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とある執事の日常 ~お嬢様の中の人は多分ギャル~  作者: コシノクビレ
第二章 愛を架けるトロッコ

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第二十四話 ゴーレムの遺跡 -前編-

 王都から古代都市までは、整備された街道を三日かけて北上する道程だ。


 馬車の窓から外を眺めながら、俺は通り過ぎる町々の変化を観察していた。街道は確かに整備され、移動時間は大幅に短縮された。だが、その街道沿いの町は――明らかに以前とは違っていた。


 市場の露店の数が減っている。並んでいる商品も、どこか歯抜けのような印象を受ける。人々の表情も、どこか不安が色濃く浮かんでいるような気がする。


 商人ギルドの物資供給制限は、確実に影響を広げている。一刻も早くなんとかせねばならない。


 お嬢様は無言で窓の外を見つめていた。いつもの軽い雰囲気はなく、その横顔には静かな決意が宿っている。


「お嬢様」


 俺は声をかける。


「トロッコ計画が成功すれば、この状況も変わるでしょう」


 お嬢様はゆっくりと俺の方を向いた。


「うん……だからマジで成功させないとね」


 その声には、いつもの明るさの裏に、強い責任感が滲んでいた。


 お嬢様は全てを背負おうとしている。自分の行動が招いた結果を、逃げずに受け止めようとしているのだろう。


「ええ、それもゴーレムのコアさえ手に入れさえすれば解決します。あと少しです」


 そういって俺は微笑む。少しでもお嬢様を元気づけたくて。


「クラウ……発言超イケメンなんですけどw 超ウケるw 腹よじれるわ」


 やっと笑ってくれたか。

 お嬢様は世界を救おうとするが、俺が守るべきはこの女性の笑顔だけである。




 馬車は街道を進み続ける。二日目の夕方、宿場町で一泊した。三日目の朝、再び馬車に揺られ、午後になると景色が変わり始めた。


 平原から、徐々に岩肌が露出した荒野へ。木々も疎らになり、風が冷たくなる。


 そして三日目の夕方――古代都市の遺跡が視界に入った。


 馬車を降りて、俺たちは遺跡を見上げる。


 かつては栄えた都市だったのだろう。石造りの建物が広範囲に広がっているが、そのほとんどが崩れ落ち、廃墟と化している。蔦が壁を這い、苔が石畳を覆っている。時の流れが、確かにここに刻まれていた。


 遺跡の中央には、ひときわ巨大な塔の残骸が聳え立っている。高さは三十メートル以上あるだろうか。その半分以上が崩壊しているが、それでも威容は失われていない。


「お? クラウあれ見て!! あそこの地下っぽいね」


 お嬢様が塔を見上げながら呟く。


「行こ、クラウ」


 お嬢様が歩き出す。俺はその後ろに続く。


 崩れた石畳を踏みしめながら、塔へと向かう。周囲には、かつての栄華を偲ばせる彫刻や装飾の痕跡が残っている。どれも精巧で、高度な技術を感じさせるものだ。


 塔の入口は半分崩れていたが、人が通れるだけの隙間は残っていた。中に入ると、ひんやりとした空気が俺たちを包む。


 床に散乱する瓦礫を避けながら進むと、奥に地下へ続く階段を見つけた。


「松明を」


 俺は懐から松明を取り出し、魔法で火を灯す。オレンジ色の光が、暗闇を押しのける。


「お嬢様、足元にお気をつけください」

「りょ」


 『りょ』…この世界ではおよそ聞くことはない言葉で、お嬢様が軽く返事をする。


 階段を降りる。石段は摩耗しているが、まだしっかりしている。壁には古代文字が刻まれ、所々に魔法陣の痕跡が残っている。


 お嬢様が壁の文字を指でなぞる。


「昔の人マジすごいじゃん。こんな技術あったんだ」

「ええ。現代では再現不可能な技術も多いです」


 俺は松明を掲げながら答える。


「魔法陣の理論自体は残っていますが、それを実現するための素材や触媒が失われているものも少なくありません」

「もったいなくね? せっかくの技術なのに」

「そうですね。ですが、それを取り戻そうとする者は少ない。現代の技術で十分だと、多くの者が満足してしまっている」


 お嬢様は少し考え込むような表情を浮かべた。


「うち思うんだけどさ、技術って継承されないと意味なくね? 日本でもその問題あったんだけど、どんだけすごくても、誰も使えなくなったら終わりじゃん」

「……その通りです」


 日本って言ってしまっているが……俺はお嬢様の横顔を見る。


 この人は一見ふざけていても、真剣に民のことを考えている。技術も、知識も、全ては人のためにあるべきだと信じているのだろう。


 階段を降り続ける。松明の明かりだけが頼りだ。足音が静かに反響する。


 やがて階段が終わり、広間に出た。


 松明を掲げると、その光景が浮かび上がる。


 広さは訓練場ほど。天井は高く、円形のドームになっている。壁には複雑な魔法陣が刻まれ、床にも幾何学模様が描かれている。


 そして――広間の中央付近に、石像のようなゴーレムが数体、整然と並んでいた。


 高さは三メートルはあろうかという巨体。”月影の洞窟”で倒したゴーレムよりも、明らかに一回り大きい。全身が青白い石材で作られており、所々に魔法陣が刻まれている。


「でっか……」


 お嬢様が呟く。


「お嬢様、迂闊に近づかないでください」


 俺は警告するが、既にお嬢様と俺はゴーレムの警戒範囲に足を踏み入れていたらしい。


 その瞬間――ゴーレムの目が赤く光る。


 ガゴン、と重い金属音が響く。


 ゴーレムが動き出した。


「お嬢様、下がってください!」


 俺は即座に剣を抜き、お嬢様の前に立つ。


 最初のゴーレムが腕を振り上げる。石の拳が、空気を切り裂いて俺に向かってくる。


 俺は横に飛び退く。拳が床に叩きつけられ、石畳が砕け散る。衝撃で破片が飛び散り、俺の頬を掠める。


 ――速い。そして重い。


 俺は剣に魔力を纏わせ、ゴーレムの腕に斬りかかる。


 しかし刃は弾かれた。


 月影の洞窟のゴーレムよりも、遥かに硬い。


「身体強化~!」


 背後からお嬢様の声が響く。


 支援魔法の光が俺を包む。全身に力が漲り、速度が跳ね上がる。視界がクリアになり、ゴーレムの動きがスローモーションのように見える。


 俺は地面を蹴り、ゴーレムの懐に飛び込む。


 拳が振り下ろされるが、紙一重で回避。関節部分――腕の付け根を狙い、魔力を込めた斬撃を叩き込む。


 ガキン、と高い音が響き、石が砕ける。


 ゴーレムの腕が動きを鈍らせる。


 俺は追撃を加える。膝の関節を斬り、ゴーレムを跪かせる。そして胸部に埋め込まれたコア――魔力の核を、剣で貫く。


 赤い光が消え、ゴーレムが動きを止める。


 まずは一体目撃破。


 だが――安堵する暇はなかった。周囲のゴーレムが、次々と起動する。


 目が赤く光り、重い足音が響く。


 二体、三体、四体。 あっという間に俺たちは囲まれた。


「クラウ!」


 お嬢様の声が緊張を帯びる。


「大丈夫です問題ありません。お嬢様は私の後ろに」


 俺は冷静に状況を分析する。


 四体同時は厳しいが不可能ではない。さてどうしたものか。


 するとお嬢様が詠唱を始める。


「防御障壁展開っと!」


 俺を中心に、淡い青白い光の盾が展開される。


 ゴーレムの拳が障壁に叩きつけられる。光が揺らぐが、持ちこたえる。


 いける。

 俺はその隙に、最も近いゴーレムに斬りかかる。


 関節を狙い、確実にダメージを与えていく。一体ずつ、着実に仕留める。


 だが数が多い。


 魔力の消耗が激しい。息が上がり始める。汗が額を伝い、視界を濡らす。


 それでも――手を止めるわけにはいかない。


 お嬢様が後ろにいる。


 守らなければ。


 二体目のコアを貫く。三体目の腕を斬り落とす。四体目の足を砕く。


 ゴーレムたちが次々と倒れていく。


 そして最後の一体。


 俺は全身の魔力を剣に集中させ、ゴーレムの胸部に突き刺す。


 赤い光が消え、辺りに静寂が訪れた。


 俺は剣を支えに、その場に膝をつく。全身から汗が滴り落ちる。呼吸が荒い。魔力も、体力も、限界に近い。


「クラウ!」


 お嬢様が駆け寄ってくる。


「大丈夫? 無理してない?」


 心配そうな表情で、俺の顔を覗き込む。


 俺は水筒を受け取り、一口含む。冷たい水が喉を潤す。


 息を整えながら答える。


「問題ありません。この程度、想定内です」


 嘘だ。


 想定よりも、遥かにきつい。だがお嬢様を不安にさせるわけにはいかない。


 お嬢様は俺の顔をじっと見つめる。


「……嘘つくなし…。クラウもやっぱり男の子なんだよね~」


 見透かされている。


 俺は小さく笑った。


 お嬢様は少し怒ったような表情で、俺の肩を軽く叩く。


「無理と無謀は違うからね」


 それだけ言うと、お嬢様はそれ以上何も言わなかった。


 代わりに、回復魔法の光が俺を包む。温かい光が、疲労を癒していく。魔力が少しずつ回復する。


「……ありがとうございます、お嬢様」


「いいって。うちら二人でワンセットじゃん。持ちつ持たれつっしょ」


 お嬢様がにっと笑う。


「!?」


 この笑顔が一番俺を癒してくれる。


 少し休憩を取る。広間の隅に座り込み、水を飲み、呼吸を整える。お嬢様は倒れたゴーレムを観察している。


「ねぇクラウ、このゴーレムさ、なんか月影の洞窟のと違くない?」

「ええ。素材も構造も、より高度な技術が用いられているようです」


 俺は立ち上がり、ゴーレムの残骸に近づく。


「おそらく、古代の技術で作られた警備用のゴーレムでしょう。侵入者を排除するための」

「ってことは、まだいるってこと?」

「可能性は高いですね。というよりいてもらわないと困ります。まだコアを入手していません」


 お嬢様は少し考え込む表情を見せたが、すぐに笑顔を浮かべた。


「ま、行くしかないっしょ」

「……そうですね」


 俺たちは再び松明を手に取り、広間の奥へと進む。


 さらに深い闇が俺たちを待ち受けている。



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