激しい組手
「おい、そこのでかいのっ」
そんな言葉と共に現れたのはアルバ様だった。
彼は少し微笑みながらリチャードさんを見つめていた。
「強そうだなお前、俺の相手をしてくれ」
「・・・・・・すまないが、他をあたってくれ」
リチャードさんは私の事を見つめながらそうつぶやいた。
その様子はどこかアルバ様をないがしろにしている様であり。
即座に、緊迫した空気が流れた。
しかし、それを感じているのは私だけ。
アルバ様は気にする様子を見せず、再びリチャードさんに話しかけた。
「そう言うな、こんな相手だとお前も練習にならないだろう?」
こ、こんな相手・・・・・・いや、否定はできませんアルバ様。
「すまないが、俺は今、彼女の相手をしている、他をあたってくれ」
その言葉にアルバ様は軽く私を見つめてきた。
その目はまるで「またお前か」とでも言いたげな様子に見えた。
しかし、彼は何も言わずにため息の様なものをついた。
すると、彼は口元を動かした。
まるで独り言をつぶやいたかのような様子を見せた。
そして、アルバ様は持っている杖をクルリと一回転させた。
すると、ものすごい勢いでリチャードさんへと向かっていった。
それは、リチャードさんに対する挑戦的な動きだった。
そして、アルバ様は杖で思い切りリチャードさんに襲い掛かった。
すると、リチャードさんは落ち着いた様子でアルバ様の杖を受け止めた。
『ガンッ』という重苦しい音が鳴り響いた。
それは周囲で聞こえる音とは違い、はるかに大きな音であり、鼓膜に直接響いてくるような鋭いものだった。
「随分と乱暴な奴だな」
リチャードさんは呟き、アルバ様は楽しそうに笑った。
「強くなるためにやれる事はしたい、一秒でも早く成長したいんだよ俺は」
アルバ様はそう言い、リチャードさんを押し潰す様に力を込めていた。
「噂通りの男だ、だが、今はお前の相手をするつもりはない」
「そう言うなよ、あまり舐めていると痛い目にあうぞっ」
二人は互いに杖をぶつかり合わせながら、すごいスピードで攻防を繰り広げているように見えた。
その様子はどこか格好よく、思わず見とれてしまうような状況だった。
しかし、その直後互角の戦いに思われた光景が一瞬にして変化した。
それは誰の目にもわかる圧倒的な違和感だった。
つい先ほどまで、互いに地に足つけて組み手をしているはずの二人。
だが、リチャードさんが強い踏み込みと共に杖を動かした。
すると、アルバ様が宙に浮いた。
アルバ様はクルクルともすごいスピードで回転しながら、やがて地面にたたきつけられようとしていた。
だが、アルバ様は回転を支配するかの様にうまく体をねじらせると、全身を使って着地して見せた。
その様子はすぐに立ち上がることができないほどの様子であり、彼が息を荒げながら立ち上がろうとしなかった。
「ははっ、こいつは予想以上、思っているより差がありそうだ」
アルバ様は息も荒げながらにそう言うと、まだまだやる気で満ち溢れている様子で顔を上げた。
そうして、アルバ様は立ち上がって姿勢を直して構えなおした。
彼はまだまだやる気に満ち溢れている様だった。
しかし、アルバ様が再び動き出そうとした瞬間、警笛の音が鳴り響いた。
それは水原先生によるものであり、その音と共に組み手の終了が宣言された。
息を切らしたアルバ様とは落ち着いて静かなリチャードさん。
対照的な二人は互いに何も言わずにしばらく向かい合った。
その後、アルバ様が大きなため息を吐いた。
「俺もまだまだだな、お前、名前は何だ?」
「リチャード・ボーン」
「そうかリチャード、俺はアルバだ、お前とはまた手合わせをしたいんだが、その時は受けてくれるか?」
「気が向いたら・・・・・・」
そうして、二人はまるでこれまでの事がなかったかのように握手をした。
なんだか対照的の二人に見えた。
だが、握手している様子だけ見ればどこか仲良さげに見えた。
二人は握手の後、アルバ様はそのまま元居た場所に戻る様子を見せた。
そして、リチャードさんは駆け足で私のもとに来ると一礼してきた。
「すみません大角さん、せっかくの鍛錬の時間を無駄にしてしまいました」
「いえいえ、そんな、お二人の姿を見ていたら私も頑張らないといけないと思いましたよ」
「そうでしたか、まずは構えの鍛錬から始められたら良いと思います。空いた時間に構えの訓練をしてみたり、あとは気軽に杖を触ってみたりするのも良いと思います。杖道では杖と触れ合うのが一番の上達法ですから」
「わ、わかりました」
リチャードさんは、まるで先生の様に様々なアドバイスをくれた。
それだけで、彼がとても素晴らしい人であるのかが分かった。
つくづく人の出会いに感謝するばかりの私の人生。
それは、深い谷の底から、見晴らしがよく空気がきれいな山に登っていく様な幸せな気分だった。
だが、ネガティブな私は再び谷の底に落とされそうな気持ちもどこかにあった。




