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とある執事の日常 ~お嬢様の中の人は多分ギャル~  作者: コシノクビレ
第三章 セーラ服の女神

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第三十七話 未知のタイケン ー前編ー

 翌朝、港町の宿屋——レティシア・リオネールは、ベッドから起き上がれなかった。


「身 体 が 動 か ん w」


 彼女にとって未知の体験。そう筋肉痛だ。


 五十キロの走り込みは、運動不足の令嬢には過酷すぎた。あまり使っていないはずの腕を動かすだけで激痛が走り、寝返りを打つことすら出来なかった。


 隣のベッドで休んでいたオクタヴィアがそれに気が付き、慌てて飛び起きる。


「レ、レティシア様! 大丈夫ですの!?」

「大丈夫じゃないかも……w」


 レティシアが呻く。


 オクタヴィアは顔を真っ青にして廊下へ駆け出す。


「バルド様! エルド様! 大変ですわ! レティシア様が!」


 階下の食堂から階段を駆け上がる足音が聞こえ、扉が開いた。


 バルドが部屋に入るなり、レティシアの様子を一瞥して大笑いする。


「がっはっは! どんだけ運動不足なんだ!」

「むぅー」


 レティシアが不満そうに唸る。


 エルドが穏やかに微笑みながら室内に入ってくる。


「予想通りですね」

「このままではクラウに顔向けができないw」


 レティシアが照れ笑いを浮かべる。身体を動かせぬまま。。


 表情を切り替えてバルドが今日の予定を話し出す。


「よし、今日は魔力を使っていいぞ。というよりポートランドに到着するまで延々と自分にバフを掛け続けて構わん」

「え、マジw? いいの?」


 レティシアが驚いて聞き返す。


「今日はそれが訓練だ。それこそ呼吸するのと同じくらい自然に出来るように。力まない自然体が魔力効率を最大限まで高める」


 バルドが真面目な表情で告げる。


「まだまだ付け焼刃だが走るだけでもいかに全身使うことが分かったはずだ。だがその一方、筋肉痛の度合いは足と腕では全く違う…」

「ということはつまり…?」

「バフは全身万遍なく行きわたればいいわけではない。むしろバランスが悪くマイナスに働くことさえある」

「何事もバランスが重要、ってことね~」


 レティシアが納得した表情を浮かべる。


「まずは自分に、自然にバランスよくバフをいき渡らせるんだ。それが出来れば、お嬢にしかできないクラウス専用のバフが出来上がるかもしれねえな」


 そう言われレティシアが目を輝かす。筋肉痛はどこぞへ、早速魔力を練り上げ全身に巡らせる。身体強化のバフが展開され痛みが和らいでいく。


「あぁ……これなら動けそう」


 レティシアがベッドから起き上がると、オクタヴィアが安堵の表情を浮かべた。


「良かったですわ、レティシア様」

「ありがとね、オクちゃん。恥ずかしいところ見られちゃったw」


 レティシアが照れくさそうに笑顔を見せる。


 エルドがオクタヴィアに視線を向けた。


「オクタヴィア様、今日は魔力を一か所に集中する訓練をします」

「はい!」


 オクタヴィアが元気に返事をする。


 昨日、エルドの言う通り身体に魔力を流した結果、劇的に自身の身体の動きがスムーズになったことを体感し、エルドに対して全幅の信頼を置いている。


 エルドが穏やかに指示を出す。


「私の指定する部位に、出来る限り早く魔力を集めて下さい。ますは、、、左手の指先!」

「はい!」


 オクタヴィアが集中し、魔力を左手の指先に集める。指先が淡く輝く。


「右足薬指」

「はい!」


 瞬時に魔力が移動し、右足の薬指に集まる。


「素晴らしい。その調子です」


 エルドが満足そうに頷く。


「魔力を自在に操れるようになれば剣術にも応用できます。道中、食事中含めて突然私は部位を指定していきます。油断しないようにお願いします」

「はい! 頑張りますわ!」


 オクタヴィアが目を輝かせる。まだまだ自分が強くなれることを知ったオクタヴィアのモチベーションは非常に高い。


 バルドがレティシアを見る。


「お嬢も準備はいいか?」

「あいよ!」


 レティシアも元気に頷く。先ほどまで身動き取れず寝たきりだった淑女の姿はもうない。


「今日も走るぞ。くれぐれもバフが切れないように気を付けてな!」

「了解!」


 そうして二人の令嬢の修行二日目が始まった。


 ――――


 その日の昼過ぎ、四人を乗せた馬車がようやくポートランドに到着した。


 港町特有の潮風が吹き抜け、市場の賑やかな声が響いている。


 レティシアが馬車から飛び降りる。


「海だー!」


 そのまま港へ向かって駆け出す。


 オクタヴィアも馬車を降りて、久しぶりに見る海に目を輝かせた。


「…いつ見ても海はきれいですわ」


 感動した表情で青い海原を見つめる。


 波が静かに打ち寄せ、カモメが空を舞っている。


 バルドが豪快に笑う。


「おう、いい海だな」

「潮の香り……久しぶりです」


 エルドが穏やかに微笑む。


 レティシアが波打ち際で靴を脱ぎ、素足で砂浜を歩いている。


「冷たい! 気持ちいい!」


 オクタヴィアも駆け寄る。


「レティシア様、わたくしも!」


 二人の令嬢が波打ち際ではしゃぐ姿を、バルドとエルドが温かい視線で見守る。


 しばらく海岸で過ごした後、四人は港町の中心部へ向かった。


 石畳の道を進むと、職人たちの槌音が響いてくる。


 レティシアが前を歩きながら説明する。


「グリムさんとセリオスさんの工房はこの先だよ」

「楽しみですわ!」


 道中レティシアから聞いていたドワーフとエルフがともに作った工房、まもなく実際に見られるとオクタヴィアが嬉しそうに笑う。


 通りを抜けると、大きな看板が見えてくる。


 そこには「グリム&セリオス工房」と刻まれていた。


 ――――


 工房の扉を開けると、槌を打つ音と魔力が渦巻く空気が溢れてくる。


 広い作業場には、エルフとドワーフの職人たちが忙しなく働いている。


 ここには種族間の険悪な空気は一切ない。むしろ互いに声を掛け合い、協力して作業を進めている。


「嬢ちゃん!」


 奥からドワーフのグリムが駆けてくる。


「よく来てくださいました」


 エルフのセリオスも穏やかに微笑みながら現れる。


 レティシアが笑顔で手を振った。


「グリちゃん、セリちゃん! 何日かぶりー!」

「相変わらず元気そうで何よりじゃ」


 グリムが豪快に笑う。


 バルドが前に出て頭を下げる。


「初めまして。リオネール家騎士団長、バルド・ガルストンです」

「おお、噂は聞いておるぞ。豪傑バルドじゃな」


 グリムが握手を求める。


「こちらこそ、お二人のことはお嬢様からよく伺っております」

「外用のバルにゃん超ウケるw 誰だよww」

「お、おいお嬢! たまにはカッコつけさせろよ!」


 ケラケラと笑うお嬢様に対し慌てて口を塞ごうとするが、バフが掛かっているレティシアはひらっと躱す。


「む、無駄にバフの質が上がってやがる。まぁもういいか、バルド・セリオス、宜しく頼むな!」

 

 取り繕うことを諦めたバルドに続いて、オクタヴィアも前に出て深々とお辞儀をした。


「初めまして。オクタヴィア・サウザードと申します」

「ほう、南の五翼公サウザード家の令嬢か」


 グリムが興味深そうに頷く。


「武勇のお噂はかねがね」


 セリオスも丁寧に応え初対面組の挨拶が終わると、早速レティシアが本題を切り出した。


「あのね、私とオクちゃんの装備を作って欲しいの」

「任せておけ!」


 理由も聞かずグリムが胸を叩く。


 本来、偏屈者が多いドワーフの職人に専用の武器を作ってもらえる機会など多族ですらそうそうある話ではない。


 しかし、塩精製の件を通し、グリムとセリオスは並々ならぬ恩義を感じている為、二人にとってはむしろ望むところですらあった。


「どのような物をお求めですか?」


 案の定セリオスも真剣な表情で喰いついてくる。


 レティシアが説明を始める。


「あたしは武器にこだわりはないんだけど、魔力増幅と回復魔法の効果を高めるやつが欲しいの。もっとクラウをサポートしてあげたい!」

「ふむふむ……」


 グリムが顎に手を当てて考え込む。


「魔力増幅の魔法陣と、回復効果を高める聖なる鉱石を埋め込めば……」


 セリオスが早速設計図を描き始める。


「杖の中心部に魔光石を配置し、螺旋状に魔力を循環させれば効率が上がります」

「おお、それじゃ!」


 グリムが目を輝かせると、二人で設計図を広げ熱心に議論を始める。


「で、あとさ…オクちゃんの武具なんだけど……」


 そうレティシアが少し離れた位置にグリムとセリオスを呼び、ひそひそと会話を始める。


「全身甲冑姿に変身する大剣で……あと、発光するようなやつ」

「な!?」


 グリムの目が更に強く輝く。


「そ、それは……浪漫じゃな!」

「魔力で装甲展開……理論的には可能です」


 セリオスが真剣な表情で頷く。


「後光がさすように調整しますか?」

「うん! それで、AIみたいに喋れるようにもしたいんだけど……」


 レティシアが続ける。


「えーあい?」


 セリオスが首を傾げる。


「えっと、魔力に意思を持たせて会話できるようにするっていうか……」


 レティシアが二人に伝わるように言葉を紡ぐ。


「精霊……のようなものですか?」


 セリオスが理解した表情を浮かべる。


「んーうん、そんな感じ! 任せる!」


 レティシアが嬉しそうに適当に頷く。


「魔法陣に人格を刻み込む……高度ですが、やってみる価値はありますね」


 セリオスが設計図を描き始める。


 横で聞いていたバルドが近づいてくる。


「おい、それって変身するのか?」

「ええ、魔力で装甲を展開し、全身を覆う仕組みです」


 セリオスが説明する。バルドの目が輝いた。


「そ、それは……浪漫すぎんだろ!」

「実に興味深いですね」


 エルドも近づいてくる。


「魔法陣の構成はどうします? 展開速度を優先しますか? それとも防御力を?」

「両方じゃ!」


 グリムが力強く宣言する。


「いや、剣はこうだろ!」


 バルドが設計図に手を伸ばす。


「ここにも魔法陣を配置すべきです」


 エルドが指摘する。


「装甲の展開速度は0.5秒以内に!」


 セリオスが熱く語る。


「刀身は折れない素材で!」


 グリムが主張する。


 レティシアを中心に、四人の男たちが目をキラキラさせて議論を始める。


 男たちの浪漫に終わりなど存在しない。



―——



「わ、わたくしの武器は、ど、どなたにお伝えすれば……」

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