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とある執事の日常 ~お嬢様の中の人は多分ギャル~  作者: コシノクビレ
第三章 セーラ服の女神

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第四十二話 古代神殿の試練 ー後編ー

 オクタヴィア嬢が震える手で大剣を構える。


 その顔は耳まで真っ赤で、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。


「か、か……け…いき……ほ………」

「オクちゃん声が小さいよー!」


 ん? 何だ?? 何が始まるのか。


「か、か輝け聖…士の…りー

「まだまだぁああ!」


 お嬢様に葉っぱを掛けられてオクタヴィア嬢がやけくそ気味に何かを言い始めた。


 俺とセバスチャンは顔を見合わせる。


「輝け聖騎士の誇りぃぃいい!ルミナス・ヴァルキリアァァァァアアア!」

「「           」」


 瞬間――大剣が眩い光を放つ。


 光の粒子がオクタヴィア嬢の全身を包み込み、螺旋を描きながら渦を巻く。粒子が形を成していく様は、まるで星屑が集まり銀河を作るかのようだった。


 銀色の甲冑が全身を覆い、背面には光の翼が広がる。


 額には小さな宝石が輝き、腰には光刃を収めた鞘。


 そして――


『マスター、戦闘モード起動。全システム正常。出力最大』


 人工精霊の声が響く。


 オクタヴィア嬢は、変身前の恥ずかしさなど忘れたかのように堂々と胸を張る。


「さぁ、愛する祖国のために――わたくしが貴様を討ちますわ!」

「「         」」


 俺とセバスチャンは何を見せられているのだろう。変身とかAIっぽい音声みたいなやつとか、情報量が多すぎて思考が追い付かない。


「いーよぉぉぉぉおお! 魔法少女オクちゃん! 最っ高ぅぅぅうううう!!」


 どう考えても目の前で繰り広げられている事象の原因であろうお嬢様の興奮が最高潮を迎えている。。


「……………」


 気のせいか若干引き気味に見える守護者が、巨大な両手剣を振り下ろす――


 だがオクタヴィア嬢は、圧倒的な速度でそれを受け止めた。


 ガキィィィィィィン――!!


 地面に亀裂が走り、祭壇の間全体が揺れる。


 だがオクタヴィア嬢は、微動だにしない。


 い、色物じゃないだと!?


「ガ…グガ!?」


 守護者が驚愕の声を上げる。


 あの巨体からの一撃を、微動だにせず受け止めている。


 それどころか――


「振り払え!ヴァルキリードライヴ」


 オクタヴィア嬢が、カウンターで剣を振るう。


 光の刃が走り――


 守護者の胴体を、両断した。


「「          」」


 瞬殺ー文字通りの瞬殺。守護者が、崩れ落ちる。


 石畳に倒れ込み、その身体が光の粒子となって消えていく。


「ルミナスと民の為ならば………我は神をも超える!!!」


 オクタヴィア嬢が高らかに宣言する。


「……………」

「……………」


 俺とセバスチャンは完全に置いてけ堀である。目の前で起きた事象を脳が受け入れられない。


 数秒の沈黙が、祭壇の間を支配する。


「強 す ぎ だ ろ ww」


 お嬢様だけが腹を抱えて笑っていた。はしたないので自重してほしい。


 そして――


「オクちゃんマジやばいwww もう結婚して!」


 お嬢様が弾けるように叫ぶと、オクタヴィア嬢の甲冑が光の粒子となって解除され――


「あ、ぁぁ……ぁぁぁあああああああああ!!」


 急に現実に戻り顔を真っ赤にして俯く、いつものオクタヴィア嬢が戻ってきた。


 人の黒歴史が作り出された瞬間を始めて目の当たりにした。


 俺は額を押さえ天を仰ぐ。


 今までお嬢様の内政的な突飛な発想は俺が形にしてきた。


 そして、ここに来てグリムとセリオスという、技術的な突飛な発想を形に出来る優秀な人材が現れてしまった。


 最早お嬢様はブレーキの壊れたじゃじゃ馬だ。…結果オーライではあるのだが。


「オクちゃん超かっこよかった! マジ惚れる!」


 お嬢様がオクタヴィア嬢に抱きつく。


「れ、レティシア様……そんな……」


 それでなくても顔を赤くしていたオクタヴィア嬢の顔が、更に赤くなる。


 セバスチャンが小さく咳払いをして、俺に視線を向ける。


 その目は「オクタお嬢様、すごいでしょう」とドヤ顔を向けて来る。


 いや、まぁ、凄いんだが、うん。まぁみんな幸せならそれで良しとしよう。


 気を取り直して、俺たちは祭壇に近づく。


 いよいよ、お嬢様が光り輝く”光の依代”に手を伸ばす。


 透明な水晶のような球体で、内側から柔らかな光が溢れている。


 触れた瞬間――


 依代が、強く輝いた。


『ありがとう、レティちゃん。みんな。これで私も降臨できるわw』


 女神ルミナの声が、空間に響き渡り、お嬢様がにっこりと笑う。


「ルミぽよ~、早く教会何とかしよ!」

『考えるだけで超萎えるわマジw とりあえずみんな気を付けて帰ってね~』


 オクタヴィア嬢が、きょとんとした表情で尋ねる。


「い、今の声は……?」

「私の大切な友達。女神のルミぽよ」


 お嬢様がさらりと答える。


 オクタヴィア嬢の目が見開かれ、口が開いたまま固まる。セバスチャンも同様だ。


 あまりにも当たり前のように答えるので益々混乱している。


「お嬢様、説明は後ほど。まずは神殿を出ましょう」


 俺が三人を促す。


「そ、そうですね。長居は無用ですね」


 セバスチャンが頷く。切り替えが早くて助かる。恐らく考えることを放棄したのだろう。


 四人で、来た道を戻る。


 入口の扉を押し開けると――外は朝日だった。


 清々しい空気が、肺を満たす。


 オクタヴィア嬢が、安堵の息を吐く。


「無事に終わりましたわ……」

「オクタお嬢様、お疲れ様です」


 セバスチャンが優しく微笑む。


「王都へ戻りましょう」


 俺が促すと、お嬢様が笑顔で頷く。


「みんな、お疲れ様ー♡」


 四人で馬車に乗り込み、王都へ向けて出発する。


 道中、四人で冒険を振り返る。


「みんなマジで強かったよね! あたし超ワクワクした!」


 お嬢様が目を輝かせる。


「レティシア様のバフがあったからこそですわ」


 オクタヴィア嬢が謙遜する。


「いえ、オクタヴィア嬢の最後の一撃がなければ危なかった」


 俺が答える。


「あれは……正直驚きました」


 セバスチャンが苦笑する。


 思い出してしまったのかオクタヴィア嬢の顔が再び真っ赤に燃える。


「良いパーティだったね! また一緒に冒険したいな!」


 お嬢様の言葉に、オクタヴィア嬢が赤面しつつも満面の笑みを浮かべる。


 和やかな雰囲気が馬車の中を満たす。



―——


 帰路、その日の夜。街道沿いの宿に泊まることにした。


 俺は見張り番で宿の窓から外を見ていた。


 ちなみに部屋割りはお嬢様方二人と執事二人に分かれている。


 お嬢様は大部屋一室を希望したが、さすがにオクタヴィア嬢の手前それは諦めていただいた。


 意外だったのは俺の事をあまり好きではないはずのセバスチャンが反対しなかったこと。むしろどこか積極性すら感じた。


 部屋では目を離すとベッドを近付けて来て非常に気持ちが悪かった。


 お嬢様らと別室の為、何もないとは思いつつも念の為セバスチャンと交代で見張り番をすることにした。


「ん?」


 月明かりの中、遠くに人影が見えた気がした。


「……人影?」


 気のせいだったのか、それはすぐに消えた。


 俺は一応確認しようと窓から外へ飛び降りる。崖と比べればなんてことない。


 誰もいない。


 気のせいだったのか、気配も足跡も何も残っていない。


「な!?」


 部屋に戻る、テーブルに一通の手紙が置かれていた。


 さっきまで確実になかった。


 セバスチャンを叩き起こし、お嬢様らの部屋を確認する。


 誰もいない。


 まだ状況を飲み込めていない三人を無視し、手紙を開く。


 そこには一文だけが記されていた。


『異端の技術を広める者、女神様を冒涜する者。裁きの日は近い』


 教会の紋章が、血のように赤い蝋で封じられている。


「……一体狙いは何だというんだ………」


 塩の製造、トロッコの建設、商人ギルドからの離反。


 商人ギルドからの恨みは理解できるが、教会にとっても何か不都合があるというのか。


 基本、ルミナス王国は政教分離だが、建国の王が女神が指名した元勇者のロートニア王だ。ほぼ全ての王国民が”エル・ルミナ教”の教徒である。


 当然お嬢様も俺もその例外ではない。


 翌朝、我々は急いで王都へ向かった。


 だが――リオネール別邸の門前で異変に気づく。


 門に、教会の紋章が無造作に貼られている。


 俺の姿を確認するとすぐに父親が駆け寄ってくる。


「クラウス、お嬢様……教会から呼び出しが来てます」

「呼び出し?」


 俺が尋ねる。


「異端審問だ。明日、大聖堂に出頭せよと」


 父上の表情は険しい。


 お嬢様が、懐の依代を握りしめる。


「……やっぱり来たかぁ…」


 オクタヴィア嬢が、慌てて前に出る。


「レティシア様、わたくしたちも一緒に!」

「ん~、気持ちは嬉しいんだけどとりあえず今回はあたしとクラウで行くよ」


 お嬢様がそういって優しくオクタヴィア嬢を抱きしめる。


「で、ですが……!」

「大丈夫。あたしにはルミナ様がついてるし、クラウもいる」


 お嬢様が笑顔で答えるが、その目には強い決意が宿っている。


 セバスチャンが、オクタヴィア嬢の肩に手を置く。


「オクタお嬢様、ここはレティシア様を信じましょう」


 オクタヴィア嬢が、唇を噛む。


「……分かりましたわ。でも、何かあったらすぐに駆けつけますからね!」

「うん、ありがと♡」


 あの武装で来られたら戦闘待ったなしである。慎重にお願いしたい。


 さて、明日はどう転ぶのだろう



――――



 同刻ー王都の大聖堂。


 最上階の窓から、大司教が冷たく微笑んでいた。


 豪華な法衣を纏い、神の代理人を気取る者。


「さあ、異端者よ。裁きの時だ」


 大司教が窓の外を見下ろす。


 その視線の先には、リオネール邸がある。


「五翼公の令嬢とはいえ、神の裁きの前では無力。明日、大聖堂で全てを終わらせる」


 その瞳は酷く冷たく、まるで人の心を感じさせない。


「レティシア・リオネール。貴様の理想など、神の前では塵芥に過ぎぬ」


 月明かりが、大聖堂の尖塔を照らす。


 その光は、冷たく、そしてどこか、悲しげだった。

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