匂い
「あ、あの少し良いですか?」
「あぁ、モンスのスパイか、何の用だ?」
天川先生は私にそう言ってきた。
「す、スパイ?」
「そうだ、お前の様に召喚魔法を扱う。信用のかけらもない者とは、まともに喋る気にはならん」
随分な嫌われようだ。
しかし、即座にペラさんが私をかばう様に声を上げた。
「天川先生、それは少し無礼な物言いではありませんか」
「あぁ、お前も似た様なものだクアトロ一族、なんでもそつなくこなす優秀な奴は信用ならん、もちろん出来損ないも信用ならんがな」
嫌味な言葉と険し顔つきであからさまに否定的な態度をとる天川先生。
これまで会ってきた人の中でもトップレベルに嫌味な人に思えた。
しかし、それでも彼女は先生という立場もあってか。
どこか一線を踏み越えてこなさそうな雰囲気も感じられた。
「お言葉ですが、突然話に入ってきたのは先生ですよ、無礼で信用に値しないのは先生の方だと思います」
「ほぉ、さすがは肝が据わっているなペラ・クアトロ、これだから優秀な奴は嫌いなんだ」
「先生という肩書を持っておられる方から、優秀とほめられるのはとても光栄なことです」
「せいぜい自惚れないことだな、お前の様な奴らが才能に溺れて沈んでいく様を私は何人も見てきた。才能のあるやつはまるで災害だ、色んな人やモノを巻き込んで最後にはしれっと何食わぬ顔、本当にたまったものじゃないっ」
まるで何かうらみでもあるかのように、先生はズバズバと言いたいことを言いまくった。
その狂気じみた様子にさすがのペラさんも押し黙ってしまった。
そして、天川先生は再びペルツさんに視線を戻した。
「で、話は戻すが古代人よ」
「なんですか?」
「お前の言っていることは、占星学の観点と、ここにある忌まわしきモンスの歴史書を照らし合わせても信用に値する、今後もお前とは話をしてみたい、いいか?」
「それは、私と手を取り合ってくれるという事ですか?」
「はぁ?」
「どうやら先生はモンスに強い嫌悪感を抱いている様子ですので、私の様な古代人とは折り合いが良くないかと思います、しかし、私と話がしたいという事は私と手を取り合ってくれるのかと思いまして」
「あぁ、お前たちの知識は嫌悪感をはるかに凌駕するものだ、いくらでも手を取り合おう」
そう言った天川先生だったが、彼女はペルツさんに対して手を差し伸べる様子も何もなく見た後、彼女は何事もなかったかのように去って行ってしまった。
まるで、先生こそが災害の様に思える状況の中、なんだかモヤモヤとした気分でいると、その気分を晴らしてくれるかのようにペラさんが声を上げた。
「なんなのあの人、どう考えても私たちは悪くないはずよ。いえ、はずじゃないわ私たちが悪いわけがない、おかしいのはあの無礼者よ」
腕を組んでプンスカプンスカ怒った様子のペラさんは納得いかない様子でため息を吐いていた。
私はペラさんとは違いどこかあっけにとられてしまっていた。
「それでシュー、先生まで巻き込んで壮大な話になってたけれど、そんな大きな話を突然されても困るわ」
「知っていてもらうのが優先です、手を取り合ってくれれば最善です、とにもかくにも私と仲良くしてもらいたいのです」
最後の言葉だけが強烈に頭に響いてきた。
そして、私はすかさず返事を返したくなった。
「あの、私の様な者と仲良くしていただけるのならば、ぜひとも仲良くしてほしいのですが」
「それはこちらも同様です、大角さん」
シューさんは満面の笑みでそう答えると、私に手を指し伸ばしてきた。
私はその手をキュッと握り握手を交わした。
「せっかくですのでカイアと呼んでください」
「いいのですか」
「はい」
なんだか絵物語の様に友達が増えていく不思議な感覚に夢見心地でいると、ふと、ペラさんが私とシューさんを交互に見ながらつまらなさそうにしているのに気づいた。
「ふーん、カイアには甘いのねシュー、私と喋る時とはずいぶん態度が違うじゃない」
「それは・・・・・・」
「どういう基準なのかしら?」
「ただの直観です、出会って間もない関係ですが、彼女からはとても良い匂いがします」
匂い、その言葉を聞いて思わず自らの体臭を確認してみた。
身なりには気を使っているから大丈夫だとは思うが、こういうのは自分では判断しにくいと聞く。
そう思って私は思わず確認してくれと言わんばかりにペラさんを見つめてしまった。すると彼女はニコリと笑った
「大丈夫よ、カイアは臭くないわよ」
「そ、そうでしたか」
「シューが言っている匂いというのは「言葉のあや」という奴ね、複雑で多様性のある表現はこの国の特徴的な部分よね、古代人はこの国の言語にも精通しているのね」
「私は両方の意味で言いました」
「「えっ!?」」
思わずペラさんと声をそろえて驚くと、シューさんは少し首をかしげていた。
「えっと、それはつまり私からは良い匂いがするという事ですか?」
「はい、懐かしくて心地よい匂いですよ」
その言葉に一安心したが、シューさんの言葉はどこか動物的であり、彼女の容姿も相まってかとても愛おしく見えてきた。




