第三十八話 未知のタイケン ー後編ー
「後光の光度はどれくらい?」
「眩しいくらいがいいじゃろ!」
「人工精霊の声は女性が良いですか? それとも執事風の男性?」
「そこは女性だな!」
引き続きロマンを追い求める男(とお嬢様+1)たちの悪乗りは留まることを知らない。
「武具としての性能はどうするか?」
「多少の癖は在っても攻撃力は譲れませんね」
「それこそ浪漫だな」
「脳筋に同意するのは不本意ですが浪漫とはそういうものですね」
その武具の所有者になるオクタヴィアをそっちのけで、浪漫を追い求める会議はいよいよ佳境に突入していた。
「ちなみに三段階目の変形とか可能?」
「「「「詳しく聞こうか」」」」
このレティシアの何気ない発案が、そう遠くない未来に”ルミナスの巨神兵”として他国を恐れおののかせることになることを、この時点ではまだ誰も知らない。
――――
一時間後、ようやく会議が落ち着いた。
それを見計らって、ようやくオクタヴィアがレティシアに近づく。
「れ、レティシア様…わ、わたくしの装備はどうなるのでしょうか…?」
「ん? 内緒♡」
レティシアがいたずらっぽく笑う。
「心配しなくても大丈夫だよ! バルにゃんがオクちゃんの素振り見て、戦い方まで含めて考えてくれていたみたいだから♪」
「え!? 豪傑バルド様ですが!?」
それまでのオクタヴィアの困惑した表情が一瞬で晴れる。
ちなみにレティシアの発言に全く嘘はないのだが、世の中には”程々が一番”という表現もある。その道のエキスパートたちが英知を結集すると何が起こるのか……。
「徹夜で仕上げて完成まで二日だ。楽しみにしてな、嬢ちゃんたち!」
「特にオクタヴィア様は…」
グリムが豪快に笑い、セリオスが意味深に微笑む。
「宜しくねグリちゃんセリちゃん♪」
「グリム様、セリオス様、宜しくお願いします」
そうしてレティシアが職人らに感謝の意を込めバフ魔法を掛けて工房を後にした。
―——
翌日から、レティシアとオクタヴィアの修行が再開された。
修行の内容はポートランドまでの道中と同じ、レティシアは基礎体力の向上とバフに慣れること。オクタヴィアは魔力による身体強化、である。
生徒二人の素質と、世界屈指の実力者であるエルドとバルドによるマンツーマン指導により、レティシアとオクタヴィアは順調に成長ていった。
そして二日後、日も暮れ始めた夕刻頃。
グリムから連絡が届く。
『完成した! 今すぐ工房に来い!』
レティシアとオクタヴィアは興奮気味に工房へ向かった。
バタンッー
工房の扉を開けると、グリムとセリオスが満面の笑みで出迎える。
「よく来たな!」
グリムが嬉しそうに叫ぶ。
「お待ちしておりました」
セリオスが丁寧にお辞儀する。
「まずはレティシア嬢ちゃんの杖からだ」
グリムが布に包まれた長い物体を取り出す。
布を取ると、美しい杖が姿を現す。
「うわぁぁあ! 超綺麗じゃん!!」
白銀の柄に、螺旋状の装飾が施されている。先端には魔光石が埋め込まれ、淡く光を放っている。
「魔力増幅と回復効果の強化……そして魔力の循環システムを組み込んだ」
セリオスが説明する。
「すごい……」
レティシアが目を輝かせる。
「これで、クラウス殿のサポートがより強力になりますよ」
エルドが微笑む。
「ありがとう二人とも!」
レティシアが杖を受け取り、嬉しそうに抱きしめる。
「じゃあ、次はいよいよ……」
グリムとセリオスだけでなく、レティシア、バルド、エルド、全員が固唾を飲んで見守る。
「え? な、なんですの!?」
他のメンバーの雰囲気に飲まれ緊張気味のオクタヴィアだが、これはもオクタヴィアだけの問題ではない。
「オクタヴィア嬢ちゃんの……武具だ」
セリオスが大きな箱を持ってくる。
箱を開けると、重厚な大剣が姿を現す。
刀身は銀色に輝き、柄には魔石が埋め込まれている。淡く光を放ち、神秘的な雰囲気を醸し出している。
「こ、これが……」
オクタヴィアが息を呑む。
「そうだ。名付けて、ルミナス・ヴァルキリアだ」
グリムが誇らしげに答える。
「三段階の変形機能を持っている」
「へ、変形!? え? 三段階って!?」
オクタヴィアを無視しセリオスが説明を始める。
「通常状態は、今見ている大剣の形。戦闘形態は、全身を覆う甲冑に変形する。そして……」
「目玉はシークレットモードだ」
バルドが続ける。
「し、シークレット……ですの?」
「それは後でのお楽しみだ」
エルドが微笑む。
「ち、ちちちょっと意味が分かりませんわ……」
オクタヴィアはまだ自身の置かれている状況を理解出来ていない。
「あ、肝心なこと忘れてたよー!」
レティシアが目を輝かせる。
「掛け声ね……『輝け、聖騎士の誇り! ルミナス・ヴァルキリア!』だよ! やっぱり返信といえば掛け声が重要だね~!!」
「……………………」
オクタヴィアの顔から表情が失われる。
「まさに浪漫じゃろ!?」
バルドが興奮気味に叫ぶ。
「いいじゃねぇか!」
グリムも同意する。
オクタヴィアは助けを求めるように常識人と信じていたエルドとセリオスに視線を送るが、二人とも今か今かとオクタヴィアの掛け声を待ち侘びている。
「オクちゃん! 早く早く!」
無慈悲にもレティシアが期待の眼差しを向ける。
「わ、わたくしが……? 先ほどの掛け声を!?」
「そうだ! ここで試してみろ! 嬢ちゃんの掛け声にしか反応しねえ作りになってんだよ」
バルドが促す。
「む、むぅ……」
オクタヴィアは羞恥に耐えながら、大剣を握る。
深呼吸をして、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「か、輝け……聖騎士の誇り……ル、ルミナス・ヴァルキリア……」
瞬間、大剣が眩い光を放つ。
光の粒子がオクタヴィアの全身を包み込み、次第に形を成していく。
銀色の甲冑が全身を覆い、背面には光の翼が広がる。
優美でありながら、戦闘に特化した機能美を持つ姿だった。
「マスター、戦闘モード起動」
突然、女性の声が響く。
「え、えぇ!?」
オクタヴィアが驚く。
「人工精霊だ。お前をサポートしてくれるぞ」
グリムが説明する。
「す、すごい……」
レティシアが目を輝かせる。
「やったぜ!」
バルドが拳を振り上げる。
「完璧です……」
エルドが満足そうに頷く。
「わ、わたくしが……こんな姿に……」
オクタヴィアが呆然と呟く。
「似合ってるぞ!」
グリムが親指を立てる。
「さ、さぁ! 試し打ちだ!」
バルドが剣を構え、的を買って出る。
「え、ええ!?」
「大丈夫だ! 俺が受け止めてやる!」
「で、でも……」
「遠慮するな! 全力で来い!」
バルドが構える。
「わ、分かりました……」
状況をいまだ呑み込めていないオクタヴィアが、言われるがまま大剣を構え、魔力を込め一気に振り下ろす。
バァン!
凄まじい衝撃が工房の中庭を揺らす。
バルドが十メートル以上後方に吹っ飛び、壁に激突する。
「ば、バルド様!?」
「だ、大丈夫だ……すげぇ威力だな……」
バルドがよろよろと立ち上がる。
「すごーい!」
レティシアが大はしゃぎする。
「これは……予想以上ですね……バルドをあれだけ吹き飛ばすのは大層なことですよ…」
エルドが驚いた表情を浮かべる。
「まぁ待て。まだ終わりじゃねぇ」
グリムがニヤリと笑う。
「ま、まだあるんですか!?」
オクタヴィアが驚く。
「そうだ。シークレットモードだ」
セリオスが説明を始める。
「残りの魔力を全て注ぎ込むことで、巨大な魔導兵装に変形する」
「き、巨大な……?」
「ろ、ろぼ!? ロボになるの!?!? マジで実現させちゃったの!!??」
レティシアが完全にテンションMAXになる。
「そうだ。五メートルの巨大人型魔導兵装『ルミナス・ヴァルキリア・マキシマ』に変形する」
「ま、マキシマ……」
オクタヴィアが呆然と呟く。
「やってみろ!」
バルドが促す。
「で、でも……」
「大丈夫だ! これが浪漫だ!」
抗うことを諦めたのか、オクタヴィアが深呼吸をして残りの魔力を全て注ぎ込む。
大剣が先ほどとは比べ物にならないほどの光を放ち、巨大化していく。
徐々に和らぐ光の中から、五メートルはある巨大な人型魔導兵装が姿を現す。
銀色の装甲に覆われ、背面には巨大な光の翼が広がる。両手には魔力で生成された巨大な剣を握っている。
「マスター、マキシマモード起動。全システム正常」
人工精霊の声が響く。
「す、すごい……」
オクタヴィアが自分の姿に驚く。
「やべぇ……マジでやべぇ……」
バルドが興奮気味に呟く。
「これは……想像以上ですね……」
エルドが感心する。
「最高だ!」
グリムが拳を振り上げる。
「最終テストだ! バルド、全力で防御しろ!」
セリオスが指示する。
「おう!」
バルドが構える。
エルドがバフを掛け、バルドの防御力が跳ね上がる。
「来い!」
オクタヴィアが巨大な剣を振り下ろす。
ドォン!
凄まじい衝撃が大地を揺らす。
バルドが膝をつく。
「く……これは……」
「やった!?」
レティシアが歓声を上げる。
「すげぇ……俺の本気の防御を押し込むとは……」
バルドが驚いた表情を浮かべる。
「完璧です……」
エルドが満足そうに頷く。
変形が解除され、下着姿のオクタヴィアが、変形の解かれた未知の大剣を片手に姿を現す。
「お前ら全員そこに正座な?」
「「「「「 」」」」」
その後、キレたオクタヴィアの説教は三時間を超えたという。
それを目撃した工房の弟子たちによって、オクタヴィア最強節がまことしやかに流布されるのだった。しかしそれがあながち大間違いではなさそうなことは誰も知らない。




