皆で食べたい。小さな幸せで仲間と笑い合いたい。好きな人と喧嘩して、仲直りして、寝て起きてまた働いて…」


 シンプルな言葉の数々に、ルーカスの身体が震える。


「そんな普通の幸せを皆で感じたい、ただそれだけ。うちは何も間違ってない」


 そう言って、お嬢様は冷静に微笑む。


 一瞬の静寂を置き、




 「「「「「ぅぅぅぅぉぉおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」




 広場の歓声は最高潮を迎える。


 どういう心境化、驚愕の表情を浮かべるルーカス。


「わ、私は......」


 言いかけた、その瞬間——


「ルーカス大司教!」


 貴賓席から、怒声が飛んだ。


「何を躊躇している!早く執行しろ!」


 エリュシュア聖国の高位聖職者——恰幅の良い老人が立ち上がり、怒鳴る。


 その顔には、怒りが浮かんでいた。


 まるで、何かを恐れているかのような。


「し、しかし……」


 ルーカスが顔を歪める。


 その表情には、迷いがあった。


 お嬢様が、再び声を上げる。


「それに——」


 その瞳が、真っ直ぐルーカスを捉える。


「うちはルミナ様にも幸せになって欲しいw」


 その言葉に民衆がざわつく。


「うちらは見守られるだけじゃない! 幸せを神様任せにするべきじゃない!」


 この言葉には、それまで歓声を上げていた民衆も静まる。


「女神様だって、幸せになる権利あるっしょ笑」


 エリュシュア聖国の高位聖職者が、嘲笑した。


「貴様の様な異端者が女神様を知ったような口を利くでない」


 その声には、侮蔑が満ちている。


「笑止千万!女神は数百年も顕現されていない!貴様の戯言など——」


「じゃあ」


 お嬢様が、笑顔のまま言った。


「じゃあ見せてあげる」


「ふん、くだらん。ルーカス!早くこの魔女の口を閉じさせろ!!」


 次の瞬間——


 ルーカスが、震える手を上げる。


「......し、執行せよ」


 その声は、絞り出すようだった。


 聖職者が松明を手に取り、火刑台へ近づく。


 民衆から、悲鳴が上がる。


 まだだ。まだ、耐えろ。お嬢様を信じろ。


 俺は、そう自分に言い聞かせた。


 松明が、薪の山に近づく。


 あと数秒で、火が点く。


 その瞬間——


 光。


 貴賓席の机の上、依代が眩い光を放った。


「なっ!? 何事だ!!??」


 エリュシュア聖国の高位聖職者たちが後ずさる。


 依り代から光が溢れ出し、広場全体を包んだ。


 眩しさに、民衆が目を覆う。


 聖騎士たちが剣を抜き、大司教たちを守るように前に出る。


 俺も、思わず目を細めた。


 光の中から——


 人影が現れる。


 金色の髪。


 蒼い瞳。






 ——そして。


 セーラー服。


「ヤッピー☆」


「「「「「は?」」」」」


 広場全体から、間の抜けた声が漏れた。


 俺も含めて。


 女神ルミナが——


 エリュシュア聖国の高位聖職者たちの目の前で、お嬢様の部屋以外では300年振りに降臨した。


 空中に浮かび広場を見渡す女神。


 その姿はあまりにも神々しい。


 金色の髪が風に靡き、蒼い瞳が慈悲深く輝きその姿はまるで光そのものを纏っているかのようだ。


 だが——


 セーラー服、しかもルーズソックス。


 そして、ピースサイン。


「キュピーン☆ よっ!久しぶりー♡」


 ......。


 .........。


 ............。


 民衆、沈黙。


 聖職者、沈黙。


 聖騎士、沈黙。


 俺、沈黙。


 お嬢様、爆笑。


「ルミぽよ超ウケるwww」



 広場全体が水を打ったかのように静まり返る。


 あまりの予想外の展開に、誰もが言葉を失っている。


 エリュシュア聖国の高位聖職者が、震える声で言った。


「き、きき貴様は何者だ!?」


 その声には、明らかな動揺が滲んでいる。


 女神ルミナが、くるりと空中で回転した。


 その動きは、まるでアイドルのように軽やかだ。


「あたし?」


 人差し指を自分に向けて、首を傾げる。


「あたしはルミナ。この世界の女神だよ☆」


 その瞬間——


 広場全体に、波紋が広がった。


 誰もが、直感する。


 その姿、その声、服装など一切関係ない程の圧倒的な存在感。


 これが——


 本物だ、と。


「め、女神様......!」


「本物の女神様だ!」


 民衆からの歓声が徐々に広がっていき、中には泣き崩れる老人もいる。


 次々と、人々が跪いた。


 聖騎士たちも、剣を下ろす。


 ルーカスが、震えながら跪く。


 だが——


 エリュシュア聖国の高位聖職者たちだけは、立ったままだった。


「ふ、ふざけるな! 貴様のようなふざけた女が女神様の訳がなかろう!!」


 その顔には、恐怖が浮かんでいる。


 まるで、最も恐れていたことが現実になったかのような。


「お嬢様」


 俺は、火刑台を見た。


 お嬢様が——にっこりと笑っていた。


「ルミぽよ、ナイスタイミング!」


 その言葉に、女神が手を振る。


「レティちゃんお待たせ♪ 準備整えてくれてありがとねー」


 場の雰囲気にそぐわず、二人の会話が非常に軽い。


 まるで、友達同士のような。いや、まぁ実際友達…なのだろう。


 女神が宙に浮いたままゆっくりと火刑台へ近づく。


 その途中、聖騎士たちが道を開ける。


 誰も女神を止めようとはしなかった。


 柱に縛られたお嬢様の前で、ルミナが空中に浮かんだまま停止する。


「レティちゃん、ごめんね。ちょっと遅れちゃった」


「ううん、完璧なタイミングだったよ!」


 お嬢様が笑顔で答える。


 ルミナが手を軽く振ると、お嬢様を縛っていた鎖が光の粒子となって消えた。


 お嬢様が柱から離れ、ルミナの隣に立つ。


 その姿を見て、民衆から再び歓声が上がる。


「め、女神様が聖女様をお救いになられた!」


 広場が、喜びに包まれた。





 だが——俺はまだ油断しない。


 エリュシュア聖国の高位聖職者たち。


 彼らの表情が、あまりにも不自然だ。


 恐怖——それは、女神への畏敬ではない。


 まるで、秘密が暴かれることへの恐怖だ。


 ルミナが、貴賓席を見た。


 その蒼い瞳が、真っ直ぐエリュシュア聖国の高位聖職者たちを捉える。


「さて——」


 その声は、先ほどまでの軽い調子とは違っていた。


 神々しく、そして威厳に満ちている。


「あたしの名を使って、好き勝手やってくれたみたいだね」


 その言葉に、高位聖職者たちの顔が青ざめた。

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