筋肉痛
杖道の実践授業が行われ、アルバ様やリチャードさんに感化された私は、鍛錬というものを、積極的に行う事を決意した。
だが、その決意を固めた翌日の朝、私は強く後悔していた。
「うぅ・・・・・・」
全身の筋肉が使い物にならなくなっている感覚。
おそらく【筋肉痛】という奴だろう。
私はベッドから起き上がることができず、ただただ天井を見上げていた。
昨日の夜は、すっきりとした気持ちでベッドに入っただけに。
どうしてこんなことになっているのだろう。
そう思っていると、部屋の扉がノックされた。
「うぉーい、カイアちゃーん」
扉の向こう側から聞こえてくる声は、一学年上で私と仲良くしてくれているマロン先輩の声だった。
私はパジャマ姿でベッドから起き上がり、ミシミシと軋む音を立てる肉体を動かしながら、ようやく、扉を開いた。
「おぉ、おはよーさん・・・・・・って、どしたのカイアちゃん」
マロン先輩は私の姿を見るなり眉をひそめてそう言った。
「おはようございますマロン先輩、こんな姿で申し訳ありません」
「いや、それはいいんだけどさ、どしたのさ」
私は簡潔に昨日の出来事と杖道というものに取りつかれたことを伝えた。
すると、マロン先輩は笑いながら私の頭を優しくなでてくれた。
「そうかそうか、それは仕方ないなカイアちゃん、私も初めはそうだった」
「そうなんですか?」
「誰だってそういう者さ、まぁ一部の奴は平然としてるだろうけど大概の魔女見習いは普段使わない筋肉を酷使してバキバキになってる頃さ」
どうやら、マロン先輩曰くこれはこの学校での日常の一つらしい。
しかし、それが分かった所で、マロン先輩が、どうしてここにいるのかが気になった。
「そういえばマロン先輩、今日はどんなご用事でしょうか?」
「あぁ、実はカイアちゃんに会いたいって言ってる子がいてさ」
「私にですか?」
「うん、とにかく敷地には入れられないからさ、ベリル屋敷の門で待たせてあるから行ってあげてよ」
心当たりのない訪問者にマロン先輩にどのような方が来ているのかと尋ねると、先輩は顎に手を当てて困った様子を見せた。
「いやぁ、それがフードを深くかぶってたからよくわからなかったんだよね、でも間違いなくここの生徒だろうし、体格的には女の子の様な気がしたけど」
女の子の訪問者、この学校内においてそんな知り合いはペラさんといじめっ子のミスズ・ワーテリオンくらいになってしまう。
後者はおそらくないとしても、他に心当たりは・・・・・・あれ、もしかしてシューさんだったりしないだろうか?
「あっ」
「ん、心当たりはあったかい?」
本当に直近の出会いを思い出しつつも、ペルツさんかもしれないと思うと、妙にワクワクとしてきた。
それにより、それまで重かった体が、急に軽くなった様な気がした。
「えっと、待たせているのなら早くいかないといけませんよね」
「あぁ、そうだねぇ」
私はすぐさま身だしなみを整え、鍛錬用の杖を抱きしめながらベリル屋敷の入口へと向かった。
訪問者だなんてめったにない出来事に心は浮ついていたが、肉体がついてきていないせいで途中何度か転びそうになった。
しかし、それでも急いでベリル屋敷の入口へと向かうと、入り口にある門のそばで人が立っているのに気づいた。




